逃げても逃げても追いかけてくる
更新が遅くて申し訳ない(;´Д`)
年始の仕事状況が非常に逼迫していたり、色々とやらなきゃならんことが山積みでして。
しかし、とりあえずWeb版の更新をしても問題ない状況にはなったので、投稿させて頂きます。
……ロナも更新しないとなー。
「がっはっは! まあ飲めよベンス!」
「あ、ああ、ははは……」
「なんだ、シケた面しやがって! ほら飲め飲め!」
上機嫌で酒を注ぐ、ガラの悪い借金取り。
それをボロいコップで受け止めていると、奇妙な心境だ。
つい先日まで鬼の形相で自分に利子の返済を催促してきていた男と、本当に同じ人間なのかと疑いそうになる。
だが、騙されてはいけない。
この、一見人のよさそうな顔に騙された挙句、多額の利子付きの借金をするハメになったんだ。
『シーフ』って職業は、日常がギャンブルみたいなもんだ。
短剣使いに比べて能力値が低いし、短剣術のスキルも伸びにくい。
その代わりに『開錠』や『窃盗』のスキルを取得できる。
ダンジョンで発見した宝箱や隠しエリアへ続く扉の鍵開け、あるいは魔獣の装備やアイテムをぶん盗ったり、直接戦闘に参加するよりもサポート役に徹することが多い。
特に、ダンジョンで鍵付きの宝箱を開けて貴重なアイテムを獲得できれば一攫千金を狙える。
実際にそういったお宝をダンジョンで手に入れて億万長者になったシーフの話も少なくない。
オレもそんな夢を抱いて、シーフとして活動をしてきた。
だが、現実はそう甘くはなかった。
パーティを組み、何度もダンジョンに潜って鍵付きの宝箱を開ける機会に恵まれたこともあったが、大して高価な物を手に入れることはできなかった。
戦闘面では低い能力値が足を引っ張って、敵の装備をぶん盗ることなんかとてもできたもんじゃなかった。
そんなオレを、仲間たちは無能だと判断したらしく、あっさりとパーティから除名されてしまった。
ただでさえ能力値が低いシーフが、ソロでまともに活動なんかできたもんじゃない。
弱い魔獣を狩って生計を立てることもできただろうが、当時のオレにそんな考えはなかった。
絶対にお宝を手に入れてオレを追放した奴らを見返してやるんだ、なんてことばかり考えて、安定した収入よりも一発逆転の可能性に懸けていた。
そのための資金を目の前にいる高利貸しの男に借りていたんだが、高すぎる利子のせいでどんどん借金が膨れ上がるばかり。まるで稼げやしない。
返しきれるもんじゃないほどに借金がかさみ、とうとうオレはカタギの世界から逃げ出してしまった。
大手を振って街を歩くこともできず、借金取りの追手から逃げるためにスラム街を転々としながらその日暮らしを続けて、腰掛けの場として辿り着いた先は浮浪者や浮浪児のたまり場になっているボロいバラックだった。
そのころになるとオレもボロボロでまともな状態じゃなかったが、周りにいる浮浪児のガキたちはさらにガリガリのボロボロの奴らばかりだった。
さすがに見かねて、金がなくても生き残るための術を教えてやったりもした。
そう、ないなら奪えばいい、盗めばいい、と盗みのテクニックを教えて、生活するための資源を手に入れる方法を教えてやった。
ガキどもの兄貴分だったジフルガンド、ジルドの奴は特に優秀だった。
弟分や妹分のガキども、いや妹分だけは実の妹だったか? の面倒を見つつ、金を稼いでこようとする行動力と責任感があった。
窃盗スキルこそ持っていなかったが、将来優秀なシーフになれるほど盗みのテクニックを覚えるのが上手かった。
オレのことを信用はしちゃいないって様子だったが、決して仲は悪くなかったと思う。
だが、ある日オレが盗みを働こうとしたところで、ヘマをしちまった。
いつものように隙だらけな通行人の荷物をオレが盗もうとしたら、そいつは借金取りの仲間だった。
ヤバいと思って必死に逃げたが、そいつは手練れの戦闘職だったらしくすぐに追いつかれてしまった。
もうダメだと思ったところで、ジルドが物陰から出てきてそいつの顔に砂をぶっかけて目潰しをして、どうにか捕まらずに済んだ。
……代わりにジルドが捕まっちまって、ひでぇ折檻とけじめをつけさせられた挙句にブタ箱へ放り込まれちまったが。
借金取りたちの前に出る勇気はオレにはなかった。
せめてもの義理として、残されたガキどもの面倒を代わりに見ることにした。
それも段々と億劫になってきたある日、転機が訪れた。
ブタ箱に放り込まれたはずのジルドから、とんでもないもんが送られてきやがった。
数日に分けて送られてきた金の総額はおよそ5千万エンは下らないほどで、利子を含めた借金を帳消しにして余りあるほどの大金だった。
獄中生活だろうに、どうやってこんな金を送れるのか不思議に思ったが、そんなことはオレにとっては重要なことじゃなかった。
この金があれば、オレはやり直せる。
堂々と表の世界に出て、まともな生活を送れるようになる。
そうなれば、今度こそ真面目に働いて生きられる。
もう、下手に夢を追ったりはしねぇ。こんなクソみてぇな生活はこりごりだ。
ジルドやガキどもにゃ悪いが、オレは抜けさせてもらうぜ。
こんだけの金が稼げるようになったなら、ガキどもの生活も大丈夫だろ。
