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新たな生活と、その出会い

 閑話よりも今はさっさと本編進めるべきかと思ったので投稿。


 今回から最終章となります。

 しばらくはとある子供の視点で物語が動いていきますが、あくまで主人公はあのバケモンたちですのであしからず。

 

 一週間前から住んでいる引っ越し先だが、朝早くから聞こえてくる鳥の声が煩わしい。

 こんな片田舎に住んでいるのだから仕方がないのだが、もう少し眠らせてほしいものだ。

 ……二度寝しようにも半端に眼が冴えて寝付けない。さっさと起きて顔を洗ってしまおう。



≪おはよう、セレネ。早起きは三文の徳というが、少し早すぎやしないか? まだご両親も眠ったままだろうに≫


 おはよう。今更無理に寝ようと思ってもイラつくだけだ。

 散歩のついでに森で食べられそうな木の実でも採って時間を潰すことにするよ。


≪そうか、無理はしないように≫



 目の前に表示されている青い画面の文字に、心の中で応対してから玄関を出て森のほうへと足を進めた。

 ……思えば、コイツとも随分と長い付き合いになるな。




 まだ薄暗い森の中をテクテクと歩きながら、まだ寝ぼけている頭で今日の予定を考えておかないと。

 森での散策の後に朝食をとって、冒険者ギルドで薬草採取の簡易依頼を受けて、ああそれから引っ越したばかりで足りないものを買わないと。

 あと風呂場も隙間風が吹いて寒いから埋めておく必要があるし、いやその前に薪も割っておかないと。

 ……ざっとやることを確認しただけで疲れてきたんだが。



≪少々働きすぎではないか? まだ十の身空でそこまで頑張らなくともいいと思うが。君くらいの年齢ならば、友人と遊ぶ時間を大事にするべきでは?≫


 私に友人なんかいないことはお前が一番分かってるだろう。

 少なくとも、この世界では。


≪せっかく引っ越してきたのだから、心機一転して友人作りに精を出すことも悪くはないと思うが……≫


 友とは作るものじゃない、いつの間にかなっているものだ。

 今時『私と友達になってくれませんか?』なんて言ってくる人なんかそうそういないと思うぞ。


≪君の容姿でそう言われれば喜んで友になってくれる者は大勢いるだろうに≫


 外見目当てに近付いてくる奴なんかこっちから願い下げだ。

 ましてや10歳程度のクソガキどもに好かれて何が楽しい。


≪……周りの人間を見下すような言い方はあまり感心しないな。君も今はそのクソガキの年齢だろうに≫


 遺憾なことにな。

 まったく、さっさと成人したいものだ。


≪変わらないな、君は。赤子のころから『一日も早く乳飲み子から卒業したい』とか、『早く自分の足で歩きたいものだ』とか、現状への不満ばかり。今しかできないことは沢山あるだろうに≫


 向上心が旺盛と言ってほしいな。

 今の自分にできることは、将来のために備えておくことだ。

 ……自分の無力を呪いながら死んでいくことなんか、もう二度とごめんだからな。


≪君一人で頑張らずともいいだろう。一人ではどうしようもない状況というのは往々にしてあるものだ≫




 目の前の画面と声のない会話をしばらく続けながら歩いていると、薄暗かった森の中に眩い日の光が差し込んできた。

 そろそろ両親が起き始めるころだし、家に帰るとしよう。



≪!? 伏せろ!≫



 !

 赤い文字で表示された警告文が目の前に展開され、反射的に地面へ伏せた。

 伏せた頭の上を、何かが風を切りながら通過した。

 なんだ、いったい何が起きた!?



『グルルル……!』


「なっ……」



 咄嗟に顔を上げると、そこには首から上に犬の顔がついた人型の生物がいた。

 こいつは……!




