予想不可能な事態に備えよ
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
「アルマ! ありったけ魔力を籠めた重力魔法で、黒竜を地べたに叩きつけてやってくれ!」
「分かった!」
「レイナとヒヨ子はブレスに備えろ! 気力強化してなんとかしのいでくれ! 後のことなんか考えなくていい!」
「了解!」
『コケッ!』
アルマが重力魔法を使い、黒竜の身体にかかる重力負荷を何倍にも増幅させる
これまでは防戦に徹していたから、魔力を節約するためにあえて出力を弱めていたがここからは遠慮なしだ。
『グヴァアアアァァアアッッ!!?』
ここまで体重が重くなるとさすがに飛べないようで、地面に墜落する黒竜。
それに向けて、容赦なく新生大槌こと『ドラゴン・バスター(仮)』を振りかぶった。
新しい大槌は槌頭部分が小さくなっていて、爆発機関と噴出孔と思われる物々しい機械で覆われている。
持ち手はオリハルコンでできていて、サイズはほとんど変わってないから見た目はちょっとアンバランスに見える。
手に持った最初の印象は『軽い』だった。
魔王に砕かれるまで使っていた大槌はとにかく重く、アイテム画面がなければ持ち運ぶことすら億劫だった。
その分、相手にブチ当てた時の威力は相当なものだったが。
軽いからその分威力が弱まるのかというと、NOだ。むしろ前の大槌が可愛く思えるほど凶悪な出来に仕上がっている。
なにせ、槌頭部分に使われているのは吉良さんから受け取った『籠められた魔力に比例して重さを増していく謎の黒い箱』なのだから。
「おらぁぁあっ!!」
『ガヴァッ! ゴブッ! ガハァッ!!?』
地面に落ちた黒龍の頭を大槌で滅多打ちにしてやった。
ドラゴンスケイルがまるでせんべいでも割るかのように、容易く砕けていく。
振り回す際には軽いままで、攻撃が当たる瞬間に一瞬だけ魔力を籠めて重量を増幅。
そういった運用をすることで、爆発させなくても速さと重さを両立した攻撃が可能だ。
現に、爆発機関無しでもアホみたいに硬いドラゴンスケイルをぶち破って黒竜を殴り続けている。
『グロォォアアア!!』
「っ! ヒカル、退いて!」
黒竜が爪を振るって俺を引き裂こうとするのを見て、アルマが叫んだのが聞こえた。
魔力操作での防御はできない。黒竜のユニークスキルで魔力攻撃や防御は無効化・吸収されてしまう。
まあ、大槌があればなんの問題もないけどな。
「……え?」
アルマが呆気にとられたような声を漏らした。
無理もない。引き裂かれたのは俺じゃなくて黒竜の指だったんだから。
『グヴァギャァァアッ!!?』
「どうした。指、落ちてんぞ」
丸太ほどの太さがある指が、容易く輪切りにされて落ちた。
勿体ないからすぐさまアイテム画面に収納。これだけでも相当食いでがありそうだ。
なぜ黒竜の指が切れているのか、それは大槌を見れば一発で分かる。
手に持っている大槌の持ち手が大鎌のように変形していて、こいつを振るって切り裂いたんだ。
持ち手の部分はオリハルコン、に九尾の狐BBAが扇として使っていた『形状記憶生体金属』が混ぜ込んだものだ。
『合成画面』で融合できないかと試してみたらあっさり合成できた。
この金属は持ち手の意志に従って自由自在に形状を変化させる。まるで体外での魔力操作のように。
また、一度変形させた形状はいつでも再現可能で、槌頭部分の爆発機関なんかもこの金属が使われている。
要するに、仮に破壊されてもすぐに元通りになるという便利っぷりだ。修復画面の立場無しである。
これなら、魔力を吸収する黒竜相手でも問題なく対処できる。
なんてタイムリーな機能だ。黒竜相手じゃなきゃあんまり意味ない気もするぞこの機能。
さて、ではいよいよメインの爆発機関を試してみますかねぇ!
槌頭部分に魔力を籠めて、爆発させて……あら?
なんか、魔力を籠めても籠めてもどんどん吸い込まれていくんですがそれは。てか全然爆発しねぇ!
おいちょっと待て、まさかここにきて不具合発生とかシャレにならんぞ!?
