なんで
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今回始めはアイザワ視点です。
「急げ! 足元が崩れ始めてるぞ!」
「ああくそ、脱出しようにも窓すらねぇ! 魔王との戦いの最中に城の構造そのものが変わってやがる!」
崩れて今にも潰れそうな魔王城から脱出しようと、全速力で駆け抜ける。
クソ、城の奥へ進むのにはあのガキのスキルで影の中をひとっ飛びだったってのに。
自分の脚がこんなに遅く感じるとは、なんてもどかしさだ。
「オカマ、モタモタすんな! 隣の女どももなにふらついてんだ!」
「うるせぇな! こちとら魔王との戦いでスタミナ切れなんだよ! これでも全力で走ってるっての!」
「俺だってお前らに気力譲渡してスタミナなんか残ってねぇよ! 泣き言言わずに走れ!」
魔王を倒して膨大な経験値が入り、能力値が数段強くなったのが実感できる。
ほんの一発魔法を防いだだけで軽く10はレベルが上がっちまって、職業も『剣王』へとジョブチェンジできた。
俺ですらこの有様だ。多分、オカマやその仲間たちはLv100を超えているだろう。
レベルアップの影響で、魔力と生命力は全回復している。
だが、スタミナはレベルアップでは回復しない。
とにかく腹が減って仕方がねぇし、走る足にもまるで力が入らねぇ。
回復しようにもスタミナポーションはとっくに使い切っちまったし、メシなんざ誰も持っちゃいねぇ。
だがモタモタしてると潰されちまうし、空腹と脱力感を押し殺して騙し騙し走るしかねぇ。
「はぁ、はぁ、はぁ、……ヒカル、まだ、起きないの……?」
アルマは気絶してるカジカワのオッサンを担ぎながら、俺たちと大差ないペースで走り続けている。
……軽々と片手で担ぎながら走ってやがる。レベルアップしてどんだけ能力値が上がってるんだか。
このオッサンが魔王を倒す決め手になった……というか、下手したら最初っからこのオッサン一人でも倒せたんじゃねぇかアレ……。
アルマに身を任せているのを見ているとちとモヤモヤしてくるが、今はそれどころじゃねぇ。ケリをつけるのは帰った後だ。
「今更だけど、ホントにこっちに向かえば出口があるのか!?」
「外でバレドとラスフィが殿として待機してる! その魔力が近付いてるのが分かるだろ!」
「おお、マジだ! ……あれ? なんか、デカい魔力が近付いてきてねぇか……?」
ラディアがそう言うのを聞いて魔力感知を使ってみると、確かに俺たちに向かってなにかが近付いてきてるのが感じ取れた。
この、反応は……!?
逃げている最中、土煙の中からソレは現れた。
『ギイイィイィイイイッ!!』
「うわっ、なんだ!?」
「ご、ゴブリン……? いや、違う!」
出てきたのは、一見ただのゴブリンに見えた。
だが、違う。ゴブリンにしちゃ動きが速すぎるし、なにより魔力量がケタ違いだ。
「気を付けろ! こいつは王都防衛戦の時に召喚された固有魔獣だ! Lv90いってるうえに、戦った相手のスキルをコピーする能力を持ってるぞ!」
「こ、こいつ、まさか兄貴と戦ってる時に襲いかかってきたやつか……!? なんでこんなトコにいるんだよ!?」
「多分、魔王が持ち帰ってやがったんだ! あれからどこにも姿が見えないと思ってたら、魔王城の警備に使われてやがったのか!」
勇者とラディアがゴブリンもどきを見ながら喚いている。
……まずいな、こんなやつにかまってる余裕なんかねぇぞ。
Lv90以上ってことは、平均能力値は少なくとも3000~4000ってとこか。
真獣解放を使えばさらに倍化する。いくら強くなったからって無視できる相手じゃねぇし、気力操作無しじゃ手に余る。
「めんどくせぇ、さっさと死んでろクソが!」
『ギィッ!!』
【魔刃・疾風】で斬りつけたが、肉を斬る感触が伝わってこない。
代わりに硬質なものに弾かれたような手応えと、鋭い金属音が響いた。
ゴブリンもどきの手にいつの間にか剣が握られていて、俺の剣を防いだようだ。
「こいつ、どこにそんなもん隠し持ってやがったんだ……!?」
「バカ、なにやってんだ! そいつは自分の骨を変形させて武器として扱うことができるんだ! しかも今ので剣術や天剣術スキルもコピーされちまったぞ!」
「んなこと知らねぇよ! もっと早く言えや!」
