坊主怖けりゃ袈裟まで怖い
遅くなり申し訳ない(;´Д`)
ちょっと仕事辞めたり色々と忙しかったのもあり……
いえすみません言い訳は止めときます。一番の原因はあとがきに載せておきますのでそちらをどうぞ。
そのあとがきになんかAI製のおねロリおっぱいが載ってるので、苦手な方はブラウザバック推奨です。
バケモンの棲む山脈から命からがら逃げ延びた翌日、すぐに街を出ることにした。
理由は単純明快。あのバケモンのいるところから一刻も早く逃げたい。それだけだ。
「一応、間に合わせの装備は手に入れたし、朝イチの特級獣車で出れば昼過ぎには次の街に着くだろ」
「獣車は死ぬほど嫌いだけど、アレの傍にいるよかまだマシだからねー……」
昨晩の出来事は俺もイツナも完全にトラウマになってる。
あれほど死を間近に感じた瞬間は生まれて初めて……いや親父と母さんの組手を見学した時以来か。
……なーんで親同士の戯れが生まれて初めての命の危機になってるんだろうなー。
せっかく工業都市くんだりまで来たってのに、結局ちょっといい装備だけ買って出ていくことになった。
なにしに来たんだ俺たちは。普通に商業都市から港町へ直行しとけばよかったぜ。
工業都市から獣車に揺られて、途中にある【ニューシーナ】って街で一泊してから港町へ行く予定だ。
案の定道中でイツナが死にそうになっていたが……。
「うっぷ……! ……ふんぬぁあっ!!」
ズゴォンッ と鈍い打撃音が馬車の中に響いた。
「きゅぅ……」
「……何やってんだコイツ」
急に持ってた盾に向かって頭突きをかまし、自ら意識を絶つことで乗り物酔いを回避する暴挙に出やがった。
……自滅して頭を打つ痛みより乗り物酔いのほうが嫌なのか。たんこぶできてんぞ。
「おやおや、そっちの嬢ちゃん気分が悪いのかい?」
「オレらが介抱してあげよう。ほらほら、こっちきなよ。すぐ気持ちよぉくしてやっからさぁ」
「ぎゃはははっ! テメェのくっせぇニオイ嗅いだらまた気分悪くなるだろうがよ!」
……馬車の奥で酒を飲んでいたガラの悪い連中が、こっちに寄ってきて声をかけてきた。
イツナなら気絶してるっての。見て分かんねぇのか。
「んー? お嬢ちゃん、おネムみてぇだな。寝たまんまじゃちと物足りねぇけど、こんだけ可愛けりゃ別にいいや」
「アレコレ言う手間が省けた。それじゃあこっちに―――」
「殺すぞ」
イツナに手を伸ばしてきた連中の首元に剣を突き付けながら警告した。
これは脅しじゃない。指一本でも触れようもんなら迷わずぶった斬る。
「ひ、ひぃいっ!?」
「や、やだなぁニイちゃん、じ、冗談だって! なぁ?」
「お、おう、冗談冗談! しっつれーしましたぁ!!」
本気で言っていることくらいは分かったのか、情けない声を上げながら奥のほうへ引っ込んでいった。
……はぁ、やっぱ外だとこういったボケどもに絡まれることもあるんだなぁ。鬱陶しい。
結局イツナはニューシーナに着くまで気絶したままだったが、変なのがちょっかいかけようとしてきたこと以外はトラブルもなく到着できた。
この街はあくまで中継地点みたいなもんだが、この際ちょっと観光を楽しむのも悪くなさそうだ。
「あ゛ー……あだまいだいぃ……!」
「あんな勢いで頭突けば当たり前だろうがアホ」
「いてて……まあ打撲くらいなら普通の回復ポーションで治るからいいけどさ。酔い覚ましに状態異常回復ポーションを飲むのはもったいないし、こっちのほうがお得でしょ」
「ポーション代節約のために気ぃ失うほど強くアタマぶつけんな。下手すりゃ死ぬぞ」
状態異常回復魔法でも使えりゃそんなことする必要もないんだろうが、俺はまだ見習いパラディンだから無理。
しばらく車に乗る時は気絶したまま移動するのが常になりそうだ。……ホントに死ぬぞお前。
「ところで、なんかあっちの酔っぱらいたちのほうを睨んでたけど寝てる間になんかあった?」
「……いや、特になんもなかったよ」
ニューシーナはなんというか、可もなく不可もなくといった街だった。
ダイジェルほど小さくはないが、ヴィンフィートほど大きくもない。
