最終戦
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……………。
身体を覆う光が消えていくのとともに、融合が完了したのが分かった。
『おおァアっ!!』
それと同時に魔王を覆っていた黒い障壁が砕け散り、最終形態へとその姿を変えたのが見えた。
雄々しい雄叫びを上げながら、その威容を露わにしている。
それを表現するとしたら、巨人とでも言うべきだろうか。
全身を覆う金属のような、陶器のようにも見える硬質な光沢のある表皮に、ビッシリと黒い文様が描かれている。
一見硬そうに見えるが、筋肉の蠕動に合わせて脈打ち膨らんでいるのを見る限り、柔軟さも兼ねた皮膚のようだ。
肩や肘に膝なんかには鋭い剣山状の刃がビッシリと生えている。
あの刃一本一本が最高レベルの固有魔獣装備を優に超える攻撃力を秘めているだろう。
全長20mは下らない巨体。
アルマママの使役する『クトゥグア』のほうが体高だけは上だが、感じられる存在感がまるで比較にならない。
仮にタイマンで戦ったとしても、秒で魔王が勝つだろう、
超重量超サイズでシンプルかつ攻撃的なデザイン。
ラスボスの最終形態にしちゃちと禍々しさが足りないとはたから見てたら思うかもしれないが、実際実物を目の前にしてみるとその威圧感に気圧されそうになってしまう。
その頭部には、額に元の魔王の頭が埋め込まれているのが見えた。
アレが弱点ですってか。……まずあそこにどうやって攻撃を当てればいいのやら。
巨大な額に埋め込まれている、魔王の頭部が口を開いた。
『………さて、少々待たせてしまったようだ。非礼を詫びよう』
「詫びなんかいらん。首を寄越せ」
『それは無理な相談だな。これから落ちるのはお前の首だ』
互いに皮肉を言い合いながら、相手の力と出かたを探り合う。
もう既に戦いは始まっている。一瞬たりとも気が抜けない。
『一つ問おう』
まずは牽制か、魔王がいきなり問いかけてきた。
「なんだ、いきなり」
『勇者は、どこへ消えた?』
………。
え、なに言ってんだこいつ。
その一言を聞いたところで、はじめて自分の姿を確認した。
いつもの視点の高さで、特に違和感はない。
服が冒険者スタイルからなぜか背広に変わってるけど、なんだこれ。
着てる服がスーツに変わってる以外、特に変化が感じられない。
待て、ちょっと待て。確かに融合したはずなのに。
性別も変わってないし、多分容姿もそのまんまっぽい。どういうことだ。
『……まあいい、疾く死んでくれ』
そう聞こえた直後、気が付いたら魔王の巨大な拳が目の前にあった。
いや、はっや!? 攻撃のモーションが全く見えなかっ――――
「……えっ?」
拳が当たる直前、反射的に身体が動いていた。
いつの間にか腰に差していた刀を抜き、拳を斬りつけつつ身体を捩って回避。
刀なんか今まで扱ったことがないのに、まるで何十年も振り続けてきたかのように自然と身体が反応して、駆動した。
『……やはり、そう簡単にはいかぬか』
予想通りといった様子で魔王が呟く。
こうなることが分かっていたかのような言い分だが、本人が一番困惑しているんですがそれは。
……これさぁ、もしかしなくても俺がベースになってたりする? それも容姿に全く変化なしで。
混乱しかかった頭を冷やしてみると、勇者君やアルマたちの意識や感情が俺の中にあるのが感じとれる。
まさか、こっちの世界の人間の身体じゃないから規格が違って上手く融合できないから、外付けステータスに勇者君たちがプラスされる形になったのか?