「言う前にテメェが勝手に斬りかかったんだろうがバカ野郎!」
『ギギィイッ!!』
言い争ってる間に、ゴブリンもどきが斬りかかってきた。
速い、俺と遜色ないレベルで剣を振ってやがる。
「くっ! たかがゴブリンのくせに……!」
「スキルをコピーされてるからな、気力が尽きてるオレたちじゃ相手すんのはちときつい」
「ならもう真似されること覚悟で、全員で袋叩きにするしかねぇな!」
『ギィッ!?』
ラディアが短剣でゴブリンに斬りかかる。
それと同時に勇者の隣でふらついていた女どもも槍と魔法でゴブリンに攻めかかった。
その判断は正解だ。
モタモタしてたら城ごと潰されちまうし、どのみちコピーされちまうんだったらさっさと切り替えて全員で戦ったほうが効率がいい。
動けるやつ全員でゴブリンを仕留めようとしたところで――――
『ギイィイッ!!』
ゴブリンが、コピーした攻撃魔法スキルを地面に叩きつけて炸裂させた。
爆風で全員が弾き飛ばされる。ヤツ自身もダメージを負ってはいるが、あの状況じゃ最善の手と言えるだろう。
「……あっ……!?」
その爆風がオッサンを抱えていたアルマにも及んで、オッサンがアルマの手を離れて飛ばされてしまった。
墜落した直後に床が崩落して、床にできた穴の中へオッサンが落ちていく。
「う、うああああっ!!」
悲鳴を上げながら、迷いなく穴の中に飛び込もうとするアルマの姿が見えたから、咄嗟に腕を掴んで止めた。
「ま、待て! どこに繋がってるか分かんねぇんだぞ!」
「離して!」
アルマが叫ぶのと同時に、腹部に鈍痛が走った。
腹に、アルマの拳がめり込んでいるのが分かる。
「がっ……! あんな、とこに、飛び込んだら、お前まで死、んじまうぞ……!!」
肺に残った空気を絞り出して、アルマを説得する。
オッサンが恋敵だからって見捨てるつもりは微塵もねぇ。俺だって助けてやりてぇ。
だが、もう本当に時間がない。今すぐにでも脱出しないと間に合わない。助けようとしてる間に、城が潰れて全滅しちまう。
そう説得しようと息を整えている間に、アルマが手を振り払いながら口を開いた。
「……私は見捨てない。ヒカルが死ぬのなら、私も死ぬ」
それだけ告げて、オッサンが落ちていった穴の中に飛び込んでいった。
止められなかった。俺じゃ、ダメだった。
「アル、マ……」
あれは、その場の勢いだけで出た言葉じゃなかった。
アルマは、本当に、あのオッサンと、……カジカワと、死ぬ覚悟だ。
「く、そっ……!!」
意地になって、俺も穴に向かって飛び込もうとしたところで、城があちこち爆発を起こし始めた。
その爆風に煽られて、身体が弾き飛ばされて―――――
~~~~~アルマ視点~~~~~
ヒカルの落ちた穴に飛び込んで、魔力感知を使って必死に探す。
なんで、なんで、ヒカルばかりがこんな目に……!
彼は誰よりも魔族との戦いに備えて頑張ってきたのに。
未来に飛ばされたネオラたちを助けたのも、街への侵攻に対応できるように計画を練っていたのも、魔王を倒したのだって、ヒカルだった。
毎日フラフラになりながら走り回って、夜には泥のように眠っていたのを見ると、どれだけ大変な思いをしてきたのか想像に難くない。
もう彼は報われるべきだ。
もう休んでいい。これ以上頑張る必要なんかない。誰よりも働いた。誰よりも頑張った。
なのに、この仕打ちは、ひどすぎる。
彼だけが助からないなんて、私は絶対に認められない。
なんとしても、助け出す。
たとえ一緒に死ぬことになったとしても、後悔はない。
そうなったらきっとヒカルは怒るだろうけど。『なんで俺を置いて早く逃げなかったんだ』って。
……死んだ後に怒られるのかなんて、誰にも分からないけど。
穴の中を進んでいくと、一際大きな空間に出た。
ここは、魔王の間? なんで、こんなところに……?
……あちこちで妙な魔力の反応が感じられる。
魔王が最終形態になった時に城の構造が変化していたし、魔王が死んだ影響で部屋の間取りなんかがデタラメに繋がっているのかもしれない。
その魔王の間の隅に、ヒカルが倒れているのが見えた。
ゴブリンの放った魔法や城の崩落や爆発に巻き込まれて、こんなところまで飛ばされてしまったみたい。
その傍に、今にもヒカルに剣を振り降ろそうとしているゴブリンの姿が見えた。
なにを、してるんだ!!
