普段は飄々、怒ると恐々
本日より、今作『スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~』が書籍販売されます!
読みやすいように校正したうえで、ちょっと一部展開が異なるところがあったりなかったり。
具体的に言うとカジカワブチギレシーンが追加(ry
よろしければ是非、手に取っていただけると幸いです。
あと、↓後書きにキャラグラの一部を載せてます。
一巻時点での全キャラ分は作者のツイッター 『silve スキルねぇ@TMatukou』に投稿していますので、興味が御有りの方はそちらもどうぞー。
「国王様! 私がなぜ終身刑などと!? そ、その男と諍いが、どうやったら国家の転覆に繋がるというのです!!」
『同じことを二度言わせるな。貴様がスタンピードの功を労いもせず侮辱し、牢へと放り込んだそちらのカジカワヒカル氏との敵対は何がどう転ぼうとも避けなければならぬ事項なのだ』
決が出た後もなお喚くアホ大臣をあしらうように、国王様が淡々と言葉を続けている。
「そ、そうか、私を失脚させるために、罪状をでっち上げて……!!」
『想像力が逞しいのは認めるが、仮に彼を侮辱した者が余の息子や娘であったとしても、同じ判決を下していたぞ』
「なっ……!?」
『詳しい話は牢の中で好きなだけ聞くがよい。異議は以上か? では、連れていけ』
「お、お待ちを! ええい、離せ! 儂を誰だと思っておる!! 儂は、儂は軍務大臣のアフオ・キラモニだぞぉぉぉ……!!」
屈強そうな黒服たちに連れていかれながらも最後まで喧しく喚き続けるアホもといアフオ。
……つーか、俺と敵対することが即終身刑に繋がるって、僕ぁどんだけ危険視されてるのさ。
『さて、これで会議の大筋は結論が出た。これより今後の運営についての仔細を話し合う場となるため、事前に出席するように伝えておいた対象者以外の者は解散とする』
「退場は後ろのドアから、順番にお願いいたします」
国王様の解散指示が出た後に案内役の人が退場を促し、ゾロゾロと出口へと向かっていく。
あ、俺も帰っていいんですか? やったー。
……ん? ネオラ君やグラマスは残るみたいだな。
早く帰れるのはいいけど、なーんか引っかかるというか、気になるな。
後で会議の内容をネオラ君に聞いてもいいかもしれないが、ちょっと直接聞いてみたい気もするし、こっそりファストトラベルで再度侵入して盗み聞きしてみようかな。
21階層で吉良さんからもらった天狗の隠れ蓑があれば、俺の一切の姿形や気配は遮断されるし、まずバレないだろう。
外へと案内されて、各々自由行動が許されるようになってから天狗の隠れ蓑を着て姿を消し、ファストトラベルで再び大会議室へ移動。
そこに残っていたのは国王様と姫様方に後継者と見られる王子様、今回の件で失脚した大臣の後釜を務めることになったらしい新大臣の面々、そしてグラマスとネオラ君。
最後の二人が残っていなかったら、普通に国のお偉いさん方の退屈な会議ってだけで興味のカケラも湧かないところだが、なーんかキナ臭いんだよなー。
俺たちが退場した後に小休憩をとっていたのか、全員にお茶と菓子が配られている。
美味そうだなー、ちょっと一個くらいパクっちゃダメかな。あ、ダメですかそうですか。
とか物欲しそうに眺めていると、拡声魔具を取っ払いながら再び国王様が口を開いた。
「さて、これより今後の流れについて話し合うところだが、その前に伝えておくべきことがある」
「先程の、最後のアフオ元軍務大臣の判決についてですか?」
「ああ。正確には、カジカワヒカル氏についてだ」
俺かい。
なーんでこの国王様は俺を重要視してんのかね?
「先程の、黒髪の男性冒険者のことですか? スタンピードの際に随分と派手に暴れまわっていたとの話ですが、彼はそもそも何者なのでしょうか?」
「……そういえば先日、私の護衛役に就いていた黒髪の女性が同じ名前を名乗っていたのですが、彼となにか関係が……?」
「関係もなにも、同一人物だが」
「え……!?」
姫様の一人が目に見えて驚いている。
あー、そういえば宰相のクーデター騒ぎの際にあの姫様の護衛やってたっけ。性転換の薬を飲んだ状態で。
あの女が実は男でしたとか言われたらそりゃ困惑するわな。体格も全然違うし。
「彼の正体についてだが、各国においてトップシークレット、つまり最重要機密扱いとなっている。表向きはただのSランク冒険者という扱いだが、その実態は名状しがたく極めて異質で異常な存在なのだ」
人をどこぞの神話生物みたいな言いかたするのやめろ。泣くぞ。
つーかただのSランクってどういうこっちゃ。Sランク冒険者自体希少だろうに。
「よって、これより話す内容はこの場の者たち以外には他言無用。仮に情報を漏らした場合はアフオのように終身刑にすることも視野に入れて厳罰に処すので、決して口外することなかれ」
「……それほど危険な存在ということなのですか……?」
「ああ。その裏付けのために、彼女たちにも残ってもらったのだ」
「まったく、忙しいのに。さっさと帰してほしいもんだけどねー」
「済まぬな、グランドマスター」
「……国王様、オレ、男です……」
「……済まぬ、勇者殿」
頬杖を突きながら文句を言うグラマスの隣で、勇者君がいつもの持ちネタを披露している。
あれ、グラマスがなんかいつもの口調で国王様に文句言ってるけど、特に国王様は咎めたりしてないな。
いや、むしろちょっと怯えてる? 気のせいか?
