閑話 21階層・遊興者Dの開閉
ごめんなさい、本編の更新はもうしばらくお待ちください。
今回も前回の閑話と同じく、別の小説名義でストックしていた21階層の実況風景をお送りいたします。
なんだかノリがジュリアンに似ていますが、他人の空似です。ただの社畜のDさんです。
ふっははははは! おっといかん、つい笑いが漏れた。
いやしかし、この場所は面白い。実に面白い。
なにせ並ぶ扉の先はどこも想像を軽足で超えるほど悍ましく、ファンタスティックなクソッタレが待ち受けているのだから!
いや、実際退屈しない毎日だ。
部屋に篭って書類とにらめっこするだけの日々にうんざりしていたが、眠りについて起きた時にはこうまで刺激的な生活が待っていたとはな。
なぜこんな場所で目覚めたのか疑問ではあるが、大した問題ではない。目の前の遊園地めいた楽しく恐ろしい現実を受け入れよう。
ある場所は、広大で美しい草原がどこまでも広がっていて、そこをアロサウルスとT‐レックスが踏み荒らしながら追いかけっこをしていた。
ある扉の先は地面という概念がなく、錆びたパイプ伝いに道が無数に枝分かれしており、足を滑らせれば即終わりというスリリングな世界だった。
また、あるところでは重力を個人個人で任意の方向へ働きかけることが可能で、上下左右デタラメな建造物が並ぶ中で普通に生活を営む人々と交流をすることができた。
……思い出しただけでまた三半規管が狂いそうだ。うっぷ。
夢ならば、どうか覚めないでくれ。ここで死のうとも、私に後悔はない。
あの書類ばかりの部屋という名の牢獄で目覚めるほうが、私にとっては悪夢だ。
さてさて、たまには下方向、即ち床の扉を開いてみるのも一興か。
む、意外と重いな。よっこいせっと。
扉を開くと、蒸気が噴き出した後に熱気が肌に染み渡ってきて、湯気が晴れた後には水面が見えた。
熱湯が張られているのか? いやそもそも水なのかこれは?
水底を覗いてみると、椅子やらテーブルやらコンロやら流し台やらがある部屋で、どこかの家庭の台所のように見えた。
一見、洪水かなにかで水没した家の中を俯瞰で眺めているように感じられる。
そして、並べられた椅子には三人分の人骨が腰かけていた。
仲睦まじい家族の団欒だが、如何せん肉と皮が足りていない。あと命も。
この扉はダメだな。先へ進める気がしない。次。
下がダメなら今度は上だ。
幸い、どこかの廃墟と思しき場所にあった脚立を確保してある。
これなら天井の扉にもなんとか届きそうだ。
ふむ、丸型で左右にスライドして開くタイプか。変な扉だ。
では開いて覗いてみるとするか。
頭上には、大きな影が二つ見えた。
それは、顔だけで5mはありそうなほどの巨大な体躯、の幼い子供たちだった。
「あ、なんか変なの出てきた!?」
「ボーナスキャラじゃね!? 叩け叩け!」
「おりゃあ!」
ぬぐぉ!?
頭を扉から出した直後に、ピコンッ と気の抜けるような音とともに頭に衝撃が走った。
衝撃の割に痛みはないが、その振動でバランスを崩して脚立から落ちてしまった。
う、うぐぐ……! な、なんだったんだ、今のは。
あれは、まさか巨人か? 巨人の子供か?
オモチャのハンマーのようなもので引っ叩かれたが、もしやあの扉は彼らの遊ぶもぐらたたきゲームの穴にでも繋がっていたのか?
ううむ、巨人の住む世界というのも興味深いが、あの子たちがいる限り顔を出そうものならまた叩かれるだけだろうな。
今回は見送ろう。次。
……落下した時に打った尻が痛い。
うむ、やはり普通に横の壁伝いの扉を開くことにしよう。無理はよくない。
痛む尻を押さえながらヨロヨロと歩いていると、近くにあったドアがひとりでに開いた。
おっと、自動ドアか。急に開くものだからビックリした。
丁度いい。今度はこの先へ進んでみようか。
ドアの先は、ジャンクフードを売っている店のような内装、というかまんまバーガーショップだな。
もしかして元の世界に帰ってきてしまったのか?
……いや、店内に掲示してあるポスターをよく見ると、見たことのない文字が使われている。
アラビア語でもシンハラ語でもないフニャフニャしたよく分からない言語。どこかのマイナーな民族が使う文字かなにかか?
ふむ、この際だ。なにか買って食べてみるのもいいかもしれない。
幸い金貨や銀貨を他の世界で入手しているし、これらと交換してもらえれば食料を手に入れられるだろう。
というか、この店誰もいないな。
客はおろか、店員の一人もいやしない。準備中か?
とか暢気なことを考えていると、なにかが店内を飛んでいるのが見えた。
ボーリングの玉くらいの丸い影。なんだあれ……は……!?
「ううぅぅ~~~~……!」
その浮いている丸い影は、人間の頭部だった。
首から下がなく、フードショップの店員が被るような赤い帽子を身に着けていて、なぜか半泣きで彷徨っている。
生首が浮いて、動いている? どうなってるんだアレは。
「ううう……ないないの神様、ないないの神様、助けてくださぁい……」
あちこちキョロキョロと忙しなく首を動かしながら、なにかを探しているようだ。
顔だけ見れば可愛いものだが、如何せん絵面がホラーすぎる。
……関わらないほうがよさそうだな。早く戻るとしよう。
「あうぅ~~~……! 私の包丁、どこへいっちゃったんですかぁ……! お願いだから出てきてください~~~~~!!」
……なんだか聞いていて可哀そうになってきたが、悪いが私に助けられることはない。ではさようなら。
ううむ、なかなか思うように探索できる扉がないな。
まあそんな中から進むことができる扉を見つけるのもまた楽しみの一つではあるのだが。
さて、次はどの扉を開こうか。
まだまだ開いていない扉は無限にある。死ぬまで何十年でも楽しめそうだなハハハっ!
なお、包丁はどっかのアホがパクった挙句、今だに返却していない模様。