反射的に『必殺技』を発動して、ゴブリンに斬りかかった。
「やめろぉぉおおおっ!!!」
自分の口から、これまで出したことのないような絶叫が上げられた。
視界が赤く滲む。自分の顔が怒りに歪んでいるのが分かる。
『ギギャアァアッ!!?』
「死ねぇっ!! 死ね! 死ね!! 死ねぇえええっ!!!」
剣を振るいながら、叫び続ける。
自分自身でも驚くくらい激しい憎悪と殺意が湧いてくる。
怒りの籠った声を上げずにはいられない。……まるで、私の危機に駆けつけてくれる彼のように。
『ギギイイィィイッ!!』
「くっ……!!」
何度か斬りつけているうちに、ゴブリンの持っている剣が光を纏っているのが見えた。
あれは、【光線剣】か。……魔法剣までコピーできるなんて。
真獣解放を発動しているらしく、膂力はわずかに向こうが上。
気力が尽きかかっている私一人じゃ、城が崩れる前に倒すことはおそらく無理だ。
でも、それでも、ヒカルだけは最後まで守り続ける。
彼には、いつも守られてばかりだった。その度に、いつか私も強くなって、彼を守ってあげられるようになりたいと思っていた。
……実際には、彼ばかり強くなっていって、そんな機会は訪れなかったのだけれど。
やっと、守ることができる。
……城が崩れてしまうだろうし、命まで救うことはできないだろうけど。
最後まで、最期まで、大好きなあなたを守りぬいてみせるから――――――
「退け」
『バ、ギャッ……!!?』
いきなり、ゴブリンの頭が爆ぜて、砕け散った。
「……え?」
思わず呆けたような声が出てしまった。
頭のないゴブリンの身体の傍に、誰かが立っているのが見える。
その『誰か』がゴブリンを殺したんだと分かった途端に、頭の中が疑問符と絶望に埋め尽くされた。
「なん、で……!?」
なんで、ここにいるのか、
なんで、この男が生きているのか。
なんで、コイツがゴブリンを殺したのか。
目の前には、ボロボロで今にも崩れ去りそうな、それでも確かに自分の脚で立っている、魔王の姿があった。
私たちを睨みつけながら、その手に魔力を集中させているのが感じ取れた。
「さっさと、消えろ」
魔王の手から私たちに向かって、魔法が放たれる。
速すぎる。避けられない。防げない。ダメだ、死―――――
魔王の魔法によって、青白い光に包まれながら私たちの身体はその場から消え去った。
魔法が着弾する寸前に、魔王が何かを呟いたのが、はっきりと聞こえた。
「面倒をかけたのぉ、若いの」
お読みいただきありがとうございます。
>うおー、凄え伏線回収だ!―――
あ、前話のあとがきにも書いてありまずがこの倒しかた思いついたの今年の初めあたりなんで伏線でもなんでもないです。基本的に無計画に展開を決めてマス。
……布石ってなんだっけ(;´Д`) と自分でも分からないという。
>あの魔王が最後の一人だとは思えない――――
今回はレア中のレアケースですが、そもそも魔王にする魂をチェックしておかなかった神様の怠慢で起こった事故みたいなもんですからねー。
まあ、『魔王に選ばれる魂は平等でなければならない』という理由もあって、あえてチェックしていなかったのかもしれませんが。
>梶川って、そんな魔王を吹き飛ばせるくらいに―――
気力は尽きていましたが、魔力は大半が残っていました。
しかしそのことを伝える描写が乏しく疑問に思われるようなので、前話に追記を加えておきました。分かりづらくて申し訳ない(;´Д`)
>これには久本――――
せめて伏字をお願いしますー!(;´Д`) アタマガパーン
>過剰に魔力を渡すにしても結構なペースで食わないとそんな過剰供給出来ないのでは?―――
魔力は大半が残っていたので、エフィの実の効果とかではないですねー。
……下手にこんな描写にしたせいで誤解ががが(;´Д`)
>魔王とGATTAIとか予想してたらこんな発想がと驚愕でした。―――
当然ながら、魔王や魔族は仲間枠には入れませんし、拒否されればそれまでですので。
最後に復活したように見えますが、さて。
>魔王が蜥蜴だったら食べてそう。
某りゅうおう的な。……ありえないと言えないあたりが主人公クオリティ。
>魔王は魔力の直接操作さえ出来れば雑魚だった?
遠隔操作で、かつ頭部に集中させるのも割とシビアな操作が必要なので、こんな真似ができるのはカジカワかアルマくらいでしょうねー。某メタル某呼ばわりはやめて差し上げろ。
>人体をそのまま焼いても肉料理のようなにおいはしないと思うけど……―――
182話の感想ありがとうございます。
インドの川端で火葬されているにおいが香ばしいって話を(ry
……実際に嗅いだ事はないのですが(;´Д`)
>あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ―――
読者ナレフ乙。誰だ今の。
……そういえばそんなこと書いてたなーと今になって思い出しました。まさかホントに書いてくるとは(;´Д`)
次回作の進捗は、今作の投稿が遅れるのを防ぐために『今作の話の投稿後にしか書いちゃダメ』というルールを自分の中で設けてます。
要するに、次回作書きたかったらまずこの物語の話を投稿しろって話ですね。
というわけで、今日のこの後の時間は次回作を書き進め(ry