「あの『カジカワヒカル』がどれほどの者だというのですか? 敵対すると国が滅ぶとおっしゃっていましたが、それほどのコネクションが彼にはあると?」
「国を滅ぼせる規模となると、裏で世界を牛耳る組織のボスだとでも? まさか」
「そんなんじゃないよー。さっきも言ったけど、あくまで立場上はイチ冒険者に過ぎないよ。ただし、最強のだけど」
「最強の冒険者ですと? あのような者の噂はこれまで聞いた覚えがありませぬが……」
「そりゃそうさ。彼は一年足らずで最底辺から最上位にまで辿り着いたんだから」
「一年で? ……まるで勇者様のような出世ぶりですな」
なお、歴代の勇者の中には半年程度でSランクに上り詰めた戦闘狂もいた模様。
ちなみにSランクに到達するまでにスパーダこと相馬竜太は3年で、相沢瞬が半年だとか。
「しかし、どれほど強かろうとも勇者様には及びますまい。勇者様は【勇天融合】という仲間と力を合わせる勇者専用スキルを使用すれば、2万近い能力値にまで強化されるのでしょう?」
「……いや、オレが全力を出しても梶川さんのほうが強いぞ」
「……え?」
「なんなら魔王も梶川さんがほぼ単騎で倒したようなもんだったし」
「なっ……!?」
おいネオラ君、サラッととんでもない情報を暴露するんじゃないよ。
君は人類の希望なんだから、魔王を倒したことは君の功績ってことにしとかなきゃ士気に関わるぞ。
まあ、魔王の第一形態の時点で一回殺して身代わりの護符を消費させてくれたから、ネオラ君が倒したってことも決して嘘じゃないんだけれど。
「それほどの人物の存在が、なぜこれまで公にされていなかったのですか?」
「魔王を倒したのが勇者だって公表したほうが士気を上げるために便利だからってのと、カジカワ君本人があまり有名になりたがってないからだねー」
「……仮に敵対した場合、彼の者を止める術は?」
「ない。敵対した時点で終わりだよ」
いや、だから敵対なんかしないってば。
国を敵に回すなんてメンドクサイことこの上ないし。
なによりその国の特産品が味わえなくなったり行動範囲が狭まるのは勘弁してほしい。
「それはあくまで現状での話でしょう? ならば、敵対することも視野に入れて対策を練るべきです」
とか人のことを悪鬼羅刹の類のように言いまくっている皆様方に顔を引き攣らせていると、姫様方のお一人がそんなことを言い出した。
んー? 姫様方の中じゃ一番の年長者っぽいが、あの人が第一王女かな。
切れ長のツリ目でウェーブのかかった銀髪。年齢は二十歳くらいかな。コワマスほどじゃないがちょっと怖い印象の美人さんだ。
名前はシオンフェルテさんか。
「対策というと?」
「そのカジカワヒカル、氏が我が国と敵対した場合に、はっきりと不利益が発生することを御理解いただくように伝えるのです」
いや、伝えられるまでもなく充分理解しているつもりなんですがそれは。
でも『ウチの国と敵対したらこの料理が食えなくなるぞー!』と提示してもらえたりしたら、正直嬉しい。
グルメスポットがお手軽に分かるのはありがたいしな。
「それは、どのように?」
「彼の投獄中に身辺を調べてみましたが、彼は普段ソロではなくパーティで行動しているようです」
「ふむ、それで?」
「彼に対して勝ち目がなくとも、彼と親しい者たちはどうでしょうね」
おい。
「……シオン、なにを考えている」
「なに、保険ですよ。『万が一我が国と敵対した時には、あなたの親しい人に不幸が訪れるかもしれませんよ』と警告を出すことで―――」
よし、この姫はダメだ。
ちょっと後で『お話』をするとしよう。
「はいはいはい、シオンちゃんストップストップ。退屈な場を和ませようとしてるのは分かるけど、今はジョークを言う場じゃないよー」
頭に血がのぼっていくのが自分で感じ取れる中、パンパンと手を叩きながら姫の言葉をグラマスが遮ったのが聞こえた。
……え、ジョーク? 今のジョークなの?
「……グランドマスター、今は私が喋っている最中ですよ」
「いやいや、真面目に話を進めてる最中に冗談なんか言ってちゃダメでしょ。今は大事なお話をしている最中だから、ね?」
「その小さな子供をあやすような言い方を止めて頂けませんか。仮にも王族相手に、不敬ですよ」
「あっはっは。だからぁ、今のは王族としてじゃなくて一個人としてのジョークでしょ?」
明らかに不快そうに睨みながら咎める姫に、ヘラヘラと笑いながら応対するグラマス。
いや、どうしたグラマス。どう見ても大真面目に俺に喧嘩売ろうとしてただろこの姫。
「あなた、頭は大丈夫ですか? このような場で私がジョークを言うとでも? 今は真剣に話し合わなければならない場なのですから、そのような軽薄な態度は控えてください」
「ふーん。じゃあ真面目に話すけどさぁ」
ズガァンッ と、凄まじい音が大会議室に鳴り響いた。
「!?」
「ぐ、グランドマスター、なにを……!?」
グラマスが、自分の前にある席を、思いっきりぶん殴って粉々に砕いた音だった。
「今ならまだ冗談で済ましてやるっつってんだよ。そんなことも分からないのか?」
先ほどまでの飄々とした態度はどこへやら、ドスの利いた低い声で話しながら、怒りをあらわにした表情でグラマスが姫を睨んでいた。
………いや、怖っ。




