きけんぶつとりあつかいちゅうい おしたらしぬで
ご無沙汰しております(;´Д`)
引っ越しやらなんやらで非常にゴタゴタしておりまして、なかなか更新できない状況が続いておりますorz
先月に第二巻も発売と相成りまして、御購読されてくださった方々には感謝、圧倒的感謝の極みでございます。ありがとうございます!
コミカライズ企画も順調に進行中で、『神眼の勇者』のコミカライズも担当していらっしゃる『白瀬 岬』先生に描いていただくことになりました!
サンプルとして前書きにはカジカワを、あとがきにアルマの設定画を載せさせて頂きます。もちろん許可済み。
書籍版に対してちょっと垢抜けたような印象ですね。
脳内のネタ描写が大幅にカットされているのではたから見てると普通に常識人っぽく見えるコミカライズ版カジカワ。漫画が公開されるのがいつになるか、確定次第また連絡させていただきます(`・ω・´)ゞ
気が付いたら、薄暗い牢獄の中にいた。
またブタ箱の中にでも戻ってきたのかと一瞬勘違いしそうになったけれど、すぐに違う場所だと分かったのは、声をかけられてすぐのことだった。
「目が覚めたかい?」
「っ!? あ、あんたは……!」
「いい格好だねぇ。やっぱりあの冴えない教官なんかの鍛錬じゃあ大した成果はでないみたいだねぇ」
「くっ……!」
鎖に両手足を繋がれている私を蔑みながら、いやらしい笑みを浮かべている男の声が耳に入ってきた。
煩わしい、気色悪い、いいようにされているのが悔しくてたまらない。
私を攫ったのは、かつて私の財産を持ち逃げした元恋人の男だった。
その赤い髪と、自信に満ちた眼と、見た目だけは端正な顔立ち。
かつてと変わらないその姿と声を、目の前に晒している。
油断した。
今日も地獄の鍛錬を終えて、フラフラになりながら街のカフェで休んでいたところで、不意に声をかけられたところまでは覚えている。
「待ったよ。君が呑気に孤立してくれるのをね」
「……え?」
その一言だけ聞こえた直後、急に意識が薄れていって、目が覚めたらこの有様だった。
どうやらこの男に眠らされて、そのまま拉致された挙句拘束されたようね……。
……くそ、あの教官たちとの組手の影響で、危機感知が妙に鋭くなったのが裏目に出たわね。
身の危険に対して敏感になった反面、雑魚同然の相手からの敵意や害意に鈍くなってしまったみたいだわ。
そもそも、どうやって私を眠らせたのかしら……。
私も既にLv70を超えていて、既に特級職へとジョブチェンジしている。
抵抗値もそれに見合った値にまで上がっているし、生半可な薬やスキル技能じゃ状態異常に陥らせることなんてできないはず。
となると、薬やスキルとは違う「何か」で眠らされた? ……いったい、どんな方法で……。
「さて、ここがどこなのか、なぜこんな所にいるのか、気になるかい? 気になるだろう? 教えてあげよう、感謝したまえよぉ」
……うっざ。聞いてもないことを得意げに語りながらダル絡みしてくる癖、まだ治ってなかったのね。
前から思っていたけど、コイツは自信過剰通り越してもうただの鬱陶しくて面倒くさい奴なんじゃないかしら。
付き合い始めのころはここまでじゃなかったと思うけど、今となってはただただ不快だわ。
「どうでもいいわ。どっちにしろ、もうアンタの破滅は確定してるんだから」
「……なに?」
「あの教官の恐ろしさをアンタは全く理解してないって言ってんのよ。たとえこの星の反対側までトンズラしようとも、あの教官からは逃げられない。私を攫ったことなんかすぐに察知して殴り込みに来るに決まってるわ」
「……はははっ! 何を言い出すのかと思ったら、そんなことか。心配いらないよ、ここは世界のどこにも存在しない場所だからね」
「っ? ……どういう意味?」
「追跡系のスキル対策に、特別な別荘を購入したんだよ。外からだとただの建物にしか見えないが、扉の先は別の世界に繋がっていて空間的に断絶されているらしい」
「さ、さっきから何を言っているの……?」
「頭の出来が悪い君にも分かるようにものすごぉく分かりやすく結論だけ言おうか。……もう、誰も君を追ってくることはできない。その教官がどんな化け物じみた追跡能力を持っていようが、世界から切り離された君を助けてはくれないっていうことさ」
世界から切り離された、ですって……?