 魔獣:コボルト 

 Lv5

 状態:空腹


【能力値】

 HP(生命力) :62/62

 MP(魔力)  :24/24

 SP(スタミナ):23/84


 STR(筋力) :81

 ATK(攻撃力):77

 DEF(防御力):71

 AGI(素早さ):91

 INT(知能) :29

 DEX(器用さ):19

 PER(感知) :142

 RES(抵抗値):14

 LUK(幸運値):13


【スキル】

 魔獣:Lv1 爪術:Lv1




 ステータスを確認してみたが、誰かが被り物をしてふざけているわけではなさそうだ。

 魔獣か、人型に近いやつを直接見るのは初めてだな。



≪はぐれ魔獣だ! 走れ! 逃げろ!≫


「くそ、なんだってこんなところに! テリトリーの近くでもないだろうに!」



 悪態をつきながらも素早く立ち上がり、全力で足を動かした。

 成人前の状態じゃ魔獣相手に勝ち目なんかない。

 家まで逃げて、戦闘職の父親に助けを求めなければ。



『グアァアウッ!』


「くっ!」



 コボルトが鋭い爪を光らせながら、腕を振り回してくる。

 引っかかれた木の幹に深々と切り傷が走っていく。

 もしも最初の攻撃を伏せて避けていなければ、そのまま斬り殺されていただろう。


 このまま鬼ごっこを続けていても、おそらく逃げ切れない。

 自分のステータスをコボルトのものと見比べて、思わず歯噛みした。




 セレフレネ

 年齢:10

 種族:人間

 職業:未成年

 状態:空腹

【能力値】

 HP(生命力) :30/30

 MP(魔力)  :30/30

 SP(スタミナ):12/30


 STR(筋力) :40

 ATK(攻撃力):40

 DEF(防御力):35

 AGI(素早さ):58

 INT(知能) :87

 DEX(器用さ):87

 PER(感知) :59

 RES(抵抗値):12

 LUK(幸運値):33


【スキル】

 剣術Lv1 体術Lv1 拳法Lv1 投擲Lv1 料理Lv1 書記Lv1 道具作成Lv1 清掃Lv1 鑑定Lv1   





 こちらが勝っているのはスキルの数くらいで、それも大半が戦闘には向かない。

 こんなステータスでは野生の魔獣相手にはあまりにも心もとない。

 生まれつき持っていた剣術と拳法のスキルがひどく頼りなく思える。

 素の能力値ではほとんどダメージを与えられないし、真剣を装備しても今の膂力では武器に振り回されてまともに戦うどころではないだろう。


 だから腕っぷしではなく、知恵を使おう。

 逃げている最中に、あえて足を止めた。



『グル……グァアアウッ!!』


「……かかったな、マヌケが!」


『ベファ!? ギ、ギ、ギャァアア?!!』



 大口を開けながら迫るコボルトの顔面目掛けて、護身用に作っておいた催涙玉を投げつけた。

 卵の殻の中にトウガラシやコショウを詰め込んだだけのオモチャみたいなものだが、顔中の粘膜にぶちまけられればご覧のとおり。

 顔を押さえて蹲るコボルトを尻目に、ひたすら走ってわが家を目指した。


 これで大分距離が稼げるはずだ。

 家まではあと300メートルほどか、早く、早く……!?



「うっ……! ケホッ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」



 息が苦しい。

 手足が重い。

 全身がだるい。

 心臓が肋骨の内側から胸を強打してくる。

 あと少し、あと少しで家に着くのに、少し全力で走り回っただけで、体が言うことをきいてくれない。

 助けを呼ぶために叫ぼうにも、息が乱れすぎてて声が出ない。

 くそ、なんて貧弱な体だ……!


≪いきなり魔獣に襲われて軽くパニックになりながら動いたんだ、無理もない。落ち着け、焦る気持ちは分かるがこのままでは酸欠で意識を失いかねないぞ。息を整えるんだ≫


 言われなくても分かってる。

 亀みたいに遅い足取りで前へ進みながら、ゆっくりと呼吸をして体を落ち着かせていく。

 何度か深呼吸をして少し楽になってきたところで、後ろから足音が迫ってくるのが聞こえた。



「……もう、追いついたのか……!」


『ガルルル……!!』



 怒りに体を震わせながら、血走った目でこちらを睨みつけるコボルト。

 見ているだけで竦み上がりそうになる迫力。

 絶望的な状況だ。



≪諦めるな! 叫べ! 大きな声で助けを呼べ! もう家が近いから必ず気付いてもらえるはずだ!≫


「うっ……!!」



 メニューの言うとおりに叫ぼうと息を大きく吸い込んだが、すぐに吐き出してしまった。

 な、なんでだ、なぜ、声が出ない……!?



