異世界アルマ 14話 勇者としてではなく、自分としての覚悟
今回無駄に筆が滑ったので、二話に分けました。
「散れぇい! 雑魚どもがァっ!!」
「っ! 下がりなぁっ!!」
魔王が、大雑把に腕を振り回した。
「ぐぅぉおぁあっ!?」
「がぁああっ!!」
それだけで、周囲にとんでもない衝撃が走る。
地面が抉れ、周りにいた人たちが弾き飛ばされていく。
「くっ……! 脳筋馬鹿が、なんて力だい……!」
「どうしたぁ? 私はただ腕を振るっただけだぞぉ、はははっ。剣神を名乗るのであれば、一太刀でも浴びせてみるがいい」
「お望みなら、やってやるさね!」
目にもとまらない速さで、針のように鋭い斬撃を繰り出す剣神。
並の相手なら、瞬きする間に真っ二つになっているかもしれない。
それを魔王は武器も防具も使わず、素手で防いでいる。
「鈍い切れ味だな。武器の手入れがなっていないのではないか?」
「バケモンがっ……!」
何度剣を振ろうとも、魔王には傷一つ付けられていない。
頑丈すぎる。僕の剣がアルマに通用しないように、単純に魔王が強すぎて攻撃が効いていないんだ。
全て腕で受け止められて、いやそもそも本当は防ぐ必要すらないのかもしれない。
「ふん、先代魔王にすら及ばんな。この程度、魔王二体を取り込んだ私に勝てる道理はない」
「魔王二体を、取り込んだだって……!?」
ど、どういうことだ?
勇者と違って、魔王は一人だけのはずだ。
魔王は、先代の魔王が死ぬか、あるいは先代に認められて初めて魔王になれる。
そして、先代の魔王は魔王の座から離れて、普通の魔族へと戻る。そういった仕組みのはずだ。
「貴様らには関係のない話だ。……いい加減鬱陶しいぞ、老いぼれがぁっ!!」
「ゴホァッ!!」
剣神のお婆さんのお腹に、思いっきり拳を叩きこんで殴り飛ばした。
防ぐ間もなく、まともに喰らってしまったようで、血を吐いて倒れてしまった。
残っているのは二人。
僕と、槍使いの勇者だけだ。
「おいおい、マジかよ。剣神のバアさんまでやられちまったぞ」
「ど、どうしよう……」
「弱音吐いてんじゃねぇよ! お前も勇者だろうが、根性見せやがれ!」
狼狽える僕を、槍の勇者が叱咤する。
胸ぐらを掴みながら、僕に問いかけてきた。
「おい、お前も勇者なんだろ。なら『勇技』には目覚めてるか? この状況を打破できそうな技はあるか!?」
「ゆ、勇技? く、黒塗りされてる技ならあるけど」
「ちっ、まだ目覚めてねぇのかよ! 半端な野郎だな! なら下がって見てろ!」
不機嫌そうに罵ってから僕の胸ぐらから手を離し、突き飛ばしてから魔王に向き直った。
その背中は、なぜかとても大きく見えた。
「……オレだけじゃどこまでやれるか分からねぇ。オレの勇技は条件さえ満たせば無敵だと自負してるが、魔王相手じゃちときつい」
「ぼ、僕も一緒に戦えば……」
「今のお前じゃ足手纏いなんだよ! いいか、勇者ってのは単に身体を鍛えりゃいいってもんじゃねぇ! 覚悟を決めた時に本当に強くなれんだよ! これは精神論でもなんでもねぇ、勇者はそういうふうにできてんだ!」
僕に向かって語りかけながら、魔王に向かって突進していった。
だ、駄目だ、剣神でも歯が立たなかったのに、彼一人でどうにかできるはずが……!
「つぇぇえいっ!!」
「ふん、また雑魚が……っ!?」
勇者の槍を、また素手で受け止めようとした魔王の顔が険しく歪んだ。
その手を見ると、血が滲んでいるのが分かる。
攻撃が、通じた……!?