何を言っているのかはまるで理解できないけれど、確かにこんな状況になっているのに教官が出てこないのは明らかにおかしい。
いつもならサラッといつの間にか会話に混じっていたかと思ったらすぐにこのクソナルシストをぶん殴ってさっさと帰ろうとしていそうなものなのに、まるで出てくる気配がない。
「さて、次に君を別荘に招待した理由だが……頭の悪い君でも、もう察しはついているんじゃないかな?」
「どうせ『逃がしてやったんだから自分の女になれ』とでも言うつもりなんでしょう。しつこい男は嫌われるわよ」
「悪い話じゃないだろう? 僕の下にいれば衣食住は保障されるし、あんな冴えない教官の下で毎日馬鹿みたいにボロ雑巾になりながら頑張る必要はない。ただ僕の言うことを聞いていれば、楽に暮らせるんだ。最高じゃないか」
………。
「っはぁ~~~………」
「?」
急にため息を吐いた私を見て、怪訝そうな表情を作っている。
やっぱコイツ、ただのアホだわ。
「改めて言うわ。……お断りよ。アンタの女になるくらいなら、一生ブタ箱で暮らすほうがマシだって、前に言ったのをもう忘れたのかしら?」
「……一応、拒む理由だけ聞いておこうか。いったい何が不満なんだ?」
私の返答に対して不機嫌そうな顔をしつつ、愚問を口から吐き捨ててきた。
それが分からないからアンタはクソだっていうのよ。
「まず、私の金品をパクッて高飛びしたことへの謝罪がないわ」
「おいおい、だからアレは投資だよ。あのわずかなお金から年商十億の企業を立ち上げることができれば十分な投資―――」
「二つ目に、いきなりこんな風に拉致して拘束するような男についていくような人生はごめんよ。どう考えてもまともじゃないでしょアンタ」
「だって、そうでもしなきゃ君は聞く耳持たずにさっさと逃げていくじゃないか。君がもう少し僕の話に耳を傾けてくれればこんなことせずに済んだんだよ? 分かる?」
「聞く耳持ってないのはアンタのほうでしょうが。それと、最後にもう一つ。決定的な理由があるわ」
「……何?」
これを言えば、きっとロクでもない仕打ちが待ち受けている。
けれど、どうしても、どうしても、ずっとこう言ってやりたかった。
「たかが年商十億ぽっちで自慢してくるような器の小さいアンタに買われる理由なんかないわ」
「た、『たかが』……!?」
「このひと月の間に私が鍛錬中に魔獣を討伐して得た報酬と、素材を納品して稼いだ報酬は、その軽く倍はあるわよ? 私一人の手取りにすら及ばないちっぽけでしょぼくれたアンタの会社の年商なんか、大したことないって言ってんのよ!!」
「なっ……!!」
そう、あの鬼教官の下で毎日毎日毎日何度も何度も何度も死にそうになりながらアホみたいに強い魔獣を狩り続けているうちに、気が付いたらとんでもない額の報酬と素材分の稼ぎを手に入れていた。
……これまでの人生を十回繰り返したとしても稼げないようなお金を、いつの間にか自力で一か月足らずの間に稼げるようになってしまっていた。
「あっははは! 何よその顔、笑えるわ! ねぇどんな気持ちかしら? 自分で捨てておいて、外見だけはいいからまた拾ってやるかと見下していた相手に見下される気分はどんなものなのかしら!? 教えてちょうだいよ! ねぇ!」
