表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

479/585

決別と―――

 ご、ご無沙汰しております……(;;;´Д`)

 非っ常に長い間放置しており、誠に申し訳ございませんorz

 いや、違うんですよ。別に心が折れたとかそう言うわけじゃなくて、単に年末年始のクソ忙しい状況に加えてさらになんやかんやあったせいで(ry

 あの、その、本年もありがとうございました。

 来年も、どうぞよろしくお願いいたします。


 あと、Web版と書かれているのは今後の展開というか、まあ書籍との差別化であって大した意味はないです。 ええ、ホントに。



 ギルカンダを叩きのめしてから治療している最中に、レイナが頼みごとをしてきた。

 ギルカンダとレイナをとある町まで転移させてもらうように、お母さんに頼んでほしいらしい。



「別にいいけど、どこへ行くの?」


「まず自分のお母さんの街へ行ってから、孤児院まで一緒に送ってほしいっす」



 フェリアンナさんと一緒に、孤児院へ? ああ、なるほど。

 どうやらレイナはギルカンダを肉体的にボコボコにするだけじゃ気が済まないみたい。


 ……分かった。この際、あとくされのないよう、徹底的にすればいい。 

 お母さんに話をして、レイナたちと一緒にフェリアンナさんを連れて孤児院へ向かうことにした。

 どうするつもりなのかは分からないけれど、今日でレイナとギルカンダの確執にもひとまずの決着がつくことは確かだと思う。











 ~~~~~









「はっ……!? こ、ここは……?」



 見覚えのない景色が、目覚めたばかりの目に映りこんできた。

 小綺麗な清潔感のある部屋で、妙な既視感というか懐かしさを覚える。

 いったいどこだ、ここは……?





「目ぇ覚めたみたいっすね。いや、いい歳こいてまだボケ散らかしたまんまみたいだから、目覚めちゃいないか」


「げっ……!」




 聞き覚えのある、少ししゃがれた老婆の声が耳に入ってきた。

 うんざりするほど聞き慣れて、孤児院を出てからは何年も聞いていなかった声。



「ば、ババア……!?」



 オレやフェリアにとっての育ての親。

 ワットラーン孤児院のババア、ヘーキミート院長がオレの目の前に仁王立ちしながら睨んでいた。



「だぁれがババアっすか! ガキんころから院長と呼べって何百回も言ってるでしょうがこの悪ガキがっ!!」


「あぐぁっ!!?」



 ババアが叫ぶのと同時に、頭に強い衝撃と強めの鈍痛が襲いかかってきた。

 い、いてぇ……! このババア、いきなりゲンコツかましてきやがった!

 待て、そもそもなんでこのババアがいやがるんだ!?



「……まったく、大人になれば年相応に落ち着いてくれるかと期待していたらまるで変わってない。いやむしろ悪化してるじゃないっすか」


「う、うるせぇな! アンタこそどっから湧いたんだ!?」


「ヒトをボーフラかなんかみたいに言うんじゃないっす! あと、ここは自分の孤児院っすよ!」


「はぁ……!?」



 孤児院だと? なんでこんなトコにオレは……そもそもオレは寝る前に何をしていたんだ?

 ……ああ、そうだ、確かオレはレイナと喧嘩するためにギルドの訓練場に同行して、そこでレイナにボコボコにされたんだった。


 …………最後にとんでもねぇ一撃を入れられてからの記憶がねぇ。多分そこで気絶したんだろう。

 気を失っている間にわざわざ孤児院までオレを運んだってのか? 無駄に手間暇かけやがって。



「レイナから聞いてるっすよ。アンタが自分の左腕を治すためにレイナを、実の娘を売ってまでお金を手に入れようとしていたってね」


「う、売るんじゃなくて、奉公に……」


「黙らっしゃい!! 奉公だぁ!? 預けようとした相手があの悪名高いコーグップ男爵って時点で言い訳なんかできるわけないっしょ! このバカたれがっ!!」


「ぁいってぇえっ!?」



 再び拳骨が脳天に突き刺さり、頭が割れんじゃねぇかってくらいの痛みが襲いかかってきた。

 まるで、ガキのころにバカやって叱られた時のように。


 ……待て。

 今の俺はLv70を超える特級職だ。生半可な攻撃じゃ痛くもかゆくもないくらいに防御力も上がっている。

 少なくとも生産職の院長に殴られたところで、痛みなんざ感じねぇはずだ。

 なのに、この拳骨はオレの頭をカチ割らんばかりの痛みを与えている。……どういうことだ!?



「殴られた頭が痛いっしょ。けどね、殴った自分の拳はもっと痛いんすよ!」


「な、なんで、こんなにいてぇんだよ……!?」


「愛の鉄拳っす」


「答えになってねぇよ!」


「あいたた、そうは言うものの、割とホントに痛いっす」


「……大丈夫ですか?」



 オレの頭をぶん殴った手を痛そうに押さえている院長に、アルマ教官が歩み寄ってきた。

 回復魔法でもかけているのか、院長の掌に手をかざしている。



「おっと、わざわざすみませんっす」


「ついでにさっきより強めに強化魔法をかけておきました。これでいくら殴っても痛くないはずです」


「グッジョブっす、アルマちゃん」



 おいちょっと待て! 強化魔法ってなんだ!?

 さっきから院長の拳骨が妙にいてぇのはコイツの魔法が原因か!