かなり強引な解釈だが、今の状況を見る限りそう考えるのが自然だろう。
「よ、よかったぁぁ……!」
『……どうした、九死に一生を得たような顔をして』
「いやさぁ、ネオラ君がベースになるとはいえ、女になるっていう体験は正直勘弁してほしいと思ってたところでな。女性を卑下するつもりは微塵もないが、自分が女体化とかするのはちょっと……」
『……』
魔王が呆れたように目を細めながら睨んできてる。
こっちにとっちゃ死活問題じゃい。
「服が背広に変わってるけど、ホントよかった。助かった」
『なにに対して安堵している』
「……万が一あのフリフリな可愛らしい服のまま融合してたら、目の前に女装したオッサン予備軍が現れることになってたけど、お前そんなもん見たいの?」
『断固否定する』
さすがにそんな悪夢の権化みたいな有様は見たくないのか、魔王も顔を顰めている。
んー、この背広、見た目の割にすごく動きやすい。全然動きの妨げにならん。
しかも頑丈なのが触っただけで分かる。柔らかなのに、全然破れる気がしない。どんな材質してんだ?
『よもや、勇者ではなくお前に統合されるとはな。こんなことは恐らく歴代でも初めてだろう。……つくづく非常識な』
「こっちも驚いてるよ。はぁ、女にならずに済んで嬉しいやら、ネオラ君に押し付けられずに面倒なような」
……あ、なんかネオラ君が心の中で抗議の声を上げてる気がする。
『なんでアンタは女にならないんだよ、不公平やぞ!』みたいな。知らんがな。
レヴィアリアは俺と融合していることに不満たらたらな様子。
『……なんでこんなバケモンと』とか言うのはやめてくれ。泣くぞ。
オリヴィエールは、強い不安を抱いている反面ネオラ君の力になろうと踏ん張っている。
『なにがあっても、誰が相手でも、大好きなネオラさんのために』と。
この子、なかなか根性あるな。……他人の恋事情なんか覗き見るのは気がひけるが。
そして、アルマ。
……融合するんじゃなかった、と後悔してしまいそうになった。
最悪だ。
最悪だ。
こんな、心を覗き見るようなことになる前に、もっと早く俺のほうから気持ちを伝えておくべきだった。
『気に病まなくていい。私も、ヒカルの気持ちを感じとってしまったから』
音じゃない、声でもない言葉で、そう聞こえた気がした。
多分、これもアルマが今思ってることなんだろうね。
……アカン、最終決戦の最中だってのに、もう恥ずかしいやら嬉しいやらで、あー、もー、あああ!!
「お前のせいだクソ魔王が!! 今すぐブチ殺すっ!!」
『……なにやら理不尽な怒りを抱かれているようだが、死ぬのはお前のほうだ』
まるで蚊でも潰そうとするかのように、両手を叩き合わせて潰しにかかってきた。
パァン とその音と衝撃波だけで軽く2、30人くらい殺せそうなくらい派手な衝突音が響いた。
そんなもん、楽に避けられるんですけどね。
『っ……!』
「らぁっ!!」
叩き合わせるのをジャンプして避けた後に、魔王の手から一気に(多分)弱点の頭部に向かって魔力飛行。
大槌を魔力遠隔操作で叩きつけながら、居合斬りで魔王の頭を斬りつけた。
攻撃が当たる瞬間に、二回ほど甲高い金属音が響き大槌と刀が弾かれた。
……例のブロッキングもどきか。
そう簡単に弱点を攻撃できるわけがないってか。
少し動いてみて分かったが、勇者君と融合したことにより『ブレイブスキル』の恩恵を得ることができるようになったようだ。
ついに俺にもスキルが、と思いそうになったが派手なスキル技能なんかは特になさそうだ。
ちなみに『スキル』と『マスタースキル』、あとアルマの装備してる重力水晶アクセサリの『ユニークスキル』は全滅してるっぽい。
※取得不可※の制限は、どうやらブレイブスキル以外のスキル全てに適用されるようだ。……ちょっと期待してたのになー。
ブレイブスキルがその制限に含まれないのは『勇天融合によって融合されているのに、勇天融合が使えない』という矛盾した状況にならないようにするためかな。
あるいは特殊な項目だから、スキルとは別の扱いってだけかもしれんが。
!
『はぁぁ……!!』
魔王が唸るのと同時に、その周囲に鳥の形をした炎が数十体現れた。
攻撃魔法の類かな。……一発一発にアルマママの使う上級魔法を遥かに上回る魔力が籠められているのが分かる。
『ふっ!』
その炎の鳥たちが、意志を持っているかのように羽ばたき俺に向かって飛んでくる。
速い、軌道が読みづらい、そのうえ魔王本体も同時に仕掛けてきやがった。
まあ、むしろ好都合だけどな!
