閑話 21階層 陌先ョコ閠?シヲ縺ョ豸域サ
※胸糞・ホラー表現注意
はぁー! この扉だらけの変な通路、控えめに言って最高だな!
起きたらこんなワケ分からねぇトコに飛ばされてマジでビビっちまってたが、蓋を開けて見りゃまさにオレのためにある場所じゃねぇか!
最初に開けた扉の先には、死にかけの変な野郎が剣を杖にして立っていた。
それでオレを見るなり『君に託す』とか言いながら縋っていた剣をオレに投げて、一言告げてすぐ死にやがってさ。
剣を手に取ってみた瞬間に、オレの中にすんげぇ力が湧いてきてやんの。
そっからはもう無双。無敵。最強。
どうやら託されたのは勇者の聖剣だったらしく、死に瀕した勇者が認めた相手にその力の全てを継承することができるものらしい。
ドでかい岩だろうが鋼鉄だろうが、熱したバターナイフでバターを切るようにサクサク斬れるほど切れ味の鋭い聖剣と、恐竜みたいなバケモンを指一本であしらえるほどの膂力を手に入れていた。
なぜオレが選ばれたのか? 答えは単純。もう『この世界』には人間がコイツ以外にいなかったからだ。
侵略者相手に抵抗を続け、最後の一人になっても諦めないで戦い続けた結果がコレか。オレは絶対にヤダねそんなの。
『世界を救ってくれ』とか言われたけど、既に詰んでいる世界をどうしろってんだか。バカじゃねーの。
力だけもらってさっさと扉に向かって引き返して、元の通路へ戻ってくることにした。
そこからの探索は捗ったね。
そりゃもうこれまでの苦労はなんだったんだってくらい楽勝ムードで扉の先の世界を探索、というかもう観光することができた。
ただ、知らず知らずのうちにオレは勇者の遺志に縛られていたようだった。
例えばゾンビが蔓延る世界を光の魔法で浄化して消し飛ばした。
終わらない戦争を繰り返す世界に、喧嘩両成敗ということで破壊魔法で鉄槌を下してやった。
まるでなにかにとりつかれたように、色んな世界で聖剣の導くままに『正義』を執行し続けた。
そしてある時、人間に代わって魔族と呼ばれる連中が支配する世界で、老若男女問わず魔族を一匹残らず成敗してやったこともあった。
生まれたばかりの赤ん坊も、今際の際のジジイも、気が付いた時には全て手にかけていた。
この時は聖剣が特に強く反応していて、多分オレに力を託した勇者の世界と似たような状況だったからだと思う。
魔族を絶滅させてやって人間たちから感謝された時、聖剣が喜んでいるかのように光り輝いていた時には吐き気がした。
その吐き気に耐え切れず、聖剣をへし折ってから魔族の死体を踏みつけてる人間どもを全員皆殺しにしてやった。
立場によって正義も悪も簡単に変わる。
こんなもんに縛り付けられるような生き方なんかクソだと悟った。
人は自分のためだけに、ただ満足するために生きりゃそれでいいということが分かった。
そこからオレは、なにものにも縛られない本当の自由を手に入れた。
なんの義務も義理も正義もない、誰のためでもないオレのためだけの冒険をすることができるようになったんだ。
とある世界では、エイリアンを思わせるグロテスクなバケモンどもが人類へ侵攻している様子を眺めつつのんびり一服していたら、それを見た人間たちに怒鳴られたこともあった。
『なんでお前は戦わないんだ、戦え、でなければここで死ね』と銃を突き付けながら口煩く罵ってくる連中の頭を拳でぶち抜いた時、殺人の罪悪感よりも沈黙を得た爽快感のほうが勝っていることに気付いた。
別の世界では、青い星を眺めながら月面に立っている屋敷でティータイムを嗜んでる美人なお嬢さんの私室に入り込んだこともあった。
『無礼者、死で償え!』とすぐに衛兵を呼ばれて何百発もの銃弾を浴びることになったが、今のオレにはノーダメージ。
衛兵たちを魔法で全員ミンチに変えてから、お嬢さんにもてなしてもらうことにした。
泣き叫んでも許してくれと懇願されても構わず凌辱し尽くしてやり、用が済んだら空気のない月面へ生身のまま放り出してやった。