そうと決まれば、行動を起こすのは早かった。
金が入ってきたことに大はしゃぎのガキどもに『ジルドが帰ってきた時のためにその金はとっておけ』と言うと、一切手を付けずに保管したままの状態にしてくれた。
少しずつ仕送りの金の入った袋の中身を小石とすり替えていって、ついに先日全額持ち出して逃げ出すことに成功した。
持ち出してる途中で高利貸しの男に見つかって捕まっちまったが、借金が全額返せるだけの金があると分かるとすぐに契約書へ処理済みの印を押して、解放してくれた。
と思ったら、なぜかこうして高い酒を奢ってやるからお前も楽しめと誘ってきた。
嫌な予感しかしない。
コイツからすりゃ、これまで逃げ続けてきたカモがネギどころか金塊をしょって帰ってきたようなもんだろうし、都合のいい金づるとしてオレに首輪を着けておきたいところなんだろう。
できることなら今すぐ逃げ出したいところだが、近くで立ってるボディーガードらしき奴らが『逃げようとしたらふん捕まえるぞ』と言わんばかりに目を光らせてやがる。
オレにできることといったら、決して酔った勢いで迂闊なことを言わないこと、そして何があっても新たに契約をしないことだ。
「ところでよぉ、どーやってこんな大金手に入れたんだぁ? 銀行強盗でもしたのかよ?」
「いや、その、う、運よく、お宝が手に入ったから、それを売って……」
「そーかそーか! いや失礼! お前はいつかできる奴だと思ってたよオレは! ほら飲め!」
「ど、どうも……」
これまで飲むどころか嗅いだこともないような高い酒なのに、なんも味がしねぇ。
このままだと悪酔いした挙句、何されるか分かったもんじゃねぇ。
「……ところでよぉ、そんなくだらねぇジョークを聞くためにこんないい酒飲ませてるわけじゃねーんだわ」
「……え」
「オレが何年この商売やってると思ってやがる。……優しくしてやってるうちに、どんな手段で金を稼いだか、正直に答えな」
「な、なんでそんなこと……お、オレはもう帰る! もう借金は返し終わったから、もういいだろ!?」
「そりゃあくまで借金と利子の話だ。逃げ回ってたテメェの尻尾を掴むためにどれだけの金をかけたと思ってんだ? その分の迷惑料、払わねぇうちは逃がさねぇよ」
「なっ……!?」
「まだ小金が残ってるみてぇだが、それじゃあ足りねぇな? だが、金を儲けた手段を教えるってんなら帳消しにするのも考えてやる。ああ、ちなみにここで逃げたらさらに迷惑料がこの酒の分加算されるからな。こいつぁ百年単位のビンテージもんで、テメェの借金と同額くらいの価値があんだよ」
「お、奢るって話じゃなかったのかよ……!?」
「『ちょっと話に付き合ってくれるなら奢る』とは言ったが、テメェはまだ話に応じてねぇよな?」
ああくそ、コイツより怖い奴なんかこの世に居ねぇ。
コイツは人間じゃねぇ、悪魔だ。他人のことなんざ金のあるなしの物差しでしか見ちゃいねぇ……!
「分かったらさっさと吐きな。……それとも、テメェの身代わりになったあのガキみてぇに指でも詰めりゃ、少しはお喋りになるか?」
「ひっ……!?」
オレの手をテーブルに押さえつけながら、懐からナイフを取り出して指に突き立てようとしてきた。
や、やべぇ、こいつ、本気で……!!
「や、やめてくれぇ! お、オレは何も知らねぇ! 知らねぇんだよぉ!!」
「はぁ~……まずは小指からイッとくか」
「い、嫌だ! 助けて!! 誰か、誰でもいいから助けてくれ!!」
ナイフを持った腕を振り上げて、そのまま小指に向かって振り降ろして――――
「オラァッ!!」
「なっ……!?」
ナイフを振り降ろす直前に、ドアを蹴破って誰かが部屋の中に入ってきた。
「な、なんだテメェらは!?」
「あぁん!? 見て分からんのかボケェ! 借金の取り立てじゃゴルァ!!」
「なんのつもりだ! ここが誰のシマなのか分かってんのか、ああ!?」
「やかましい!! グダグダぬかしよると耳の穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたるぞボゲェ!!」
入ってきたのは、小さな子供を含んだ四人の男女。
全員が黒いスーツと黒眼鏡をかけていて、非常にガラの悪い恰好をしている。
……なぜかリーダーらしき男の肩に乗っているヒヨコまで小さなサングラスとネクタイを着けていた。
「……教官、アンタの情報網は大したもんだけどよ、そのノリはいったいなんなんだよ」
「教官じゃねぇ! 今は組長と呼びな!」
「いや、意味分かんないんすけど。まるでカジカワさんの実家の周りにいた怖いオッサンたちみたいっす……」
苦い表情をしながらリーダーらしき男に話しかけている奴らの中に、見覚えのある奴がいるのが分かった。
あの、ボサボサの金髪は、まさか……。
「よう、久しぶりだなベンス。……とりあえず面貸せやテメェ……!!」
「じ、ジルド……!」
「お、いいぞ。今のすごくヤクザっぽい」
「教官うるせぇ! いちいち茶化してくんな!」
……ブタ箱に放り込まれたはずのジフルガンドが、怒りの形相を浮かべながらオレを睨んでいた。
だ、誰でもいいとは言ったが、よりによってコイツが、なんで、どうやってここまで……!?




