まるで戦隊ものの悪役みたいな
「ってことはなにか? 梶川さんたちはその悪の秘密結社みたいな連中に拉致されたってことか?」
「チープな表現ですが、大体合ってます」
「ファストトラベルで戻ってこないところをみると、自力じゃ戻れない場所みたいだな。オレたちもそこへ向かうことはできないのか?」
「無理です。やつらは未知の転移技術を有しているようで、追跡しようにもその手段がないのです」
アイナさんが囲まれた時に、梶川さんとアルマが奴らを弾き飛ばした瞬間に消えた。
メニュー曰く、転移系の術式が確認できたらしいがどこへ飛ばされたかは分からない。
マーキングしておいたのに、マップのどこにもその存在が確認できない。どうなってる。
と思ったところで、急にこの変な女性が声をかけてきた。
見た目は普通のOLかなんかに見えるが、この人も妙な組織の一員なんだとか。
と言ってもアイナさんたちを拉致した連中とは違う、むしろ敵対関係にある組織らしい。
この女性が属しているのは、異界からの影響を公の場へ波及しないように監視・隔離・制御する団体『セーフティ・オーガニゼーション』。
で、この人は現場での活動を担当している『仁科隊員』というらしい。
ちょっと前に悪魔っぽい連中が次元の裂け目から出てきた時に、記憶や記録が消去されていたのもこの人の工作のおかげなんだとか。
「ただでさえここのところ異界からのお客様が多くて大変なのに、あんな連中まで活動が活発化してるもんですからもうやってられませんよ。今日は特にひどいです」
「あー、まあ自分で言うのもなんだけど、オレたちもおたくらからしてみれば相当ヤバい連中だろうしね」
「ホントですよ。異質エネルギー5000近い人たちが7~8人も街を闊歩してるもんですから、こちらとしては胃が痛くてたまったもんじゃないです……」
「お、おう……なんかすんません」
この人も相当な苦労人っぽいな。気のせいか目が死んでるように見えるし。
薄幸美人っていうか、終電逃がしたOLみたいな顔をしておられる。……その、頑張れ。イキロ。
異質エネルギーってのは、オレたちで言うところのステータスの能力値に該当する概念かな。
5000ってことは、大体ステータスの値そのまんまと見てよさそうだ。
「アイナさんたちを連れ去った悪の秘密結社紛いの連中は? なにが目的であんなことをしてきたんだ?」
「大体予想通りだと思いますが、異世界の物品や技術、あるいは生き物なんかを利用・悪用して世界を裏から牛耳ろうとしているロクでもない連中です」
「ベッタベタだな。まるで戦隊ものの悪役じゃねーか」
「ですよね。……? あの、あなた方は異世界の住民ではないのですか? なぜ戦隊だの悪の秘密結社だの、地球側の知識を御存知なのですか?」
「あー、オレは元々日本人なんだけど、いわゆる異世界転生して生まれ変わった人間なんだよ。だからこっちの事情なんかも当たり前に知ってる」
「まるでネット小説ですね。ベッタベタです」
「ですよねー」
中身が日本人同士だからか話がスムーズに進められて助かる。
オレだけでもこっちに残っていてよかった。いやアイナさんの救助が遅れたのは自分でもどうかと思うが、まあ結果オーライ。
でも後でアイナさんに怒られたりしないかな。ホントゴメンナサイ。
「ちょっと、アンタたちだけで盛り上がってるところ悪いけど、こっちにも分かるように話してもらえるかしら?」
どこか楽し気に話しているオレたちを冷ややかな目で見ながら、レヴィアが文句を言ってきた。
オリヴィエやレイナも困惑したような顔でこちらを見ている。話に置いてけぼりにされてちょっと苛ついた様子だ。
「ああ、すみません。今話をまとめますので。……ところで、彼女たちも異世界転生者ですか?」
「いや、転生者はオレだけで、彼女たちは向こうの世界の生まれだよ。ちなみに拉致された梶川って人は日本からの異世界転移者。2018~2019年くらいに向こうの世界に飛ばされたとかなんとか言ってたな」
「ふむ、生まれ変わったとかではなくそのまま転移したということですか。ん、『梶川』? ……聞き覚えがあるような……」
なにか考え込んでいるが、それよりも拉致された三人の安否が心配だ。
たとえ救助に向かえなかったとしても、今のオレたちにできることを確認しないと。
「アイナさんたちを拉致した連中は転移の技術を実用化していたみたいだけど、アンタらはどうなんだ?」
「はっ? え、ええと、一応それに近い技術はありますけれど、使用するにはより上位の職員の許可が必要でして……」
「転移の手段自体はあるんだな?」
「……はい。しかし、連中のアジトへ行くには座標が分からなければ無理です」
メニュー、さっきの転移術式の解析は? 座標は分かるか?
