日本滅亡の危機
「……あんなに豪華な食事が、全員合わせて二万エンくらいで食べられるなんて……」
「おつまみやデザートまで頼んだのにねー。毎日三食とも外食で贅沢し放題じゃないのさ」
「こっちの一般人の経済力を考えるとそれはちょっと厳しいかと」
ファミレスでちょっと贅沢な食事をして、歩きながら談笑中。
パラレシアで同じくらい食べたら多分10万エン近い値段するんじゃなかろうか。
「う、うっぷ……ジュース飲み過ぎたっす……」
「だからほどほどにしておけと言ったでしょーが」
「だって、あんな珍しいものが飲み放題だっていうから、そりゃテンション上がるのは仕方ないと思うっすー」
「まあ炭酸ジュースの類が珍しいのは分かるがな」
「ヒカルが自分で作ろうと思うのも分かるくらい、美味しかった」
さーて、次はどこへ行こうかなー。
そうだ、近くに娯楽スポーツセンター的な施設があったっけ。そこで腹ごなしも兼ねて、ちょっと遊んでいきますかね。
「………?」
「ヒカル、どうかした?」
「……いや、特には」
……なーんかさっきから不穏な気配を感じる気がするけど、気のせいだ気のせい。うん。
せっかくの旅行だ。変に警戒しすぎて楽しめなくなるのも嫌だし、こっちにちょっかい出してこない限りはほっとこう。
≪警告:上空に空間の歪みを観測。異空間より何者かがこちらに転移しようとしている模様。臨戦態勢へ入ることを推奨≫
……。
クソが。たまの休みをのんびり過ごすことすらできんのか俺たちは。ふざけんな。
よし決めた。速攻で片付けて何事もなかったように旅行を再開するとしようそうしよう。
~~~~~なんか異常な現象とか物品とか存在を監視・隔離とかしてる組織のメンバー視点~~~~~
くそぅ……! あんのリア充どもめぇ!
こちとらアンタらのせいで余計な任務が増えてるってのに、そっちは楽しくショッピングとランチってか!
私も混ぜろ! てかもう帰りたい! なんでこんなストーカー紛いの監視なんかしなきゃならんのですかー!
とか僻み全開で異世界からのお客様を眺めていると、通信機からコールが鳴り響いた。
もーなんの用ですかーもう帰っていいですかー。
『仁科隊員、その周辺に時空間の異常が発生している。早急に対処をしてくれ』
「え、いやいや私今あの異世界リア充集団の監視中なんですけど。そんなもの対処してる暇ないっていうかそもそも私一人でなんとかできるものなんですかそれ?」
『かなりの高エネルギー体が時空間異常の向こう側から観測されている。もしも侵攻目的でこちらに転移しようとしているのであれば、極めて大きな被害をもたらしかねん。早急に異常を解消し、転移を阻止せよ』
「あ、無視ですかそうですか。……てかヒビ! 空にヒビがはいってるんですけど!?」
空間の歪みが上空で発生しているらしいということを確認して空を見上げると、青空に真っ黒なヒビが入り始めている。
や、やばいやばいこれどう考えてもヤバいヤツじゃないですか!
『ただちに塞げ! 空間補修キットを展開しろ!』
「だ、駄目です! ヒビがどんどん大きくなっていって、もう間に合いません!」
もうなんなんですか! こちとらただのヒラ隊員なんですよ!?
あんないかにも『これからヤバい奴らがここから出てきます』みたいなのに対処できるわけないじゃないですかやだー!
