何処へ
仁科さんに連れてこられて辿り着いたのは街外れの廃墟、の地下にある彼女たちの拠点の一つ。
ゴゴゴゴ と本棚が動いて隠し通路からの隠し階段が出てきた時には不覚にもテンション上がった。
将来、家を持つようになったらこういった仕掛けを備え付けたいもんだ。え、なんでって? ワクワクするだろこういうの。
「本来なら一般人は立ち入り禁止なのですが、今回の場合はやむを得ない状況ですので。……というかよくよく考えたら一般人でもないですが」
「だよね。むしろ隔離される側だよねオレたち」
「でも、大人しく収容されてくれるわけでもないんでしょう?」
「当たり前でしょ」
「ですよねー……」
雑談しながら奥へ進んでいき、会議室みたいな部屋に入って『ここで待っていてください』と来客用の席に座らされた。
オレたちを置いて、仁科さんだけ他の部屋に行ってしまった。
これまで言われるがままについてきてしまったけど、大丈夫なのかねぇ。
とりあえず、この施設の情報が少しでも分からないかと『順風耳』を発動して辺りの音を拾ってみると、仁科さんと上司らしきがなにか話しているのが聞こえた。
『……ですので、座標が合っているのであれば、こちらから奴らのアジトを急襲することも可能なはずです』
『しかし、仮に上手くいったとしても奴らに対抗できるのか?』
『充分に打倒し得る力を有していると断言できます。彼らは普段は力を抑えているようですが、本気を出せば平常時の十倍以上もの力を発揮できるということを確認済みです』
『……それが本当なら、真っ先に収容するべきなのは君が連れてきた子たちじゃないのか? 平常時でも5000近い異質エネルギーだというのに、その十倍って君ねぇ……』
『しばらく観察して判断した結果、彼らは敵対さえしなければ基本的に無害と結論付けました。むしろ、協力関係を築くことができればこの上ない戦力として―――』
ふぅん、上司は危険分子の収容を優先するべきと言っているのに対して、仁科さんはオレたちの力を借りるべきだって説得しているみたいだな。
もしもオレたちが無害そうに猫被ってて、実はとんでもない悪人だったりしたらどうするのかね。
まあ、その可能性を踏まえて上司とも話をしているんだろうけれども。
『ここのところ『異世界帰還者』による事件も増えていることですし、その捕縛に参加してもらうことを条件として、彼らに協力するべきだと進言します』
『ううむ、確かに……。こないだなんか異世界の異質金属をオークションに出そうとしたバカもいたことだしな。確か名前は吉良だかなんだかだったか? 我々の目から逃れるために今は異世界に逃亡中らしいが、ちょっとした旅行感覚で異世界に行くとかフットワーク軽すぎるだろ……』
『帰還者だけでなく、異世界からの侵略者や漂流者も後を絶ちません。この異常事態に歯止めをかけるには、やはりこちらも異世界の力を宿した存在の協力が必須ではないかと』
『連れてきた子たちは信用に値するのかね?』
『実力こそ規格外ですが、その価値観や道徳観は我々と大きな差異はないと思われます。特にリーダーらしき金髪の娘は日本人が異世界転生した存在のようで、こちらの事情にも人並みには通じています』
『……はぁ。部外者を、それも異世界の子供たちをアルバイトとして雇うことになろうとは。我々の組織も末だな』
長々と説得を続けた結果、上司が折れたようだ。
文句を言いつつも、オレたちの力を使わざるを得ない状況だということを理解してくれたようだ。
……『金髪のコ』ってオレのことか? なんかイントネーションに違和感があったような……。