宇宙空間へ投げ出された女を見て、可哀そうとか酷いとかよりも先に思ったことは『へぇ、こんな死に方するんだ』ってことくらい。
音は聞こえなかったが、顔の穴という穴から空気や唾液や涙、そして真っ赤な血液が沸騰しながら噴き出していく様はグロテスクながらどこかシュールで変な笑いが込み上げてきて……。
奇妙な高揚感を覚えるとともに、自らの嗜虐性に気付き始めていた。
次に扉を開いた先の世界で、その気付きはある確信へと変わった。
扉の先はどこかの森の中に繋がっていて、しばらく歩いていると助けを求める女の叫び声が聞こえてきた。
声がするほうへ向かうと、山賊っぽい小汚いオッサンたちが金髪の美人を追い掛け回していた。
どうやら追いはぎかなにかに絡まれたようで、ナイフで脅されながら身ぐるみ剥がされそうになっている。
なんともベタなシチュエーションだったが、見ないフリをするのも気持ち悪かったので助けてやった。
山賊たちをぶん投げて空のお星様へと変えて、ドレスをビリビリに破られた金髪美人にマントを貸してやると、恍惚とした顔で礼を言われた。
『ありがとうございます……!』
その礼の言葉を聞いた時、なぜか酷く吐き気がした。
違う。そんなんじゃない。オレがほしいのはこんなもんじゃない。
こんな好意的な反応じゃなくて、オレは、オレはっ……!!
その好意の視線に、それを見ていて湧き出してきた吐き気に耐え切れず、気が付いたら金髪美人の胸を貫き手で貫いていた。
生暖かい温度が手から伝わってくる。
貫いた腹から血が地面へポタポタと滴る音が聞こえる。
サビた鉄の匂いが鼻に香ってくる。
なんで、と言いたげに絶望しながら血を吐き、オレを睨む女の顔が目に映った時に、理解した。
オレは、これが欲しかったんだ。
羨望でも敬意でも尊敬の念でもなく、それをぐしゃぐしゃに踏み潰してやった相手からの敵意や失望や殺意や絶望が欲しかったんだ。
ああ、なんてことだ。
こんなところにまで飛ばされて、オレは初めて自分の生きがいと性癖に気付くことができてしまった。
それが分かってからは、充実した生活が待っていた。
世界とはこんなにも彩りに満ちていたのかと、毎日が驚きの連続だ。
ある世界では空腹に倒れている浮浪者に毒混じりのパンを与えてやった。
感謝に咽び泣きながら食べ終わった後、血を吐き出しながら『なぜ』と言って死んでいく様は、浮浪者にあるまじき美しさだった。
隣の扉の先は、美術館のような場所に繋がっていた。
年代物の絵画や彫刻がズラッと並んでいて、そこで美術品に向かってペイントをぶちまけているアホどもの姿が。
警備員に運ばれていくアホどもを尻目に、汚れてしまった美術品を魔法で綺麗サッパリ洗浄してやると『急に元の姿に戻った』だの『奇跡だ』だの客や管理人たちが盛り上がっている。
全ての美術品を洗浄し終わった後、それらを魔法で粉々に砕いてやった。
そこからは阿鼻叫喚。嘆きの悲鳴を上げながら逃げ惑う人々の姿を見ることができて、酷い満足感を覚えた。
さらに隣の世界では、治水のための巨大なダムが完成したばかりだったようで、打ち上げの宴を催していた。
誰もが歓びに満ちた顔で酒をかっくらっていて、輝かしい未来を確信しているのが眺めているだけで伝わってくる。
そのダムを、魔法で爆破して決壊させてやった。
ダムの規模を見る限りじゃ、おそらく十余年スパンで建造されたものだろう。
その長い間の苦労が、文字通り水の泡へと変わっていくのを見せつけられながら溺れ死んでいく様に、性的な絶頂よりも遥かに痛快なものを覚えた。
どうやらオレは、人の喜ぶ様が絶望へと変わるのが、たまらなく好きだったようだ。
普通の生活を送っていたのなら、まず気付くことなんてできなかった。
ありがとう。
どこの誰だか知らないが、オレをここまで連れて来た存在にはただ感謝だけを伝えたい。
次はどんな世界で、どんな希望と絶望が待っているのだろうか。
サプライズを楽しむために、あえて目を瞑ったまま隣の扉の前へ足を運ぶ。
目を閉じたまま扉を開き、一歩前へすす




