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最後の親子喧嘩へ

 書籍版、発売中です。

 BKブックス様のツイ垢でサイン本キャンペーンやってるので、タダでサイン入り書籍版を手に入れたい方は是非ぜひ!

 ちなみに筆者のツイッターでもちょくちょくこの小説のこと呟いてたり。

 ↓アルマを某オープンワールドゲームで再現しようとした呟きとかもあるので、興味が御有りでしたらどうぞー。

 https://twitter.com/TMatukou/status/1571111877710860288


 え、サイン本のほうのURLはどうしたって? いや規約に引っかかりそうで怖いので……。


 第1大陸でのお仕事とお勤め(牢屋)も済んだので、ファストトラベルで第4大陸へと帰還しよう。

 夕食の時に帰ってくるのを除いて五日間も放置していたわけだが、特に大きなトラブルはなかったようだ。

 まあウチのメンバーが管理してるからね。むしろ俺が見てるのが一番危ないかもしれない。


 ……って、アレ?

 マップ画面を見てみたが、なんか全員いつもの宿じゃなくて全然別の街にいるみたいなんですけど。


 アルマたちは現在『ニューシーナ』、例の孤児院のある街に、っていうか孤児院にいるようだ。

 なーんでこんなトコにいるんですかね。修業はどうした?

 ……まあいい、さっさと帰ろう。



 ファストトラベルで転移してまず目に入ってきたのは、仲良く追いかけっこをしている光景だった。

 え、誰がって?




「待ちやがれこのクソガキャアッ!! テメェマジで許さねぇからなぁっ!!」


「あひゃひゃひゃひゃっ! 捕まえたいならもっと気合入れろっすクソ親父ぃー!」




 レイナとそのクソ親父ことギルカンダの両名ですが、なにか。

 なぜかタラコ唇で顔を真っ赤にしながらクソ親父が追いかけていて、レイナが大笑いしながら逃げ回っている。

 え、なにこの状況。なんであんな仲睦まじく追いかけっこなんかしてんの?



「……こうしていると、昔に戻ったようだわ」


「微笑ましいっすねー」



 そしてその様子をフェリアンナさんと孤児院の院長が微笑ましげに見守っている。

 ますます意味が分からん。


 困惑しながら目の前の光景を眺めていると、アルマが駆け寄ってきた。



「おかえり。向こうの用事は済んだ?」


「あ、ああ、ただいま。例のボケ大臣ぶん殴った件はなんやかんやで無罪になったから、今日からまたこっちに戻ってくるよ」


「そう、よかった」


「……ところで、帰ってきて早々にすまんけど、コレ、どういう状況……?」


「レイナの父親がレイナに喧嘩をしかけてきてそれに勝ったら相手の言うことなんでも聞くっていう条件でお互いに了承して戦いが始まって結局レイナが勝って約束通りに――――」