『グルォォォォォオオォォオ……!!』
「いぃっ!?」
アカン、黒竜がブレスの準備してやがる。
こんな至近距離で撃つつもりか!? まずい、レイナとヒヨ子に吸収させようにも間に合わない。
待てやこちとら大槌の具合が悪いんだっつのああクソなんで爆発しないんだここで爆発しなきゃいつ爆発するんだリア充じゃないから爆発したくないってかふざけんないいから爆発しろやぁぁああっ!!
まごついている間に、黒竜の口から俺に向かってブレスが放たれた。
それと同時に、大槌の持ち手がまるで大砲のような形状へと変化し、その発射口からラーヴァ・ドラゴンのブレスそっくりな火炎の奔流が放たれた。
「……え、ちょ、な、はいぃっ!!?」
予想外の事態に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
放たれた火炎は黒竜のブレスを相殺、いや押し切って黒竜の顔面を炙った。
『ギャアアァァァアァアァッ!!』
顔を焼かれ、苦悶の叫び声を上げている。
口の中まで焼かれてるんだ。そりゃ痛いわな。ははは。
……待たんか! なんだコレ、ジュリアンのヤツいったいどんな機能を追加しやがったんだ!?
≪ラーヴァドラゴンの死体より作成した『焔竜結晶』により、超高効率での魔力のエネルギー変換を利用した言わば『人工ドラゴンブレス発射機能』である模様。その威力は籠められた魔力量に比例して増大するが、一定量以上の魔力がなければ使用不能≫
いやいやいや、そんな注文した覚えはないんですがそれは。もう大槌である必要ないだろコレ。
てか爆発機関はどうしたんだよ。
≪大槌に内蔵された回路を切り替えることで、爆発機関とブレスを使い分けることが可能な模様。爆発機関の効率は以前使っていた大槌のおよそ30倍程度まで上昇しているため、加減に注意≫
30倍って、それもう元の魔力量よりもエネルギーが増えてるじゃないですかーやだー。エネルギー保存の法則はどうした。
≪『焔竜結晶』は常に高密度の魔力を蓄えており、エネルギー変換する際にその魔力も加算して放出する特性がある。Sランクの魔石が変換効率99%なのに対し、『焔竜結晶』はおよそ5000%。大槌の爆発機関の術式では扱いやすくするためにあえて変換効率を落としている模様≫
落として30倍かよ。下手したら腕が千切れそうなんですがそれは。
……いや、まあ、魔王相手にはこれくらいデタラメな武器じゃないと通用しそうにないっていうのは分かるんだが。
さてさて、気を取り直して爆発機関のほうも試してみるとしますかね。
≪警告:早急に黒竜を討伐し、この後の事態に備えるべき≫
え、もちろんそのつもりだけど、どしたの?
≪………≫
……は? マジ?
あの、ちょっと、早くねーか……?
~~~~~勇者視点~~~~~
「……こんなもんか? いや、弱いわけじゃないのは分かるんだが、拍子抜けだな」
「くっ……!」
はいどうも、ただいまこの大陸担当の魔族幹部と決戦の真っ最中です。
この大陸の幹部は、なんとLv100もある猛者でした。
他の大陸に比べ、明らかに頭一つ抜けている。能力値も真魔解放を使えば6000近い。まさに怪物と言っていい。
なお、勇天融合状態の俺は8000~10000近い能力値だったりする。
素の状態でも余裕であしらえる。前に戦った白い魔族には手も足も出なかったのに、戦闘力のインフレって残酷だなぁ。
つーか、気力操作を使えば融合していなくても勝てそうだ。
「こ、のぉ! 喰らえ! 喰らえ! くらぇぇぇえええいっ!!」
「ほいほいっと、ほほいのほいっと!」
「ゴハァッ!?」
「どうした? こちとら素手だぞ、本気を出させてみろよ」
魔族が剣と槍を両手に構え、独特の連携をしかけてくる。
あの白い魔族と違って、こいつはかなり実戦慣れしてるのが戦っていて分かる。
おそらく、多少能力値が劣ってるくらいのハンデなら簡単に埋めることができるだろう。並の相手なら。
しかし、残酷なことにこちらもブレイブスキルがいつの間にか解放されていましてね。
その影響なのか、考えるよりも先に身体が動くような、相手の攻撃をどう捌けばいいのか手に取るように分かる。
今も素手で剣と槍を弾いたり受け流したり、その隙を縫って攻撃を当てたり余裕綽々である。
≪ブレイブスキル【勇者の遺志】ですねー。歴代の勇者たちの戦闘経験を、無意識レベルで習得できてしまうというチートスキルです。ぶっちゃけ、刀剣術とかよりもよっぽどヤバいスキルですね≫
……魔王の、相馬竜太の経験も受け継がれてるのかな。
≪恐らくは。つまり、後は能力値の差さえ埋めることができれば勝ち目はあるのですが、……どうするんでしょうねー……≫
え、もしかして、今の俺でも歯が立たない感じだったり?