強いて特徴を挙げるとしたら、やたら小さな子供が働いているのが目に入ることくらいか。
「いらっしゃいませー! そちらのお兄さん、ポテチはいかがですかー!」
「よーし、できたぞー! 親方、こんな感じでどうかな?」
「はんちょー! モップがけおわったー!」
露店を出して物を売ってる子供や、テーブルや椅子なんかの家具を作っている子、建物の清掃作業をしている子もいる。
成人前の小遣い稼ぎにしちゃやけに仕事が丁寧というか、どの子も真剣に働いている様子だ。
「そういや、この街の孤児院が子供たちの将来のために職場体験の訓練だかなんだかやってるとか聞いたことがあったわ」
「職場体験?」
「成人前の子供に、スキルに合わせた職場で定期的に働かせる訓練をさせて、成人したらスムーズに就職できるようになってるとかなんとか」
「へー、よく子供たちが文句言わねぇもんだな」
「文句言って働くのを拒否したり怖がって外に出たがらない子は、他の施設に預けられるみたいだけどね。まあ無理に働かせるのも問題だろうからねー」
あ、そのへん割とシビアなのね。
あくまで自立しようとする意志がある子供を手助けするシステムってわけか。
「にしても、成人前の子供を働かせてくれる職場なんかよくあるもんだ。足手まといがいるようなもんだろうに」
「職場体験させてくれるところには補助金が出るらしいよ。それに、うまくいけば将来自分の仕事の戦力として活躍してくれるかもしれないだろうし」
「やけに詳しいなお前」
「いつごろか、お茶飲みながらレイナ姉さんとパパがこの街のことを話してたからねー」
姉さんと親父がねぇ。
……まさか、その孤児院の運営にまで手ぇ貸してねぇだろうな。
親父ならわざわざそんなシステムを作らなくても、力ずくでなんでも解決できそうなもんだが。
「せっかくだし子供たちの屋台でなんか買ってかない? あのポテチとか普通に美味しそうだし」
「ポテチかぁ、親父が時々作ってたけど他で見るのは初めてかもな」
「だよね。そんじゃちょっと買ってくるわ」
「いらっしゃいませー! 今日のオススメはバター味とガリク味でーす! いかがですかー!」
元気に呼び込みをしているチビッ子たちのポテチを購入して実食。
ところどころちょっと焦げてるけど、それほど見た目は悪くない。味のほうはどうかな。
「!」
「あ、うまーい!」
……うわ、確かに美味い。
親父の味付けとはまた違ったフレーバーだが、どちらも癖になる美味さだ。
パリパリとした食感で塩加減もほどよく、子供が作った味とは思えないくらいよくできてる。
「あー、うまー。こうして現地で食べ歩きしてると、なんか旅してるなーって気分になるよねー」
「だな。にしてもあの店、子供たちだけで営業販売してるってのもすげぇ話だが、大人の手助けなしで大丈夫なのかねぇ」
「さすがに裏方には誰かの助けがあるだろうけど、ガキの店だからってガラの悪いヤツがイチャモンつけてくることはあるかもねー。……って言ってるそばからなんかやってるし」
「え? ……うーわ、またアイツらかよ」
ポテチを売っている屋台に、ガラの悪い連中が何かイチャモンをつけているのが見えた。
馬車でイツナにちょっかいかけようとしてきたバカどもだ。
「おい! この店ぁガキがモノ売ってんのかぁ!?」
「こぉんなマズいモンに金なんか払えっかよ!」
「ペッペッ、舌が腐っちまうぜ! おい慰謝料出せよオラァッ! 店ごとテメェらの顔ぶっ潰されてぇか!!」
ポテチをわざわざ店の前で見せびらかすように食べて、ロクに味わいもせずに吐き捨てながらクソみたいなクレームを喚いている。
……一回シメとくか? 少なくともテメェらのツラのほうがよっぽどマズく見えるわ。
つーか周りの大人たちもなに呑気に見物してんだ。助けてやれよ、薄情な。
「うわ、アイツら他所もんか?」
「おいおい、死んだわアイツら」
「あーあ、よりによってワットラーンの子たちに手ぇ出そうとするなんて……」
「自業自得とはいえ、もうなんか哀れすぎて笑えてくるわ」
……?
