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執念とは恐ろしい

 日刊ランキングを覗いてみたら、なんだか見覚えのないところにこの小説の名前がががががが

 ……『今日の一冊』様の効果に戦慄すら覚える今日このごろ。

 S氏には足を向けて寝られません。何度も重ねる形になりますが、感謝を。

 もちろん、お読みくださっている方々にも感謝します。




 囚人たちだって、最初(ハナ)から犯罪者になりたかったわけじゃない。

 少なくとも俺の下で鍛錬を続けている五人は全員そうだ。ルルベルなんか冤罪だし。


 自業自得といえばそうなんだけれど、それでも同情の余地が全くないわけじゃない。

 一応、あのクソ親父も左手を魔獣にムシャムシャされなかったらちょっと性格悪い親父程度で、犯罪者になんかならなかっただろうし。



 冤罪のルルベルを除けば、メイバールが最も罪が重く、また最も同情できる動機があった。

 なんでも、彼は元々とある街の地下にある、闘技場の選手だったとか。

 なんかどっかの格闘漫画の主人公みたいな経緯だが、今は置いておこう。茶化すには事情が重すぎる。


 その地下闘技場は暇を持て余した金持ちたちの見世物会場みたいな場所で、檻の中で人や魔獣が殺し合う違法施設だったとか。

 魔獣はともかく、そんな場所で戦う羽目になる人を連れてくるなんて普通に考えてまず無理だ。憲兵にチクられたりしたら一発アウトだし。


 で、運営元がどうしていたのかというと、これがまたゴミみたいな手口で。



 ①雇われの弱い戦闘職に、地上で適当な冒険者とかに難癖付けさせる。 


 ②弱いから反撃であっさりやられる。万が一勝っちゃった場合は不発。次のターゲットを狙う。


 ③報復と称して運営から強力な戦闘職を差し向け、ボコって確保。そのまま地下闘技場のファイターとして強制的に戦わせる。


 ④負ければ魔獣のエサとして処理、勝てば次の相手と戦わせる。負けるまで延々と戦わせ続ける。



 という、捕まった時点でほぼ詰みなシステムで運営していたんだとか。胸糞。

 行方不明者とかの捜索依頼が出にくいように、街を訪れたばかりの新顔とか魔獣討伐依頼を受けてる最中の冒険者なんかを狙ってたらしい。


 で、メイバールとその当時の相棒も同じ手口で捕まって、死ぬまで戦わせ続けられることになったとか。

 タッグを組んで何体も強力な魔獣を倒し続けて勝ち進んでいたが、メイバールが先に限界を迎えてしまって体勢を崩し、魔獣の攻撃をモロに右足へ喰らってしまった。


 右足を失い、そのまま殺されるかと思ったところで相棒がメイバールを庇い、刺し違える形で魔獣を倒して命は助かった。メイバールの命は。

 相棒は、そのまま息絶えてしまったらしい。最後になにかを言いかけていたが、重傷を負っていたためかメイバールはこのあたりの記憶が混濁していたらしく思い出せないらしい。



 ここまでだけでもキツいのに、『片方だけが生き残ってしまい勝負が無効になり、賭けの結果を台無しにされた』とか言って、ペナルティとして運営側はメイバールを拷問。

 あちこち酷い傷跡があったのはこの時のものだったのか。


 しかし、相棒を失ってしまったメイバールには身体の痛みなんかよりも心の痛みのほうがずっと酷く、大してつらくはなかったらしいが。

 むしろ自分の不甲斐なさがあまりにも情けなくて、自分を痛めつける拷問は救いにすら感じられたとか。



 その後、全身ボロボロで死ぬだけの身になったメイバールだったが、ただ一つの目的のために生きようともがいていた。

 相棒が死ぬきっかけをつくった運営の長への復讐。それだけのために死ぬことを拒んだ。


 片足を失っているうえに拷問されて全身ボロボロの状態だったからか、ロクに拘束もされずに転がされていたところに、引導を渡そうと運営の長自らがメイバールの傍まで近付いた。



 執念とは恐ろしいもので、その運営の長を見た途端、死に体だった身体に火が点いたように熱と力が戻った。




 ナイフで首をかき切られそうになったその瞬間に、そいつの喉笛を噛み千切り、近くにあった拷問用の三叉槍を掴んで暴れまわったらしい。




 死ぬ覚悟で、傷を負うことを厭わず暴れたためか誰もメイバールを止められなかった。上級職の人間ですら彼を恐れて逃げた。

 あまりに激しい暴れっぷりに大騒ぎになり、地下から観客やら運営側の人間やら魔獣やらが逃げ出し、その騒ぎを聞きつけて憲兵がなだれ込んできたあたりで意識が途切れたらしい。