「だ、黙れぇぇええっ!!」
激高しながら、私の鞭を手に取って叩きつけてきた。
何度も何度も、怒りに任せて私の背中を、腹を、胸を、顔を、ミミズ腫れができるほどに強くひっ叩いてくる。
「お前なんかに! この僕が! 劣っているわけが、劣っていていいわけないだろうが!!」
「ぐっ……! はっ、生産職のアンタの細腕なんかで叩かれても、まるで効かないわよ……!」
嘘だ。
叩かれた部分が、ジンジンと痛む。
あの鞭は教官がオーダーメイドした特注品で、生産職でも扱えるくらい持ち手からはとにかく軽く感じられるのに対し、叩かれた側には凄まじい痛みが襲ってくる。
そのうえ、私を拘束している鎖に付呪でも仕込んであるのか、まるで力が入らない。
能力値そのものが弱くなっているような感覚があって、生産職の攻撃でも一発ごとにダメージが蓄積していっているのが分かる。
それでも、この男に対して弱みを見せるようなことはしたくない。
くだらないプライドだけれど、どれだけ痛くてもヘラヘラと平気そうに気丈に笑ってやった。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
生産職が慣れない鞭なんか振るっていたせいか、まだ数分しか経っていないのに肩で息をしている。
何十回と叩かれたところで、鞭を振るう手が止まった。
「……気は済んだ? ならさっさと帰してもらえるかしら。いい加減アンタに鞭で撫でまわされるのにも飽きてきたわ」
「はぁ、はぁ……馬鹿が……! 僕をコケにしておいて、無事に帰れるとでも思っているのか……!!」
私の挑発に、息を切らせ顔を赤くしながらもなお激高して鞭を振りかぶった。
鞭を握る手がふと、持ち手のボタンに触れたのが見えた。
あ、や、ヤバい……!
あの鞭は物理攻撃力はさほどでもないけれど、それを補うために『あの機能』が―――
カチリ、と音が鳴るのと同時に、鞭の先から粘性のある液体が滴り、私の体に叩きつけられる際に、皮膚に付着してしまった。
「あぐっ!? う、あ、ああぁぁあっ……!!」
「んん……? ははっ、おやおや、急に痛がったりしてどうしたのかなぁ?」
痛い痛い痛い!!
あの鞭は、持ち手に搭載されているボタンを押すと、それに応じて登録されていた毒液や薬液が生成される仕組みになっている。
今押したのは黄色いボタン一回だから、触れたところに激痛を伴う神経毒が生成されて、それが私の皮膚に……!
「う、ぐうぅぅうう……!!」
「ああ、もしかしてこの鞭には毒でも仕込んであるのかなぁ? なるほど、このボタンを押すと毒液が出てくるのか。随分と変わった機構を組み込んであるみたいだねぇ、面白い」
「く、くそ……!」
まだ激痛だけの神経毒で助かった。自律神経まで麻痺するタイプだったらそのまま死んでいたかもしれない。
でもまずい。鞭の機能がバレた。このままだとどんな毒を使われるか分からない。
「じゃあ次はこの赤いボタンを試してみようか」
「っっ!!」
ヤバい、赤はヤバい!
赤は直接体を侵す毒液に使われることが多い! このままじゃ本当に毒殺されてしまう!
しかも一回だけで充分な量が分泌されるはずなのに、さらにカチカチとボタンを押して―――
ってバカ!? 今コイツ、『赤を三回』押した!?