見物してる野次馬たちの様子がなんだか変だ。
子供たちの心配どころか、むしろ難癖付けてるチンピラたちを哀れんでるような……?
「慰謝料も返金もできませーん。おかえりくださーい」
「はぁー? テメェ、舐めてやがんなぁ!? よぉし、ならちょーっと分からせてやるぜクソガキがぁ!!」
売り子をしている子供の胸倉を掴んで、拳を振り上げている。
おいおい、アイツらマジで殴る気かよ。
戦闘職が未成年に暴力振るうなんて、下手すりゃ殺しちまうぞ。
しゃーない、ここは割って入ってボコボコに――――
「こぉぉおおおおるぁぁぁぁあああっ!! ウチの子たちになにしとんじゃボケェエエッ!!!」
『ガルァァァアアアアアアアッッ!!!』
!?
チンピラを止めようとしたその時、誰かの大声と獣の咆哮が響いた。
ビリビリと空気が揺れるような、凄まじい威圧感。
「う、うわぁああっ!!?」
「な、な、なんだよ、このバケモンはぁああ?!!」
屋台の裏から出てきたのは、体高8mはあろうかというドデカいオオカミ型の魔獣だった。
全身が黒い毛並みに覆われていて、額に三日月のような白い模様がある。
「う、嘘……!? あのモフモフ、ルナフェンリルじゃないの!?」
「る、ルナフェンリル? イツナ、知ってんのか?」
「Lv70台のSランク魔獣だよ! あそこまで進化してるのは本当に珍しいんだよ!? すごーい!!」
レアな魔獣を見て大はしゃぎしているが、どうしてこんなデカい魔獣が街中にいるんだよ!?
……って、よく見たら首輪着けてる? 誰かの従魔なのかアレ……?
あ、よく見たら魔獣の頭に誰か乗ってる。
金髪の、20代半ばくらいのネェちゃんが怒った様子でチンピラたちに啖呵を切った。
「そこのチンピラども! ウチの子に手ぇあげるとはいい度胸してるじゃないの! やっちゃえワンシャン!!」
『グゴァァァアアッ!!!』
「ひ、ひぎゃぁぁあああっ?!!」
「ぐふぇえええっ!!」
噛みつくでもなく爪で引き裂くでもなく、ただ吠えただけでチンピラどもが吹っ飛んでいった。
おいおい、とんでもねぇ強さだな……!
今まで見た魔獣の中でもかなり強い。多分、ヒヨコ隊長の次ぐらいに強いぞコイツ!
「あーあーあー、やっぱこうなったかー……」
「ミーアちゃんおつかれー。子供たちに絡んでくるヤツなんか最近じゃ珍しかったけど、やっぱ時々出るもんなんだねぇ」
「ま、こんだけ弱かったらワンシャンの運動にもならないけどねー」
『オンッ』
……あの魔獣、ワンシャンっていうのか。名前可愛すぎだろ。
にしても、よくこんな強そうな魔獣を従えられたもんだ。まだあんなに若いのに。
って、おい、イツナ。
なんでそのオオカミのほうへ近づいてんだオイ。
「あのー! すみませーん! ちょっとこの子モフってみてもいいですかー!?」
『……オゥン?』
「え、誰? ……いや、別にいいけどさ」
「よっしゃぁあ!! は~モフモフモフ、天国ぅ~……」
「ワンシャンを見て怖がらないとか、なかなか度胸があるねこの子」
ああ、いつもの病気が……。
放っておいたらいつまでやってるか分からねぇし、さっさと引き剥がすか。
「こらイツナ、そのへんにしてさっさと離れ―――」
『オンッ? ……ギャインッ!!?』
「……えっ?」
「ぬわぁっ?!」
イツナに無抵抗でモフられていたオオカミが、俺のほうを向いた途端に悲鳴を上げて飛び退いた。
ど、どうしたんだ? 俺の顔になんかついてたのか?
『キャインキャイン!!』
「ちょちょちょ!? わ、ワンシャンどこ行くのー!!?」
甲高い鳴き声を上げながら、飼い主を乗せたまま走り去っていった。
……なんだったんだ?
「ユーブ、ひどーい。なにいじめてんのさー」
「いやなんもしてねぇよ!? ただ声かけただけだろうが!」
……なんか、俺悪いことしたのか? 解せねぇ……。