「ガルァアア!!」


「ひっ……」



 自分の喉から出たか弱い悲鳴が出たことで、声が出ない理由が分かった。

 ……ああ、そうか、怖いのか。

 怖すぎて声すら出ないほどに、今の私は追い詰められている。

 体も心も、目の前の恐怖に屈しそうになっているんだ。


 ああ、ああ、くそ、くそ、なんて無様だ、なんて無力なんだ私は。

 二度とこうならないように、自分一人でも生きていけるように努力してきたつもりが、この有様か。

 ……いや、そもそも一人で生きていこうなんて考えていたことが、間違いだったのかもしれない。


 私は、弱い。

 まだクソガキだからではなく、こうなる前から私は弱かったんだ。

 だから、だから……


 ……だからって、諦めきれるか!



「あ、あ! ああぁ! あああああああっ!!」



 それは、言葉にすらなっていない、滑稽な叫びだった。

 助けて、と喋ることすらできない喉と舌から吐き出された、しかし自分にできる精一杯。

 これだけの大声なら、なんとか父に気付いてもらえるかもしれない。そう信じて。



『ガァァアアッ!!』


「あ……」



 コボルトの爪が、私の眼前に迫る。

 避けられない、当たる。殺される。死ぬ。

 それでも、最後まで目を逸らさずに目を見開いてやった。




 あと数センチで顔面を引き裂こうとしていた爪が、ピタリと止まった。

 ……?




『が、ガルッ……!?』


「おいおいおい、なんでこんなトコにコボルトがいるんだよ」



 誰かが、コボルトの腕を掴んで止めているのが見える。

 それは、今の私と同い年くらいの、黒髪の少年だった。

 髪の色や顔つきも相まって、日本人によく似ているように見える。


 それと同時に、そのすぐ後ろに同じくらいの背丈の少女が二人いることに気付いた。




「なんでだろうねーワタシワカンナーイ」


「私、知ってる。イツナが飼いたいって無理やり連れて帰って、結局ダメだって言われて放っておいたのがはぐれになってさまよってた」


「ちょ、バラすなし! 今この状況でバラすなし!」


「お前のせいかよ!? マジふざけんなお前! もう少しで人が死ぬところだったんだぞ!」


「なにさ! まるで私が全部悪いみたいな言い方して!」


「お前が全部悪い!!」


「イツナが全部悪い」



 ……なんだ、この子供たちは。

 どこから来たんだ、いつの間にそこにいた?

 どうやって、コボルトの攻撃を防いだんだ……!?



『グアアア!!』


「やかましい!!」


『ギャゴブェッ!!?』


「なっ……!」



 右腕を摑まれていたコボルトが今度は左手で少年に斬りかかってきたが、事も無げに殴り殺してしまった。

 お、おかしい、明らかにおかしい。

 何か膂力を強化する装備でも身に着けているのか、いやでも成人前の子供の膂力を強化したところで、大して上がらないはずだぞ。



≪こ、この少年……!? ありえない、なんだこの子は!?≫


 ……メニュー? どうしたんだ?


≪……この子の強さを、確認してみるといい≫


 なんだというんだ? この子のステータスが、どうかしたのか?






 ユーブレイブ

 年齢:10

 種族:人間

 職業:未成年

 状態:正常

【能力値】

 HP(生命力) :30/30

 MP(魔力)  :30/30

 SP(スタミナ):27/30


 STR(筋力) :55

 ATK(攻撃力):55

 DEF(防御力):48

 AGI(素早さ):61

 INT(知能) :66

 DEX(器用さ):54

 PER(感知) :87

 RES(抵抗値):18

 LUK(幸運値):64


【スキル】

 剣術Lv1 攻撃魔法Lv1 体術Lv1






 ? この歳でスキルが三つあるのは大したものだが、それ以外はごく普通の未成年のステータスだと思うが。


≪そっちじゃない。……ステータスの上にある表示を見てみるんだ≫


 ステータスの、上?

 ……え?



 名前:ユーブレイブ

 種族:人間

 年齢:10

 性別:男

 職業:魔導剣聖

 職業レベル5

 職業能力値:612




 ………なんだこれは。

 ステータスの上に、なにやら見慣れない表示が見えるんだが。

 この子は、いったい……?


 あと、来週の木曜あたりにちょっと告知をさせていただきたく存じます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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