魔力クッションで模った巨大な腕を広げ、炎の鳥たちを鷲掴みにして
「いけぇいっ!!」
『なっ……』
唖然とした様子の魔王に向かって投げ返す!
ふはははは! バカめ、半端な攻撃魔法なんぞ逆に利用することなんざ朝飯前よ!
魔王に炎の鳥たちが着弾していくが、まるで効いてねー。
表面に焦げ目が付いてるくらいで、中身は無事だなありゃ。
着弾した床や壁は、溶けるのを通り越して蒸発してるってのに。
融合する前なら、ここまで威力の高い魔法を投げ返すことなんかできなかっただろうが、今の俺なら容易い。
勇者の仲間枠に入ったことにより、元々のステータスが大幅に上がったうえに融合した仲間たちの能力値もプラスされ、さらにアイザワ君たちによる気力強化の効果により、もう頭悪いほど超強化されている。
おそらく、今の俺の能力値は20万近い。魔王も似たようなもんだろう。
そして、こっちは小さい分小回りが利く。
向こうは質量がデカい分、攻撃が通じにくいが空気抵抗なんかの影響かわずかに動きが鈍い。
そのわずかな差が、決定的にこちらにとって有利に立ち回る要素になっている。
だが、それでもこちらが不利だ。
アイザワ君たちによる強化が切れた時点で、敗北が濃厚になる。
魔力も気力も有限。アイテム画面が使えないから補給もできない。使える回復ポーションはほんの数本だけだ。
対して、魔王は称号の影響で気力も魔力も消費しない。
身体全体が硬く、また柔軟性があるという矛盾。刀による斬撃も、大槌の打撃も通じにくい。
そのくせ、急所への攻撃に対しては的確にブロッキングもどきで防いで無効化しやがる。
泥仕合になりそうな相手だが、それは許されない。
長期戦になればこちらが不利。
こちらは補給できないのに、魔王は消耗しないというクソゲー。
隙を見て頭部に攻撃を叩きこむのに苦労しそうだなこりゃ。
……しかし、なんというか、なーんか見落としてるような気がするんだよなぁ。
それも一つじゃなくて、多分二つくらい。能力値が上がりまくった影響か、直感こと脳内ゴーストがそう囁いているのが分かる。
絶望的ななにかと、それすら覆す、なにかを。
……メニューさんがいれば、あるいは教えてくれたかもな。
お読みいただきありがとうございます。
>シリアスな場面でもギャグを放り込んでくれるところ。ガス抜きありがたい。―――
シリアスばっかだと書いてるほうも気が滅入るので。
結局カジカワに統合された模様。カジカワのTSはまた後日やる予定
>子供の頃(平成初期)スーパーファミコンでポピュラスってゲーム―――
さ、左様でっか。
>なるほど、今こそ性転換薬の使い所か。―――
そもそもカジカワに統合されるという謎仕様のおかげで性転換せずに済んだ模様。
……でもTSはいずれやる予定。
>ラスボス戦でも下手にシリアスにならず、いつもの作風が維持されているところ。―――
完全にシリアスになってしまうのは、なんか違うなぁと。
といってもふざけすぎてもよくないというなんとも微妙なバランスを維持しなければならないという。無駄に難しいわー。
例の妨害ですが、魔王の近辺にいる対象にしか影響がありませんので21階層までは影響は届きません。あと、アナライズ・フィルターを装備していても目の前にいればメニュー画面表示を見ることくらいはできるようで。
>その覚悟って女になる覚悟のことだったのか。―――
今回は女にならずに済んだ模様。今回は。今回は。
こんな状況にならなければ、互いに想いを伝えるのはまだまだ先だったかもしれませんね。
>これ、融合した人も記憶や心情が伝わるなら梶川さん融合した瞬間にアルマとお互いの想い伝わるのかな?―――
Yes。モロに伝わってしまいました。
ある程度の表層意識しか感情は伝わらないしようなのですが、その表層意識の時点で互いに強い好意を抱いているので(ry
……融合が解けた後には、どうなるんでしょうねー。