≪ぶっちゃけ、無理だと思います≫
……どうすんだよ。梶川さんは割となんとかなりそうとか言ってたけど、こういう場合の『なんとかなる』はなんとかならない気がしてならない。
「貴公、どこを見ている!!」
「ああ、ちょっと先行き不安でね。はぁ、先のことを考えれば考えるほど憂鬱だよ……」
「ならば受け入れよ! 貴公ら人類に、未来など無いと! ヒトの時代は今代で終わるのだ!!」
「いやぁ、オレに手も足も出ないのによくそんなこと言えるなお前。説得力ゼロなんですが」
「ふ、はははっ……! 憐れだ。実に憐れだぞ、麗しき勇者殿! 貴公はなにも知らぬ! なにも、理解しておらぬ!」
血反吐を吐きながらも、愉快そうに笑う幹部。
……なんだ、コイツの余裕は。まだなにか隠し玉でも用意しているってのか?
いや、スキルも装備も手持ちの道具にも、ここから一発逆転を狙えるようなものは見当たらない。
仮にオレをこの場で倒せたとしても、死に戻りができるから大した意味はないということは分かっているはずだ。
「大陸破壊の術式の起動でも待ってるのか? 言っとくが、あんなもんとっくにぶっ壊されてるぞ」
「はははっ、そうか、そうか! ……想定通り、実にスムーズに事が進んでいるようでなによりだ」
「負け惜しみか、見苦しいぜ?」
「そうかも知れぬな! はははっ、はははははっ!!」
狂ったように嗤い続けている幹部の顔が気に入らなくて、ちょっとイライラしてきた。
さっきの女魔族といい、まるであの大陸破壊の術式は壊されることを前提で作られていたような口ぶりじゃないか。
なんのために、そんなことを?
誰かに壊させるために作ったとしたら、あれは呼び水みたいなもんだったのか?
誰を呼ぼうとしていた?
この大陸の幹部を倒せるほどの人員となると、相当限られてくる。
教官二人に梶川さん、そしてオレたちくらいなもんだ。
他の手練れたちは召喚された強力な魔獣に手一杯だし、手練れ全員がここにくることはできない。
そして、普通に考えたら勇者のオレが向かうと考えるのが自然だ。
なぜ、わざわざオレたちだけを……?
とか考え込んでいるうちに、魔族が深く腰を落として構えた。
なぁんか切り札を発動させようとしてるっぽいですねコレは。
「受けよ! これぞ、我が最大の――――」
「あ、もういいよ。お疲れ」
「は? ……かっ……」
縮地と【刀剣術】の居合で、幹部の首を刎ね飛ばした。
斬られたことに気付かなかったのか、呆気にとられたような間抜け面のまま首が床に落ちた。
呆気ないなあ。魔王と幹部の実力差エグすぎでしょ。
さて、これで魔王の本拠地が出てくるはずだ。
そこに乗り込む前に、この大陸で暴れまわってる魔獣どもを殲滅して、準備を整えるとしますかね。
≪ネオラさんッ!!≫
え、どしたの?
「待ちわびたぞ、この時を」
メニューが特大の赤文字を表示した直後、オレの後ろから誰かの声が聞こえた。
反射的に振り向くと、そこには、黒いロングヘアーの青年が居て――――
「では、ご招待しようか」
オレの腕を掴むのと同時に、周りの景色が陰気で薄暗い魔族の拠点から、白く美しい宮殿の中のような清潔感のある明るいものへと変わった
な、なにが起きたんだ?
ここはどこなんだ、なんでこんなところに、というか、この黒髪の男は誰なんだ……!?
≪……最悪です……! まだ、なにも準備が整っていないのに……!≫
オレを掴んでいる手を離し、綺麗に腰を曲げて一礼をしながら口を開いた。
「魔王城へようこそ、勇者殿」
お読みいただきありがとうございます。
>ハンマーなんだからドラゴンクラッシャー(ドラゴン潰し)じゃないの?
多分、名前を決める時の候補に挙がってるんじゃないでしょうか。
語呂の良さとかフィーリングで決めた結果バスターになったようで。……どっちにしろ雑なネーミングですが。




