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閑話①ベタ転生

新規のブックマーク登録ありがとうございます。

お読み下さっている方々に感謝。


今回は、召喚されることになった勇者の閑話です

 

 気が付くと、真っ白な光景。

 というかどこを見ても白一色で、本当に目が見えているのか分からない。

 ここにはなにもない。人もいない。自分の身体さえも見えない。というか、身体がない?

 オレ、いったいどうなってる?


 ああ、夢か。自覚のある夢、明晰夢とかいうの。

 夢を自覚すれば、好きな夢を見ることもできるとか。覚めないうちに楽しまないと損だな。

 というわけで、ネット小説みたいに異世界で無双プレイとかやってみたいです。あとハーレムとか作って色んな女の子とリア充ライフも送りたい。

 …自分の思い通りに夢を見るのってどうやるんだっけ?強くイメージしても真っ白空間のままなんだけど。精神となんとかの部屋かな?




 《あの、すみません、そろそろ気が付きましたか?》



 他に誰もいない筈の空間から、急に声が聞こえてきた。

 声色からして、女性か? 声はすれども姿は見えず。



(い、いきなり話しかけられてビックリした。…誰ですか?)


 《ごめんなさい。異世界無双とかハーレムとか欲望だだ洩れで妄想していらっしゃって、話しかけるタイミングが分からなかったので》


(え? こ、声に出てましたか? すみません)



 うわめっちゃ恥ずい。でもそれ男の夢だから。仕方ないから。



 《仕方ないって…。男の人って皆そのような感じなのですか?》



 !?

 え、今のは声に出してないはずだぞ?

 思考を読まれてるのか?



 《ええまあ、今、貴方は肉体のない魂だけの状態ですから、声に出すのも思考するのも大差ありません》


(タマシイ? 肉体のない状態? え?)


 《貴方の、最期の記憶を覚えていますか?》



 最後? いや最期?

 なにそのまるで俺がすでに死んでますみたいな言い方。

 そもそもここどこだよ。夢の中じゃないのかよ。寝る前にオレなにやってたんだっけ?


 昨日は休日で、一人で海に釣りに行ってたな。

 バイトのシフトキツいし、別のバイト探そうかなぁでもメンドイなぁとか思ってボーっとしながら釣りをしていたら、ヒットしたはずみで足滑らして釣り場から海に落ちて、それから、…それから?



 《それから、貴方は打ちどころが悪く気絶してしまい、そのまま溺死したようです》


(え、いや、え? は? え?)



 う、嘘だろ。そ、そうだ、その記憶も含めて夢に違いない。

 だってそうだろ? オレまだ二十歳だぞ? 特にやりたいこととかないし目標も持ってないけど、人生これからで、そのうち自分に合った職に就こうと思ってるのに、それはないだろ。

 夢なら覚めてくれ。頬つねらなきゃ、って手も頬もないのにどうやって抓ればいいんだよ。



 《…残念ですが、事実です。貴方は死にました》


(…嘘ぉ。まだ俺童貞だったのに。女の子と手を繋いだこともなかったんだぞ? てか友達もほとんどいなかったけどな)


 《ご愁傷さまです。しかし、悪いことばかりではありませんよ?》


(ん? なに? 天国行きにしてくれるとか?)


 《…貴方にとっては、ある意味そうかもしれませんね。努力すれば、男の夢とかいうものを叶えることもできるかもしれませんよ?》


(そ、それって、もしかして)



 《そう、貴方さえよければ、私の管理する世界、貴方の言う異世界に転生させてあげますが、どうでしょうか》


(テンプレ乙ゲフンゲフン、…本当ですか!? 異世界で俺TUEEEしたり美少女たちとキャッキャできたりするんですか!?)


 《てんぷれ…? まぁそうですね。最初から無敵というわけでも、貴方に惚れている女性がいるわけでもありませんが、最終的にそうなりやすいように調整することは可能です。…というか美少女『たち』って、最初から複数いること前提なんですか…》



 呆れ顔が想像できるような、低いトーンで声を漏らしている。



(私の管理する、ってことはあなたはその世界の神様なんですか?)


 《大体想像通りの存在と認識していただいて結構です。全知全能とはいきませんが、できることの範囲は広いですよ》


(そうですか。…ところで、オレを転生させる理由はなんですか? まさかあんまりにもアホみたいな死に方してるのが可哀想だったからとかじゃないですよね?)


 《…実は、転生する際に貴方に一つお願いがあります》


(あ、やっぱ条件があるんですね。世界を滅ぼそうとしてる魔王がいるからそいつを倒してほしいとかですか? いやそんなベタな条件なわけが)


 《そ、そうです。…察しがよろしいですね》


(…え?)


 《え?》




 …

 ベタ過ぎるだろ! なんだそのテンプレオブテンプレな理由は!

 冗談半分で言ったベッタベタな予想がまさかのビンゴ。なにこの気まずい空気。



(え、えーと、なんか、すみません。ホントに)


 《い、いえ、お気になさらず…》



 いらんこと言ったせいでお互い変に気遣うような雰囲気になってしまった。

 …話を戻そう。



(その魔王、というのは神様の力でどうにかできる存在ではないのですか? まさか神様より強力な存在だったりするのでしょうか)


 《いえ、私はあくまで世界を管理する存在であって、その世界に生きる者に直接干渉することは禁じられているのです。より上位の存在によって、ね》


(怖い上司みたいな神様がいるんですか。神様にも、色々あるんですね)


 《ええ、まあ、本当に…》



 あ、なんか余計に空気が重くなってきた。

 …あんまりこの手の話題はしない方が良さそうだ。



 《と、とにかく、その魔王を放置しておくと、やがて世界に甚大な被害をもたらし、最悪、人類が絶滅する危険すらあるのです。そして、それを私が直接排除することができないので、貴方に討伐をお願いしたいのですが、いかがでしょうか?》


(え、えーと…。転生する時に、なんか特典とかありますかね? さすがに素のスペックのまま世界滅ぼすような魔王と戦えとか言われても、無理ですけど)


 《そうですね。魔王を討伐するために、必要な力を手に入れやすい職業になれるようにしてあります。ああ、職業を始めとした、ステータスなどについても説明いたしますね》



 …なんか、こうして話してるとホントに異世界転生や転移のテンプレって感じだな。

 胡散臭い感じはないけど、逆にこれといって個性的な展開でもない。ベタな展開だな。

 まあ、若いまま死んだのは残念だが、クソつまらんバイトに明け暮れる日々が続くよりずっといいか。

 ステータスって言ってたけど、もしかしてファンタジー系のRPGみたいな世界なんだろうか。それもベタだが、ちょっとワクワクしてきた。


お読み頂きありがとうございます。


次で閑話は終わる予定です。

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