「ちっ! ほんの数ミリしか刺さらねぇだと……!!」
「貴様、私に傷をつけおったな。……ほほう、勇者か。技能の項目に勇技『遺志の槍』とやらがあるが、それの効果か」
「人のプロフィールを覗いてんじゃねぇよ、気色わりぃな!」
「どうやら倒れた仲間の数だけパワーアップする能力のようだが、味方の人数が限られているこの戦場では十全にその力を発揮できまい」
「テメェにゃこれで充分だ、三流の魔王様よぉ!!」
確かに、槍の勇者は強くなっている。
剣神すら凌ぐ槍捌きに、浅いとはいえ魔王に傷を負わせるほどの攻撃力。
「そら、ド素人三流魔王の攻撃くらい捌き切ってみせろ」
「ぐはっ!? ま、だまだぁっ……!!」
それでも、魔王には及ばない。
10の力が100になったところで、1000の力には敵わない。
何百回も攻撃を繰り出しているのに、せいぜいかすり傷程度しか負わせられていない。
対して、魔王はほんの少し小突いただけで槍の勇者に致命傷を与えている。
勝ち目なんかまるで見えない。絶望的な戦いだ。
なのに
「ゲホッ、ガハァッ……!! くそったれ、がぁ……!!」
「死に体でよく吠える。倒れてしまえば、楽になれるぞ?」
「テメェ如きに敗れたら、はらわた煮えくりかえって楽になるどころじゃねぇやぁ!!」
何度叩きのめされても、すぐに立ち上がって戦おうとする。
もう身体中ボロボロなのに、まるで諦めずに立ち向かっていく。
なにが、彼をそこまでさせるんだ。
「てめぇ、ごときに、だれも、ころさせて、たまっかよぉお……!!」
「無様な。見苦しいわ、蚊トンボが!」
一際大きく腕を振るい、槍の勇者を殴り飛ばした。
それでも立ち上がろうと勇者が身体を起こそうとするけれど、気を失って地面に突っ伏してしまった。
「あ……あ……!」
残っているのは、僕一人。
勝てるわけがない。
敵うはずがない。
斬りかかったところで、殺されるだけだ。
戦えない、戦わない言い訳を頭の中で並べながら、立ち尽くしてしまっている。
「残りは貴様一人か。……ふん、もはや戦意も無いようだな。ならば、そこで指を咥えて見ているがいい。まずは、あの化け物とともにいた小娘を葬ってくれる」
こ、むすめ……?
だれの、ことだ。
魔王が見ている先には、始めに弾き飛ばされて倒れたままのアルマの姿があった。
「さあ、死ね! 死んで、あの世で詫びよ!!」
そう言いながら、魔王がアルマのほうへ突き進んでいく。
速い。このままじゃ、一秒も経たずにアルマの命を絶つだろう。
なにしている。
僕は、なにをしている。
おまえは……てめぇは……っ!!
「なにしてやがんだクソ野郎がぁぁぁぁあああっっ!!!!」
不意に口から、今まで出したことのないような罵り声が吐き出された。
アルマを殺そうとする魔王に、そしてなにもせずにウジウジしている僕自身に、憤慨する心の声が爆発した。
「でぇぇえええりゃぁぁああああっっ!!!」
「ご、ほぉぁあっ!!?」
気が付いたら魔王よりもさらに速い動きで身体が動いて、その横っ面をぶん殴っていた。
魔王の顔に拳がめり込んで、歯が何本も折れたのが見える。
「ぐはぁっ……!? き、き、貴様、その、力はなんだぁぁ……!!?」
「うるさいっ!! 彼女に、アルマに手を出すなぁっ!!」
頭の中が熱い。
さっきまで殺されるのを怖がっていたのがバカみたいに思えてくる。
そんなの、アルマが死ぬことに比べたらどうってことないだろうがっ!!
「しょ、職業技能か!? ……ゆ、勇技『ダメージトランサー』……!? これまで受けたダメージを、一時的に能力値に加算する技能だと!? 能力値が、わ、私と互角の、15万まで……!!」
「はぁぁぁああっ!!!」
魔王がわざわざ口に出して解説してくれたおかげで、今の僕になにが起きているのかが分かった。
これまで受けたダメージというのは、おそらくアルマとの修業で受けた傷も含まれているんだろう。
彼女から受けた、数えきれないほどの致命傷が僕に力を与えてくれているんだ!
ここまで能力値が高いと、並の武器じゃまともに傷つけられない。
なら殴る。剣もなにも捨てて、殴り続けてやる!!
お読みいただきありがとうございます。