『座標が分かっているのならば、すぐに転移プロセスの準備を。あと、念のため誰か一人か二人は残っていてもらうように』
『? なぜですか? まさか人質にとるおつもりで?』
『いやむしろこっちが人質にとられそうなんだが、違う。……もしも全員が転移してる間にまた大きな事件が起こったりしたら、我々だけじゃ対応しきれんかもしれん。万が一の保険として、戦力を残しておきたい』
『あー、またあの悪魔たちみたいなのがやってきたらどうにもならないですもんね。……やっぱウチの組織もうダメなんじゃないですかね……』
『言うな、悲しくなってくる……』
……なんだか悲壮感溢れる会話をしていらっしゃる。
まるで絶望的な納期に嘆く工場ラインの作業員みたいだぁ……。
オレがバイトしてたトコが丁度こんな感じだったなぁ。イキロ。
とりあえず、協力するふりだけしてこちらを拘束しようとかそんな様子はなく、本当に困ってるから渋々こちらに手を貸してくれるっぽいな。よかった。
あとはメニューに座標を調整してもらって、奴らのアジトに殴りこむだけだ。
『あと、少々気になることがありまして、ここ数年で失踪あるいは行方不明になった中に『梶川』という人物がいるか確認を―――』
順風耳を解除する直前になにか言っていた気がしたけど、よく聞こえなかった。
それから数十分後に転移プロセスとやらの準備が整って、あとは座標を指定するだけの状態になった。
アジトに乗り込むのはオレとレヴィアとオリヴィエ、あと仁科さん。
レイナとヒヨ子はお留守番だ。
「むぅぅ、自分もついていきたかったっす。拉致されたの、自分のトコのリーダーとその嫁さんなんすよ?」
「こちらでなにかトラブルが起きた時に対応する人員が必要ですので。……正直言って私と代わってほしいくらいなんですけど、お目付け役が必要ですので」
「レイナは影潜りが使えるし、追跡や隠密行動のスペシャリストだろ? 異常存在の確保にはレイナ以上の適任はいないだろ」
「アンタもあのバケモノみたいな強さのパーティの一員なんでしょ? 頼りにしてるわよ」
「ふふん、そういうことなら仕方ないっすねー。こっちは自分に任せるっすよー」
チョロい、チョロすぎるぞこの幼女。
肩に乗ってるヒヨ子も心なしかジト目で呆れているように見える。……鳥頭に呆れられる忍者とは。
「それでは、転移を開始します。忘れ物はありませんか?」
「大丈夫。ティッシュとハンカチもばっちりだ」
「……遠足じゃありませんよ。では、転移!」
床に書かれた魔法陣みたいな文様が青白く光り、それと同時にオレたちの身体が徐々に透けていく。
隣にいる仁科さんの緊張した面持ちも、オレ自身の手も。
目の前の自分の手が完全に透明になったかと思ったところで急にクッキリ見えるようになり、気が付いたら見慣れない場所へと移動していた。
どこかの遺跡のような石造りの通路があったり、かと思ったら近未来感溢れる機械がビッシリと並んでいる部屋があったり、混沌とした印象の場所だ。
ここが、アイナさんたちを拉致した連中のアジトなのか?
「……転移は、成功したのか?」
「そのようです。見慣れたロゴマークがチラホラ見えますので、ここが連中のアジトと見てよさそうですね」
「妙な場所ですね。ひどく散らかっているというか、ちぐはぐというか」
オリヴィエが困惑した様子で眺めているが、確かに変な場所だ。
どんな意図でこんな建築様式にしたのか分からないが、無国籍というか無秩序というか。
≪様々な次元や時空がつぎはぎのように繋がっていますねー。まるで21階層のようです≫
21階層ってことは、もしかして異世界にも繋がってたりするのか?