≪バッチリです。スキル由来の転移魔法じゃ行けない場所みたいですけど、この人たちの所有している転移手段によっては、アイナさんたちがいるところへ転移することも不可能じゃないはずです≫
さすがだな。じゃあこの人の属している組織のもとへ案内してもらうとしますか。
「座標はさっきの転移の術式を見て分かってる。転移の手段があれば、そこへ向かうことができると思うぞ」
「……え、本当ですか!? ち、ちょっと高スペック過ぎませんか貴方。見ただけでどこに飛ばされたか分かるなんて、今まで誰も解析できなかったのに……」
≪ふふん、ワタシの手にかかれば朝飯前ですよー。まあワタシ手なんか無いし御飯なんて食べられないんですけどねー≫
はいはい有能有能。すごいよお前は。
「しかし、上手く連中のアジトに転移できたとして、果たして奴らに対抗できるかどうか……」
「ん? え、なに? アイツらそんなに強そうな連中には思えなかったけど、なんか秘密兵器でも持ってるの?」
「はい。異質エネルギーを収束して作り上げる生物兵器の研究を進めているらしく、暴走した生物兵器相手に我々も何度か交戦したことがありますがまるで歯が立ちませんでした。最終的に自壊して死に絶えましたが、その時の異質エネルギーは一万を超えるほど強大なものでした。果たしてあなた方でも倒せるかどうか……」
「あ、たったの一万? ならいけるわ」
「……え?」
今のオレたちなら一万程度の能力値なんかどうってことない。
この分なら梶川さんたちも大丈夫そうかな。
……もしかしたら、オレたちが向かうころには連中のアジト壊滅してるかも。ご愁傷様。
~~~~~拉致された異世界転移者視点~~~~~
「く、くそぉおお! 誰か、奴らを止めろぉおお!!」
「む、無理です! 対象の攻撃は苛烈! 中でもあの日本人と思しき男は生物兵器並の膂力を ゴハァッ!!」
「残るはお前だけだ。ボコられたくなかったら俺たちを元の場所へ帰せ」
「ぐっ……!」
あれから奴らのアジトを探索しつつ、見かけた連中を片っ端から叩きのめしている。
どいつもこいつも全然情報を寄越さない。というか末端の構成員はあまり重要な情報を知らされてはいないようだ。
なんつーか、『この組織に入れば超能力とか使えるようになってスゲー強くなれる』みたいな宣伝を真に受けて、気軽な気持ちで入った連中ばかりみたいだ。
「このどこぞの悪の秘密結社みたいな施設でなにやらかしてるか知らんが、勝手にこんなところに連れてこられて迷惑している。さっさと戻せ」
「サンプル如きが、舐めるな!」
幹部っぽい偉そうなオッサンが、壁に備え付けられていたボタンを押した。
すると、壁が自動ドアのようにスライドして開き、中から妙な生き物が出てきた。
『ハジュルルルル……!!』
人に酷似した四肢をもち、しかしその先端には鋭利な爪が生えている。
頭に目は無く、尖った牙がビッシリと並んだ口から長い舌を伸ばし舐めずっている。
……うわ、グロい。つーかキモい。
「貴様らの異質エネルギーはおよそ2000~8000ほどと計測した! そして、この最新型の生物兵器は20000を超える! 貴様らに勝ち目などあろうはずがない!」
「ふーん」
異質エネルギーってのは能力値のことかな。
なかなか正確に測ってるじゃないか。ってことは、このエイリアンみたいなやつは能力値20000相当の力を秘めてるってことか。
「余裕ぶりおって……! やれ! 死ななければ、手足の一本や二本もぎ取っても構わん!!」
『シャァァアアッ!!』
うわ、もう完全に怪人をけしかけてる悪の幹部の様相ですやん。
冗談はさておき、こんなのまでいるとはちょっと予想外だった。
アイナさんだけ拉致されていたらかなり危なかったな。アイナさん、気力操作使えないし。
ま、なんの問題もないけどね。
「はい、おすわり」
『ギャ、ベシャァアッ!!?』
「……は?」
ベシャン とエイリアンもどきの身体が地面にうつ伏せの状態になり、止まった。
かつて孤児院のワンシャンにやったように、エイリアンもどきの身体に魔力の重りを乗せて地面に押し付けたんだ。
全力を出せば200000近い能力値を発揮できる、今の俺の気力と生命力をたっぷりブレンドした魔力の塊だ。
たとえ能力値が20000だろうが50000だろうが身動き一つとれないだろう。
「はいはい、いい子だねー。そのまま動かないでねー」
『ガ、ガ、カッ……!? ギャ、ギャウッ! ギャウゥ……!!』
「あと、こっちに襲いかかってきたら容赦なく殺すからねー。分かったらそのまま寝ててねー」
『ギ、キィイイ……』
始めは激しく抵抗していたけど、ちょっと脅してやるとすぐに大人しくなってくれた。
なんだかガタガタ震えてるけど、こんなナリでもしっかり恐怖は感じるみたいだな。
「怯えちゃって可哀想に。こんな怖がりなヤツを無理やり戦わせるとかお前ら最低だな」
「いや、怖がってるのはカジカワ君のせいじゃね?」
「……可哀想なのは同意するけど」
後ろ、シャラップ。
「さて、最後のチャンスだ。……俺たちを日本へ帰せ。でなけりゃ、ちょっとばかし痛い目みてもらうぞ」
「ま、待て! それほどの力があれば、我々の組織でも相当上位の立場になれるはずだ! どうだ、お前たちも実験体ではなく、正式に雇用されてみないか!?」
「断る。いいから帰せっつってんだろ。それとも、このエイリアンもどきみたいに床の敷物になりたいのか?」
「なっ……ぎゃああああ!!」
幹部っぽいオッサンもエイリアンもどき同様地面に押し付けて圧迫してみた。
ミシミシと嫌な音を立てながら、死にそうな状態でうつ伏せになっている。
「さて、どこまで耐えられるかな? ほーらだんだん重くなっていくぞー、潰れたくなけりゃ帰る方法を教えろー」
「ひぎゃああああああ!! わ、分かった!! 帰す! 帰すからやめてくださいぃぃいい!!!」
「……どっちが悪役か分かんないんですけど」
「……可哀想」
後ろ、シャラップ!
お読みいただきありがとうございます。