「待て待て、待ってくれ。ごめん、早口なうえに内容を端折りすぎて話がうまく呑み込めないんだが……」


「ん、分かった。もう少し丁寧にゆっくり話す」



 早口で概要を聞いただけじゃイマイチよく分からんかったが、どうやらあのクソ親父から喧嘩を仕掛けてきたようだ。

 あの親父の処遇をどうしようか色々と考えていたところだが、事の顛末次第ではクソ親父用に準備しておいたアレコレをフルコースでおみまいしてやるとしよう。












 ~~~~~少し時を遡って、アルマ視点~~~~~










 ヒカルが投獄されてから、今日で五日が経った。

 今日の会議が終われば解放される見込みだってグランドマスターは言っていたけど、本当だろうか。

 もしもこれ以上ヒカルの刑期が延びるようなら、第1大陸へ殴りこんでヒカルが投獄される原因を作った大臣を地面で摩り下ろしてやろうとか考えながら朝食を食べていると、誰かが私とレイナの席に近付いてきた。



「おい、レイナ。ちと面貸しな」



 声をかけてきたのは囚人の一人の、白髪の壮年男性。

 ……レイナの父親の、ギルカンダだった。



「アルマさん、そっちのソースとってほしいっす」


「ん、はい」


「いや、聞けよテメェ! 無視してんじゃねぇよ!」



 それをどこ吹く風で無視しながら朝食を食べ進めるレイナに、苦虫を噛み潰したような顔をしながら怒鳴っている。

 あんな横柄な言い方で話しかけられたら気分が良くないし、なにより気安く話せる立場じゃないことぐらい分かっているだろうに。



「今、朝御飯の真っ最中っすよ? そのきったない面見てたら不味くなるからあっち行けっす」


「テメェ、随分と生意気になりやがって……!」


「アンタほどひどくないっすよ。いいから食べ終わるまで待ってろっす」


「ちっ……!」



 ふてくされた様子で舌打ちをしながら、食堂から出ていってしまった。

 自分のしてきたことを考えたら、徹底的に無視されても文句は言えない立場のはずなのに、なんて態度だろう。

 私のお父さんとは大違いだ。……本当に私は恵まれているんだな、なんて思わずレイナに失礼なことを考えてしまった。



「すみませんっす、あのバカのせいで楽しい朝食の時間が台無しなっちゃって」


「別にいい。レイナもそんなに気にしてないみたいだけど、大丈夫?」


「まあそうっすねー。多少うっとーしいとは思うっすけど、アイツからなんか言われても以前ほど嫌な気分にはなってないっす。ぶっちゃけどーでもいいし」


「……どうでもいい?」 



 レイナの父親、ギルカンダはレイナを売ってでも自分の腕を治そうとした、最低な男だ。

 身売りさせられそうになった張本人のレイナは今でもそのことを恨んでるものだと思っていたけど……。



「その件はもうあんまり気にしてないっす。さんざん急所を蹴りまくって潰したうえにブタ箱に放り込んでやったし、もうあんな奴には絶対負けないくらい強くなれたっすからねー」


「……だから、もう許してあげる気になったの?」


「いや、それとこれとは話が別っすけど。仮にその件を許したとしても、甲斐甲斐しくお世話をしてたお母さんをいびった挙句殴り倒したことは絶対許さないっす。」



 そう言いながら、口の中に詰め込んだトーストをカフェオレで流し込んで、食器を洗いに流し台へ運んでいく。



「それじゃ、ちょっと行ってくるっす」



 食器を洗い終えると、ギルカンダが待っている外へ足を進めていった。


 これは、レイナの家族の問題だ。

 まだ成人前でギルカンダの暴力に手も足も出なかった時と、今のレイナは違う。

 もう、一人でも簡単に打ち払えるくらいに強くなった。だから、私が下手に関わるべき問題じゃないのかもしれない。


 でも、やっぱりどうしても気になってしまって、急いで食事を済ませてからレイナの後を追った。

 不安だからじゃない。単に、レイナとギルカンダがこれからどうなるのかを見てみたいという好奇心からだと思う。

 ……要するに、ただの野次馬根性だ。我ながらあまり褒められたものじゃない。




 

 コソコソとレイナの後についていき、ギルカンダと相対しているところに聞き耳を立てて、やりとりの内容を盗み聞きすることにした。

 ……我ながらストーカーみたいだけど、私が一緒にいるとレイナに余計な気を使わせてしまうかもしれないし。


 ベンチに座っているギルカンダから少し離れた場所にレイナが腰掛けたところで、ギルカンダから声をかけてきた。



「遅ぇぞ、いつまで待たせやがんだ」


「るっさいっす。こちとら貴重な時間割いてやってるんだから、言いたいことがあるならさっさと言えっす」


「……その妙な口調、あのババアみてぇだからやめろ。バカみてぇだぞ」


「……アンタほどじゃないっつってんでしょ。自分がこれまでやってきたことをちっとも反省してないくせに、偉そうなこと言うなクズ」



 すごくギスギスした雰囲気だ。本当に親子の会話なのかと疑いたくなる。

 でも、互いに顔を合わせようとせず、気まずそうな表情で言い合っている姿はどこか似ているように見える。



「ハッ、今更『オレが悪かったー』なんて謝ったところで、許せるわけねぇだろ?」


「当たり前っしょ」


「なら、んな無駄なことする必要はねぇだろうが。オレは無駄なことが嫌いなのは、お前もよく分かってんだろうが」


「だからって一言も謝らないままでいようっていうその態度が、一番の問題なんだってことが分かってないっす。自分に言わせりゃ今まで無駄に歳を重ねてきた年月が一番無駄っすよ」



 膝の上に肘を乗せて、掌で顎を支えながら気だるそうにレイナが応対しているのを、ギルカンダが苦笑しながら見ている。

 絵面だけ見ていると、拗ねている子供に手を焼いている父親のようにも見えるけれど、実際に拗らせているのはギルカンダのほうだろう。

 謝るっていう行為は許されることが目的なんじゃない。ただ、誠意を相手に伝えることが大事なんだということを、あの年になっても理解していない。


 ギルカンダが立ち上がって、レイナの目の前に視線を合わせながら口を開いた。



「そんなにオレの謝罪が聞きてぇんなら、力ずくで屈服させてみな」


「は? 何言ってんすか? ってちょっと、何やってんすか」



 レイナの目の前で、腰に差しているナイフを抜いた。



「今すぐオレとやり合えや。お前が勝ったら謝罪でも土下座でもなんでもやってやらぁ。その代わり、オレが勝ったらお前もオレの言うことを一つ聞け」


「アンタ、まさかそんなこと言うために呼び出したんすか? つーか、自分に勝てるとでも思ってるんすか?」


「昨日のレベリングでLv70に、特級職になった。もうテメェとの差は大分縮まってるはずだ。どうする? やり合うのか、それとも尻尾巻いて逃げんのか? ああ?」


「はー…………ここじゃ迷惑になるから、広い場所へ移動するっすよ。あとナイフ仕舞えっす」



 ギルカンダの発言に呆れ以外の感情を一切排除したような溜息を吐いてから、ついてくるように促しながら歩き始めた。

 ……ギルカンダは、なんで今更になってあんなことを言い出したんだろうか。


 まさか本気で勝てるとでも思っているんだろうか。

 今のレイナは同じ特級職の中でも、さらに上位の実力者だ。

 お母さんやお父さんでも、簡単に勝つことはできないほど強くなっているということは、ギルカンダも身をもって分かっているはずなのに。


 それとも、勝つことが目的じゃないんだろうか……?


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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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