≪そのようです。なるほど、ここなら異世界の研究も捗るでしょうねー。その扱いかたを理解することができればの話ですが≫
「警戒態勢に入ってください。一見静かですが、ここは敵のアジトです。どこから襲ってくるか分かりませんので」
拳銃を構えながら、仁科さんが辺りを見回し索敵している。
んー、確かにちょっと静かすぎて不気味だ。
……順風耳で辺りの音を拾ってみるか。アイナさんたちの姿が見えないけど、近くにいるのかな。
『うぅ……』
『あ、あがが……』
「んん……? なんかこっちのほうから人の呻き声みたいなのが聞こえるんだが……」
「誰の声? もしかしてアイナさんたちの声じゃないの?」
「分からん。とりあえず声がするほうへ向かってみるか」
「罠が仕掛けられていたりしないか、注意しつつ進みましょう」
呻き声が聞こえるほうへ進んでいくと、一際大きな空間に辿り着いた。
……体育館? こんな場所まで繋がってんのかよ。
「こ、これは……?」
体育館の中は悲惨な有様で、爆弾でも爆発したんじゃないかってくらいあちこちボロボロになっている。
爆心地の周りには、黒焦げになって気絶している人影が数十人近く横たわっていた。
≪あーあーあー……。梶川さんたちを確保しようとして、反撃されたっぽいですねー≫
「こいつら、アイナさんを拉致した連中の仲間みたいだ」
「あー……まあこうなるわよね」
「……ご愁傷様です。一応、死なない程度に加減はしてあるみたいですが、お気の毒ですね……」
「えええ……この人たち、アサルトライフルや対物ライフルまで装備しているんですけど、全滅してるじゃないですか……」
全員が顔を引き攣らせながら目の前の惨状を眺めている。
こいつらも決して弱くはないんだろうけど、相手が悪すぎたんや……。
「うわぁ……」
「Oh……」
そこから奥のほうへ進んでいってるけど、どこもかしこも似たような状況だった。
通路にめり込んで壁画みたいになってる奴や、首から下が地面に埋まってさらし首みたいになってる奴に、なぜか顔にラクガキされて泣きながら横たわっている奴までいた。
……コレやったの絶対梶川さんたちだわ。オレたちが救出するまでもなく、アジト壊滅してるんですがそれは。
「こんだけひどい状態なのに、誰も死んでないってのがまた逆にヤバいわね」
「……もうやだあのバケモン……」
「ぐすっ……いっそ……殺せぇ……」
「……泣くな。お前たちは頑張ったよ、うん」
「拉致された人たち、助けなんかいらなかったんじゃないですかね……」
言うな。オレたちもそう思うけど言ってやるな。
完全に心が折れてるやつらを尻目に、最深部と思わしき場所まで進み続けた。
部屋の中を覗いてみると、誰かが部屋の中心でへたり込んでいるのが見えた。
あれは……アイナさん……!?
「アイナさん!」
「っ……! ネオラ、君?」
「ご無事でしたか、よかった……!」
こちらに気が付いて、振り向いたその顔は今にも泣きそうな表情をしていた。
目立った外傷はなさそうだが、心細くて半ベソかいてたのかな。なにそれちょっと可愛い。
……あれ?
「あの、梶川さんとアルマは? 一緒に飛ばされたんじゃ……」
「あ、あの、ね……」
いつものアイナさんらしからぬ深刻な表情で、震えた声を漏らした。
「カジカワ君が、ここのボスっぽい人を脅して日本へ帰還させるように言ったんだけど、そのボスっぽい人が最後の悪あがきに『お前らも道連れだ』って言って、変な機械を作動させたかと思ったらカジカワ君とアルマちゃんの身体が青白く光って……」
「……え? そ、そっからどうしたんですか?」
「ふ、二人とも、ボスっぽい人と一緒に、どこかへ飛ばされちゃった……」
……なんですと?
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目の前に広がるのは、地平線まで広がる荒野。
「ここは、どこ?」
自分の持ち物を見ると、腰に差した剣と小さなポーチ以外なにも持っていない。
「なんで、こんなところに……」
見慣れない景色に、ただ一人。
ひどく身体がだるい。
なんで、どうして、なにがあったの。
いや、そもそも……
「わたし、私、は、……? なんで……? 名前、分から、ない……?」
私は、誰?
自分のことさえ曖昧な状況に眩暈がして、そのまま目の前が暗転して、意識を、手放してしまった……。
あ、ちなみに飛ばされた先は本編とも次回作とも全然関係ない、まったく違う世界です。




