甘やかしてばっかではダメだ ダメだっつってんだろ!
結果から先に言うと、ミルティムことミルム君はローアとセレネの二人と一緒に、成人した時点でパーティを組むことにしたようだ。
誕生日も近いから誰かが出遅れるようなこともないだろうし、なにより彼が入ったことでほどよく前衛後衛のバランスがとれるようになる、はずだったんだが……。
百聞は一見に如かずということで、弱い魔獣相手に実戦形式で戦ってもらって、何ができるのかを見せてもらったんだが、正直言って酷い有様だ。
今もセレネと一緒に魔獣へ突撃しようとするところで、ミルム君が躓いて連携が乱れた。
「あいたっ!? あ、あぅぅ……」
「大丈夫か? 緊張しすぎだ、もう少し肩の力を抜くといい」
「す、すみません……」
「……ホントに戦力になるの? ずっとガチガチで全然まともに動けてないけど」
セレネとローアをサポートしようと状況をよく見ようとしているのは分かるが、動きがぎこちない。
あと武具を全然使いこなせていないように見える。
ミルム君は多くの装備を抱えていて、見るからに重そうだがどれも比較的軽い装備で動くのには問題ないらしい。
近距離には剣と盾、サブウェポンに短剣。
遠距離用には弓を背負って攻守遠距離全てに対応できるようにしているんだとか。
さらに武器を組み替えることで槍や棍棒のように扱うこともできるようだが、随分と芸達者だな。
でも至近距離の魔獣相手に弓で立ち向かおうとしたり、逆に遠距離の相手にわざわざ剣を投げつけたり、ちょっと扱い方がポンコツ過ぎる気が……。
ネオラ君はミルム君のことを将来有望だと言っていたが、数多くのスキルを取得している割にそれらを活かせていないのが残念過ぎないか。
「いや違うんだよ。アイツ、緊張してると判断力がゴミになってありえないくらいポンコツになるんだよ……」
「……まあ初めての協力戦闘だから緊張するのも分かるけど、それにしたってドジが過ぎないか?」
ネオラ君が苦笑いしながら我が子のポンコツぶりを眺めているが、笑ってる場合ちゃうぞ。
セレネとローアのサポートをするどころか、むしろ二人がミルム君を介護しているような有様だ。
正直言って足手纏いもいいとこだが、ホントにこの子大丈夫なのか……?
「……正直言って、足手纏い。もっとキビキビ動いてほしい」
「うぅ……ごめんなさい、やっぱり僕なんかじゃ役に立てないみたいです……」
「ま、まあまあ、まだ初日だし、少しずつ慣れていけばきっと大丈夫だろう。……多分」
「いつまでもウジウジされてても困る。嘆いてる暇があったら手を動かして」
「は、はい……」
「あとセフレに手を出したら殺す」
「ふぇ!?」
セレネと二人きりでパーティを組んでいたのに、間に入ってこようとするミルム君に対して、ローアはちょっと敵意を向けている様子。
でも決して『いらないから帰れ』とか、露骨に追い出そうとするようなことは言っていないあたりなんだかんだ面倒見がいい。
……でも、いい加減ミルム君も慣れてもらわないと困るんだが。
「ミルム君がパーティ組めないのって、あんな感じで協力して連携しようとしても上手くいかないからってのもあるんじゃないのか?」
「かもな。どうしたもんかねぇ……」
「そりゃこっちが聞きたい。緊張してるせいでうまく動けないって話だけど、いつまでもあんな調子じゃ……ん?」
『ギィッ!』
『ギギィッ!!』
ネオラ君に文句を垂れながらローアたちの様子を眺めていると、草陰からゴブリンが4~5体同時に飛び出してきた。
ローアたちを狙って出てきたようだが、あの数を相手するのは今のあの子たちじゃちとキツい。
仕方ない、適当に追っ払って……おっと?