ヒビがどんどん大きくなっていって、ついに パリィン と窓ガラスが割れたかのように、空の一部が割れた。
割れた穴の向こうには、人の身体に山羊の頭をもつ化け物や、孔雀のような羽根を広げた馬、髑髏の描かれた羽根をもつ巨大な蠅なんかがこちらに向かっているのが見えた。
その一体一体が、日本を滅ぼしかねないほど強力なエネルギーを秘めていると計測機器が告げている。
もしかしたら、強い力を持っているけど善良な存在かもしれないと一縷の望みをかけたくなったけど、違う。
どう見ても聖書とかに出てくる悪魔です。本当にありがとうございました。
終わった。もうダメだ。あんなものがこっちにきたら対処なんかできない。
こんなことなら任務なんかサボって最後くらい好きに過ごしたかったなー……
「な、なんだあれ……?」
「特撮の演出じゃね?」
「いや、ああいうのは後から編集するエフェクトであって、こんなふうに出るのは、……え?」
一般人たちにもバッチリ見られちゃってますねこれは。
すぐに記憶消去を、とか思いそうになったけど無駄だと気付いてやめた。
だって、どうせこれから皆死ぬし。
『フシュルルル……! いるいる、憐れな生贄どもが』
『まずはこの一帯を焼き払い皆殺しにし、ゆっくりと魂を食わせてもらうとするか……』
ヒビの向こう側で、悪魔たちの声が聞こえた。
……ああ、くそぅ、なんでこんなのが近付いてるって誰も気付かなかったんですかー……!
「はいはい、こちら通行止めとなっておりまーす」
『……!?』
『なんだ、人間……?』
もう完全に諦めムードで空を仰いでいると、ヒビの前に仮面を着けた誰かが立って、いや浮いているのが見えた。
……え、アレってさっきファミレスで彼女とあーんし合ってたリア充こと監視対象じゃないの?
完全に空飛んでるんですけど。なに? 野菜人かなにか?
「はるばるこのような場所まで御足労いただいて誠に申し訳ありませんが、さっさと帰れ」
そう告げた後に、仮面男が空中を蹴った。
『ブホァッ!!?』
『な、なにが、ヘブァッ!?』
『ギャアアア!!』
その直後、ヒビの向こう側にいた悪魔たちが、なにかに蹴っ飛ばされたかのように顔をひしゃげさせながら吹っ飛ばされていく。
とんでもない勢いでヒビの奥のほうへと飛んでいって、もう姿も見えなくなってしまった。
……は? なにしてんの? いやなにが起きたの?
あのリア充仮面、マジでなにやってんの?
一国を滅ぼすほどの力を秘めた化け物たちを、蹴っ飛ばしただけで退散させたっていうの……!?
「えーと……これ閉じるかな。お、魔力なら掴めるっぽい。よしよし、ふんぬぬぬ……! よいしょ、っと。ヨシ!」
しかも空間にできた裂け目を無理やり引っ張って繋ぎ合わせおったよこの人。
そんなアホな。ギャグマンガじゃあるまいし、なんでそんなあっさり空間異常を修復しちゃってるんですかこの人。
『仁科隊員! なにが起きた! 応答せよ!』
「え、えーと、こちら仁科。な、なんか空間に裂け目ができて、裂けめの向こう側から悪魔っぽいのがワラワラと出てきそうなところで、監視対象の男が悪魔たちを追い返したうえに裂け目を塞いじゃいました」
『……意味が分からん! 落ち着いて正確な報告をしなさい!』
「いやいやいや、マジで今言った通りのことが目の前で起きてたんですって! 自分で言っててもわけ分かんないですけど!」
……頭痛がしてきた。
いや、助かったよ? 本当に彼のおかげで助かったんだけれども。
でも、よくよく考えたらあの化け物たちを軽くあしらえるくらい強力な存在が目の前にいるというわけで。
しかも、このリア充男、前触れもなく瞬間移動とか空飛んだりできるっぽいし、行動範囲の予測がつかない。
あれ? もしかしなくても、さっきの悪魔たちなんかよりずっとヤバい存在が街中を闊歩してるってことじゃないですか?
アカン。下手すりゃどのみち日本滅ぶんじゃないですかこれは。
お読みいただきありがとうございます。