 その後、生命維持・回復の処置を受けて生き延びたメイバールは、事のあらましを全て自白して牢屋行きとなった。

 いくら運営側がクズ揃いだったとはいえ、殺人を犯した事実は変わらない。

 しかし、事情が事情なので酌量の余地は充分にあって、5年弱程度の刑期で済んだんだとか。


 もっとも、相棒を失い、かたき討ちを達成し、死ぬ覚悟で暴れ狂った後にはもうなにも残っていなかった。

 生きる気力もなく、意味もないまま、ただ周りの指示に従いながら死んだように生き続けてきた、らしい。





 と、非っ常にシリアスな事情がメイバールにはあるわけで。

 重い、重すぎる。

 こんなもん脳内回想で茶化す気にもなれん。


 ……コレを立ち直らせろってか? 俺、人生相談の先生ちゃうぞ。




 どうしたもんかと頭を悩ませながら、今日も今日とて『先生』の下でお料理教室という名のレシピ交換会に顔を出すのであった。




「………いや、脈絡なさすぎるっしょ。なんでその滅茶苦茶重い回想を語った後にお料理教室に行く必要があるんすか……?」


「いや、ひとまずメイバールのことは置いといて新しいレシピを交換しあってレパートリーを増やそうと思いましてね」


「置いといていい事情じゃないと思うんすけど」


「……その回想だけで胸やけしそう」



 いや、これでもどうしようか割と真剣に悩んでるんだよ?

 その結果、まずは前準備の下済みにお料理教室が必要だと判断したわけで。

 え、どんな判断だって? 聞くな。自分でもおかしいとは思っとるわい。




「というわけで先生、よろしくお願いします」


「お願いします、先生」


「今晩もお世話になりますわ、先生」


「…………あの、その『先生』と呼ぶのはそろそろ勘弁していただけませんか……?」



 困惑した顔でそう言うのは、お料理教室の『先生』ことレイナの御母堂様『フェリアンナ』さん。

 俺やアルマどころかアルマママまで『先生』と呼んで敬っていて、いつも週一くらいのペースでこの小規模なお料理教室を開いている。

 俺も先週あたりからお世話になっているが、実に有意義な時間だった。


 このお料理教室のルールとして、『それぞれが持ち込んだ食材とレシピを基に料理を作って、その過程と結果の改善点をフェリアンナさんに評価・指摘してもらう』というものだ。

 なんでフェリアンナさんが先生なのかというと、なんとこの人、いや、このお方は料理スキルLv9の凄腕コックなのである。


 なんでも、クソ親父の収入がなくなってから治療費や生活費を稼ぐために、死に物狂いで食堂で働いて料理を作り続けていたそうな。

 ただスキルに頼るだけでなく、日々改善点を見つけ続けて時短をはじめとした効率化の研究を寝る間も惜しんで続けて、食材一つ一つの特性なんかも熟知していったらしい。


 結局、レイナが孤児院に向かった後にクソ親父も後を追うように出ていったので、本格的にお金を稼げるようになる前に『夫の腕を治す』という目的自体がなくなってしまったらしいが、それでも料理の研究を趣味半分に続け、その結果気が付いたらスキルレベルがえらいことになっていたとか。

 ……執念とは恐ろしい。実際コワイ!



 その場の全員がフェリアンナさんに一礼している様子を、連れてきたジルドが戦慄しながら眺めていた。



「すげぇ、あの教官たちが全員頭を下げてら……。あの金髪教官の姉ちゃんっぽい人、ちっこいのにものすげぇ人なのか……?」


「ああ。俺たちが束になっても敵わないほどの業前を持った、凄腕の達人だ。お前も失礼のないように、敬意をもって接するがいい」


「そ、そんなにすげぇのかよ……!? あ、よ、よろしく、お願いします……」


「あ、あの、ですから、そんな誤解を招くような紹介の仕方はやめていただきたいのですが。その子もなぜか私に怯えてしまっているみたいですし……」


「カジカワさん、お母さん困ってるっすからほどほどにしたげてっす」



 はい、すみません。正直悪ノリした感は否めない。

 でも噓は言っていない。仮にここにいる俺たち全員が全力で力を合わせてフェリアンナさんと料理対決をしたとしても、惨敗するところしか想像できねぇ……。


 ちなみに料理を習うわけでもないジルドを連れてきた理由は、このお料理教室の後に用事があるからだ。

 ちょっとジルドが仕送りしているあばら家とその街の状況がまずい。



 近々、スタンピードが起こるらしい。

 それも、ダイジェルの時よりもずっと大規模な侵攻が。


 さて、どうするジフルガンド。

 そしてどうする、メイバール。


 ま、最悪の事態に陥らないように裏で色々手は回すつもりだが、ここを凌ぎきれるかどうかで彼らの今後が決まるかもしれない。

 気張れよ、野郎ども。



 

 あ、料理作るの俺からですか?

 よーしパパグラタンつくっちゃうぞー。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[良い点] フェリアンナさん、料理のレベルが9もあるのですか! これは確かに、先生役として最適だと思います。 ただでさえ美味しい料理が、更にレベルアップする上に、広く世界にレシピを定着させるためにも、…
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