『ギィイッ!!』
「うわ!?」
「セフレ、危ない!」
セレネ目掛けて2体のゴブリンが飛びかかってきたのを、ローアが迎撃。
投擲用の円盤をゴブリンたちへ目掛けて投げた。
『ゴブァッ?!』
『ギャウッ!!』
片方には当たったが、もう一方は逸れて外してしまった。
……と思ったが
「はっ!」
『ゴベッ!?』
あらぬ方向へ飛んでいくはずだった円盤を、ミルム君が剣で弾いてゴブリンへ命中させた。
……あの一瞬で円盤が一枚外れるのを見抜いて、それを打ち返して当てやがった……。
『ギイィ!』
『ギリィッ!!』
今度はお返しと言わんばかりに、後ろにいたゴブリンたちが石を投げてきた。
単なる投石とはいえ、頭に当たったりしたら普通に大怪我するほどの威力はあるだろう。
「僕が防ぎます! その間に反撃を!」
「っ!」
ゴブリンたちの投石を盾で防ぎ、それと同時にセレネたちへ反撃の指示を出して、スムーズな連携ができるようにタンクとして立ち回っている。
「くらえっ!」
『ギィッ!』
「このっ!」
『ギギッ! ……ギャッ!?』
ローアが円盤を投げ、セレネは剣を構えてゴブリンへ突っ込んでいく。
投石していたゴブリンたちもローアとセレネへ向き直り、棍棒へ持ち替え迎撃しようとしていたが、ミルム君が盾をゴブリンの顔面に向かってぶん投げて大きく怯ませた。
「そこだっ!」
『ガベッ……!』
「よし、あと2体!」
『ギイィィイイッ!!』
『ギイィッ!』
「あっ……!?」
一体仕留めたと思ったら、残ったゴブリンたちが2体がかりでセレネの剣を引っ叩き、弾いた。
剣が手から離れ、無防備になったセレネにゴブリンたちが殴りかかってくる。
「させない!」
『ギィッ!?』
「セレネさん、使って!」
「!」
そこをローアが円盤を投げて援護し、怯んだところでミルム君がセレネに向かって自分の剣を投げ渡してフォロー。
丸腰の状況でゴブリン2体に袋叩きにされるところだったが、どうにか武器を確保できた。
『ギャリャァァアッ!!』
『ギイアアアアッ!!』
「ひいぃ!?」
……結果、ミルム君の手元には何も残らず、さらにさっきから援護してるのが鬱陶しかったのか、ゴブリンたちの怒りを買ってしまったようだ。
セレネを助けようとして自分が危機に陥ってどうする。
棍棒を振り回しながら追いかけてくるゴブリンたちから、涙目になりながら逃げ回っている。
「ローア! 助けるぞ!」
「いい加減しつこい!」
『ゴベッ!? ゴファッ……!!』
ローアが円盤を当てたゴブリンにセレネが追撃し、さらに1体仕留めた。
これで残るはいまだにミルム君を追い掛け回している1体だけだ。
『ギイィィイイィ!!』
「うっ!? うぅ……っ!」
しばらく逃げ回っていたが、進行方向に大きな岩山があって逃げ道がなくなった。
そして、覚悟を決めたようにゴブリンに向き直った。
『ギイィッ!!』
ゴブリンがミルム君に棍棒を振り下ろした。
まずい、セレネとローアは間に合わない。助けないと……!
「手ぇ出すな!!」
「っ!」
俺が割って入ろうとしたところで、ネオラ君が怒鳴って制止した。
今まさに自分の息子がゴブリンに殴り殺されようとしているのにもかかわらず、だ。
俺を止めたネオラ君の顔を見ると、口の端が血で滲んでいるのが分かった。
「ぐぅっ……! う、ううぅ~~~っ!!」
『ギ、ギィイ!?』
頭に向かって振り下ろされた棍棒を、ミルム君は左腕で防いだ。
棍棒が当たった時に骨が折れるような音がしたが、痛みに顔を歪めながらも耐えている。
「やあぁああっ!!」
『ガ、ハッ……!!』
腰に差していた短剣を右手で抜き、ゴブリンの喉元へ突き刺して捻り、仕留めた。
棍棒を避け切れないとみて、瞬時に左腕を捨てて残った右手で仕留める判断をしたのか……!
「や、やった……」
「ミルム!」
「だ、大丈夫か!?」
ゴブリンを倒したことに安心して、その場にへたり込むミルム君。
ローアとセレネが心配そうに駆け寄っていくのを眺めながら、ネオラ君が口を開いた。
「なあ、オレの子は、強いだろ?」
「……ああ、超カッコいいな。男らしいよあの子は」
「オレの息子だ、当然だろ。……って、早く治してやらねぇと!」
歯を食いしばりすぎて滲んだ血を拭いながら、笑顔でそう言うネオラ君は嬉しそうだった。
甘やかすばかりじゃなくて、ちゃんとこうやって根性見せるべきところで踏ん張らせるのがネオラ君の教育方針のようだ。
そんなスパルタな一面を見せたかと思いきや、すぐさまミルム君の傍まで駆け寄っていく様は紛うことなき母親ゲフンゲフンッ もとい父親の姿だった。
「ミルム、腕を見せて」
「……折れてるな、コレ」
「すごく腫れ上がってる……」
「ううぅ……! さ、触らないで、痛いです……!」
「ローア、折れた腕をツンツンするのはやめろ!」
「ミルム、よく頑張った! すぐ治してやっから待ってろ!!」
ミルム君の様子を見た時、最初の間はどうなることかと思ったが、いざという時にはかなり動けるようで安心した。
ワンマンでどうにかするでもなく、きっちりセレネやローアの協力を仰いでいたのもポイント高い。
……後は、危機に陥るたびにこんな大怪我しないように注意するくらいか。
その後、ミルム君は正式にセレネとローアの二人とパーティを組むことになった。
後のローアいわく『肝心な時にしか頼りにならない』とか言われていたが。貶しているのか褒めているのかどっちだそれは。
ひとまずこれでミルム君の件はどうにかなったと見るべきか。
……にしても、ネオラ君って案外スパルタというか熱血というか、意外な一面があったんだな。
さて、俺もウチの子たちの成人する日に向けて色々と準備しとかないとな。
えーと、まず誕生日祝いにドラゴンのフルコース作ってケーキも作ってプレゼントの発注もしてユーブが日本刀欲しいって言ってたから如月さんに融通してもらうように頼んでイツナには動物園連れてってあげて(ry
……あれ? もしかして俺って我が子たちを甘やかしてばっかりだったりする? ネオラ君みたいにもっと厳しい面とか見せておくべきだったりするのかな……?
い、いや、誕生日祝いだし。成人祝いだしこれくらいしてあげて当然だろ。うん。