「さぁて、ギルカ。アンタ、ウチの孤児院でやっちゃいけないことをした時のルールは覚えてるっすよね……?」


「……え?」



 孤児院の、ルール?

 ……まさか。



「オイ待て! やめろ! もうオレぁ孤児院のガキじゃねぇんだぞ!!」


「お黙り!! 歳を重ねるだけで、中身が自己中のガキのまんまのアンタにゃ、今一度制裁が必要っす!!」



 クソ、逃げようにも手足が縛られていて身動きがとれねぇ!

 もがいているうちに無理やり押さえつけられ、四つん這いの体勢にされてしまった。



「往生せいやぁっ!!」



 そう叫びながら、院長がオレの尻に思いっきり平手打ちをブチ当てた。



「ギャァァアっ!!?」



 尻が爆発した。

 そう錯覚するほどの、殺人的な衝撃と痛みと打撃音。

 ガキのころに何度も何度も受けた尻叩きの感覚が、そのまま伝わってきた。



「おイタをしたおバカには、尻百叩きの刑っす」


「ぐおおぉぉぉ……!! お、おい! オレぁもう孤児院のガキじゃねぇって言って―――」


「そして、アンタがレイナたちにしたのは、おイタじゃ済まない大馬鹿野郎の所業っす!! 百回程度で済むと思うなこのバカっ!!」


「あぐぅぅうああああぁぁあッ!!?」



 再び院長の平手打ちが尻を直撃した。

 いてぇ、ここ最近の鍛錬の痛みに負けないくらいいてぇ!



「いんちょう、なにしてるのー?」


「そのしろいおじさん、なんでおしおきされてるの?」


「このおバカはレイナとそのお母さんをイジメた悪いヤツっす」



 オレの悲鳴を聞きつけてか、孤児院のガキどもまで集まってきやがった。

 見せもんじゃねぇんだぞ! どっか行け!



「皆も人をイジメたり悪いことしたら、このおバカと同じようになるっすよ! よく見ておきなさい!」


「いでぇっ!!? ごぉおあっ!! ギャアァァアァアアっ!!!」


「う、うわぁ……いたそう……」


「あんなふうにはなりたくないなぁ……」



 ガキどもがドン引きしながら何か呟いてるのが聞こえるが、痛みのせいでそれどころじゃねぇ!

 情けねぇとか恥ずかしいとかそんなことよりも痛さのほうが圧倒的に勝っていて、叫び声を上げることしかできねぇ!

 や、やめろぉぉ……!!




 その後、小一時間ほどひたすら院長に尻を叩かれ続ける羽目になり、最終的にはもう痛みを通り越して何も感覚がなくなっていた。

 尻が千切れたんじゃねぇかってくらい痺れていて、動かそうとすると沁みるような痛みが滲んでくる。



「あ……がが……かっ……!」


「ふん、ちっとは懲りたっすか?」


「くっ……!!」



 腰に手を回してふんぞり返りながら呆れたような表情で言う院長の姿は、ガキのころと何も変わらない印象だった。

 痛みのせいで懐かしさもなにもあったもんじゃねぇが。



「自分からのお仕置きはひとまずコレで勘弁してやるっす。さて、お次はあの子たちとちゃんと向き合って、するべきことをしなさいな」


「あの子、たち……? ……っ!」


「じゃ、自分はちょっとお肉食べてくるっす。……あー、尻の叩きすぎでお腹空いたっす」



 院長が軽口を叩きながら去っていく先に、二人分の人影が立っているのが見えた。

 背丈も髪の色も顔つきも瓜二つの、低い背丈の女。

 一見双子にも見えるが、違う。



「……はぁ。院長もあなたも、昔と変わりませんね。ギルカ」


「昔っからあんな感じだったんすね……ホント情けないっすわー」


「レイナ……フェリア……!」



 今朝方にオレをボコボコにした実の娘レイナと……既に縁を切った、元妻フェリアンナが、そこにはいた。

 レイナがオレの前まで歩み寄ってきて、手足を縛る縄を解きながら口を開いた。



「自分との約束、覚えてるっすよね?」


「……」


「ほら、さっさと筋を通せっす」



 手足の拘束が解けた後に、フェリアへ向き合うように促された。

 ……ああ、くそ。



「……」


「っ……」



 何も言わず立ち尽くすフェリアの顔を見て、思わず舌打ちしそうになるのを堪えた。

 屈辱からでも罪悪感からでもない、ただ苛立ちから顔を顰めずにはいられなかった。


 両足を折り曲げ正座し、床に両手と額を押し当てながら口を開いた。




「…………オレが、悪かった」


「……」


「済まなかった、フェリア」



 もしかしたら、フェリアに謝ったのは、これが生まれて初めてかもしれない。

 これまではどんな間違いを犯そうが謝らず、それどころか過ちを認められずに怒鳴るばかりだった。

 ……なんで、こんな簡単なことを、オレはできなかったんだろうか。



「ギルカ」


「……」


「顔を上げてください」


「……」



 ゆっくりと顔を上げると、フェリアの顔が目の前にあった。

 その顔は、穏やかに微笑んで―――



 いなかった。


 眉間に皴を寄せている厳しい表情で、オレを非難しているのが見ただけで分かる、怒りを浮かべていた。



「許しません」


「っ……」



 謝罪の返事は、拒絶。

 ……予想していなかったわけじゃねぇが、こうもはっきり言われるとは、な……。



「そもそも、あなたは何に対して謝っているのですか」


「……オレが、腕を魔獣に喰われてから、それを付きっきりで看病してくれたお前に、ひでぇ仕打ちをしたことに、だ」