「さぁて、次はどんな毒液なのか楽しみだねぇ……!」
鞭を振りかぶった際に、鞭から滴り落ちたドス黒い液体が少し、一滴にも満たないほんのごくわずかだけ、鞭を握っている男の服の袖に付着した。
その直後。
「おっと、少し袖に付いてしまっ……え?」
鞭を持っていた男の右腕が、服ごと液状に溶けてしまった。
まるでバケツの中身をひっくり返したかのように、溶けた腕がパシャンと音を立てながら床にぶちまけられた。
「ぎ、ぎ、ぎゃぁぁぁああああっ!? う、う、腕が、僕の腕がぁぁああっ?!!」
「バカ……!」
あの鞭が生成する毒薬はどれも劇物ばかりだけれど、特に『赤いボタンを三回』押した際に生成される毒は桁違いに危険な超猛毒だ。
教官いわく『並の人間が一滴でも触れたら全身が溶けて死ぬ』と言っていたけれど、まさかあんな細かな飛沫が服に付いただけで、あんなことになるなんて……!
しかも、腕が溶ける寸前に振りかぶっていた勢いのまま鞭が飛ばされた先にあった、部屋のドアに鞭が叩きつけられて、そのまま溶けた。
ドアの外には外の景色が広がっていたけれど、鞭から生成された毒が漏れ続けて、地面を徐々に汚染していっているのが分かった。
ちょ、ちょっと! あの毒、本当に危険すぎるでしょう!? あの教官、なんてものを私に持たせたのよ……!?
まずい、唯一の脱出口が毒に侵食されてしまって、出られなくなった。
それどころか、鞭から生成され続けている毒が徐々にこちらに迫ってきている。
このままだと、私もこの男も毒に溶かされて死ぬ……!
「ひ、ひ、ひぃい……!! な、なんなんだあの鞭はぁ……!? どうして、なんでこんなことに……?!」
「そこだけは同意しとくわ……いやそれよりも、アンタ! 死にたくなかったら今すぐに私の拘束を外しなさい! そうすればスキル技能で毒を吹っ飛ばしながら脱出することぐらいはできるはずよ!」
「だ、だ、駄目だ……! く、鎖を外す鍵が、腕と一緒に、溶けてしまった……!!」
「あ、あの毒、金属まで溶かすっていうの!? あのバカ教官! なんてものを持たせてくれたのよ! 絶対に許さないわ!!」
「あー、うん、ごめん。正直すまんかった」
「……え?」
怒りに任せて怒鳴っているところに、出口のほうから誰かが気まずそうな声を漏らしながら入ってきた。
毒に汚染されているはずの地面を踏みしめて、いや、汚染された地面が、抉れて消えていってる……?
「でも、その鞭が毒物をまき散らしたおかげで遮断された空間から毒が漏れて、それを捕捉できてこの場所が分かったんだ。まあ結果オーライ。許せ」
「……来るのが遅いわよ、教官……!」
入ってきたのは、あの超危険物の鞭を持たせた張本人、カジカワ教官だった。
教官が入ってきた途端に、鞭から漏れた毒液も汚染された地面も、抉れてどこかへ消えてしまった。
……アイテムバッグかなにかに収納したのかしら? やっぱりこの教官、訳が分からないわ。
私を拘束している鎖を手で引きちぎってから、心配そうに声をかけてきた。
……この教官が既婚者じゃなかったら、ちょっとドキッとするようなシチュエーションかもしれないわね。
「災難だったな。ほら、ポーション飲んで毒と傷を治しな」
「……礼は言っておくわ、教官」
教官から手渡されたポーションを呷ると、体中の傷が消えて神経毒の痛みも引いていった。
……コレも結構な高級品じゃないのかしら。ありがたいけど、よくこんなにポンポンと手渡せるもんだわ。
「ミラーム、悪いがコイツのことは俺に任せてくれないか。ちょっと色々と聞かなきゃならんことがあるもんでな。報復にボコりたいならその後にしてくれ」
「かまわないわよ。そんなゴミのことなんかどうでもいいし、自分でバカやって腕を失くしたのを見たら気も晴れたわ」
「ご、ゴミ……」
呆然としながら私の言葉を復唱している姿を見ていると、酷く滑稽に思えた。
……ああ、本当にいい気味ね。せいぜい後は教官にかわいがってもらいなさい。