「そんなことはどうでもいいのですよ。あなたが粗雑で荒っぽいのは昔からよく知っていますし、それを承知のうえでともに歩むことを決めたのは、私なのですから」


「……?」


「私が許さないのは、貴方の素行でも性格でも家庭内暴力でもなく、レイナに対する仕打ちです」


「……っ」


「もしも、あのままコーグップ男爵の許へ連れ去られていたら、どんな仕打ちを受けていたことか、想像に難くないでしょう。……仮にレイナがあなたを許したとしても、私は決して許しません」



 あのデブ男爵に縋ってまで腕を治す金が欲しかったのか。

 そんなはした金のために、娘を売ろうとしたのか。


 オレだって、そう思わなかったわけじゃない。

 ならフェリアだってそう思うのは当然だろう。



「……レイナを守り切れず、孤児院へ逃がすことしかできなかった私が言えた義理ではないのかもしれませんが、それが私の答えです」


「……そうか」


「もう、ともに歩むことはできません。よりを戻すことはできません。ただ、あなたに不幸になってほしいとも思っていません」



 地べたに張り付けたままのオレの手を取り、最後にこう告げた。



「さようなら、ギルカ。私やレイナとは違う道の先で、幸せになってください」


「……ぐ……くっ………」



 歯を食いしばって堪えようとしたが、駄目だった。

 許してもらえたわけじゃねぇ。これは確かな拒絶と決別の宣言だ。

 もう絶対に、オレはフェリアともレイナとも、家族にはなれないと言っている。


 だが、確かにオレを思ってくれた末に出た言葉だと理解したところで、堰が切れた。




「ああああぁぁぁっ………!!」




 自分勝手に家族を振り回して、娘を売ってまで自分を優先しようとしたクソッタレの慟哭が、孤児院の中に響いた。

 自業自得だ。大馬鹿野郎が。クソッタレ、クソッタレ、くそ……。







 それからしばらく経ち、騒ぎも落ち着いたところで、レイナとフェリアが何を思ったのか一緒に食事をしようと誘ってきた。

 もうオレはこの二人に関わらないほうがいいからと拒否しようとしたが、レイナに締め上げられて無理やり席へ座らせられた。

 ……なんだってんだ。



「ほら、ちゃんとアンタも手ぇ合わせるんすよ」


「ギルカ、お行儀よくしなきゃダメよ」


「……はぁ……」



 今更なんのつもりかは知らねぇが、レイナに逆らえねぇ以上は断れねぇ。

 こうなったらさっさと食って席を立つか。


 テーブルに並べられた料理は、ほんの数年前までの定番メニューだった。

 トマトシチューにラムチョップとライ麦パン。寸分違わず同じものが目の前にある。



「「いただきます」」


「……」



 二人の合掌に手だけ合わせてから、シチューを乗せた匙を口に運んだ。

 口の中に広がる味は、気のせいか記憶のものよりも少し酸っぱく感じた。



「むー、やっぱりちょっとトマトが多かったかなー……」


「具材の比率だけじゃなくて、こまめに味見をしながら味を調節するといいわ。よく私もそうしてるし」



 ……?



「ギルカ。このシチューはね、レイナが作ったんですよ」


「! ……そう、なのか」


「ふふん。料理スキルが無くても、ここまで作れるようになったんすよ。自分の料理の練習は、無駄なんかじゃなかったっす」


「……そうだな」



 ああ、ちくしょう。


 オレが、間違っていたんだ。



 (レイナ)の作ったシチューを口にして、改めて強く自覚した。



 一口ずつしっかりと味わって、気付けば空になった器を、レイナが取り上げた。



「……?」


「せっかくだから、おかわりしておけっす」


「あ、おい……」


「食べてあげてください、ギルカ。あの子がお料理の練習をしていたのは、あなたにも味わってほしかったからだと思いますから」


「……はぁ」



 さっさと食い終わって消えようと思っていたが、どうやらまだ席を立つわけにはいかねぇらしい。

 溜息を吐きながら待っていると、大盛りの真っ赤なシチューをレイナが運んできた。



「はい、お待ちっす」


「……あんがとよ」


「いいから早く食べろっす」


「おう」



 まあ、これが娘の料理を食える最後の機会なんだ。

 もっとじっくり味わって食うのも悪くねぇ、と考えを改めて、真っ赤に染まったシチューを口の中に運んで―――



「ブッフごへぇあぁあっ!!?」



 盛大に噴き出した。

 辛い、いや痛い! 熱い! 口の中にまんべんなく焼け箸が突き刺さっているみてぇな、とんでもねぇ激痛が口の中を侵食していく!



「あ、あなた!?」


「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!! カジカワさんからもらった超カラいトウガラシ入りのシチューのお味はどうっすかー!」


「て、テメェ!! 死ぬかと思ったわこのクソガキがぁっ!!」


「ばーかばーか! アンタなんかにタダで手料理なんか食べさせるわけないっしょー!」


「待ちやがれぇぇぇええっ!!」



 ……この、強かに育ったクソガキが、綺麗に別れることを許してくれるなんて思ったオレがバカだった!

 絶対に許さねぇ! とっ捕まえてやる!!









 ~~~~~







「……っていうことが、さっきまで私が覗き見していたことの全部」


「……覗き見してたのね」



 アルマからの説明に、どうリアクションするべきか頭を抱えそうになった。

 いや、あのクソ親父は俺も嫌いだけどさぁ、せめて最後くらいはもうちょっとこう、手心というか……もういいや。



「まあ、これでレイナのクソ親父の家庭内不和については概ね解決したとみてもいいかな」


「うん、もう大丈夫だと思う」



 色々と思うところはあるが、これ以上俺たちが首を突っ込むのは野暮だ。

 和解するにしろ決別するにしろ、レイナたちが決めることだろうしな。



 さて、となれば、後は……。




〈おーい、きこえるかー?〉


「おっと、はいはい。聞こえてるぞー」



 ……風の小精霊、スモールシルフィがどこからともなく現れ、俺に話しかけてきた。

 アルマに頼んで、精霊たちに情報収集してもらっていたが、なにか収穫があったのかな?



〈れいの『ジルド』とかいうガキのかねをぬすんでいったやつの、いばしょがわかったぞー〉


「分かった、ありがとう」



 さて、囚人たちのトラブル解決の、最終段階に入るとしましょうかね。

 ……なんかあのクソ親父の件だけで軽く数ヶ月くらいかかっていたような気がする。













 あ、そうそう475話の前書きでなんやかんや言ってた件ですが、非っ常にカッコ可愛い出来にゲフンゲフンなんでもないです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] ありがとうございました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