機は熟した
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黒竜との戦いを開始してから、既に数時間が経過。
魔力も気力もポーションやら食料やらで補給しながら戦っているのでまだ余裕はあるが、疲労がそろそろ無視できないレベルになってきた。
「ヒカル、そろそろ手持ちのポーションが無くなりそう……!」
「アイテムバッグを貸してくれ! アイテム画面から直接補給する!」
「ああもう、いつまでこんな戦いを続ければいいんすか! そろそろへばってきたんすけど!」
『コケッ! コケェッ!!』
俺も同意見だ。もう疲れるわ腹は減るわ終わりは見えないわでうんざりだ。ヒヨ子も『そーだそーだ!』じゃねぇよ。
メニューのおかげで危機的状況に陥ったりはしてないけど、それでも気が滅入る。
「本当にあと少し、あと少しなんだ!」
「だから、あと少しってなにがっすか!? もう数時間くらいあと少しって言い続けてるじゃ―――」
「待て! 黒竜を見ろ!」
「え、いったいな……に……!?」
半ギレで詰め寄ってくるレイナを手で制した後、黒竜へと注意を向けさせた。
空を見上げると、黒竜の口に計り知れないほどの魔力が集中していくのが感じ取れた。
≪【チャージング・ドラゴンブレス】の予備動作。発射まで、あと9秒≫
≪妨害し、撃ち出す方向を逸らすことを推奨。このまま陸地に放たれた場合、大陸中に甚大な被害が及ぶ危険性大≫
「アカン! 妨害! 妨害しないと、この大陸滅ぶ!」
「え!?」
「クソがぁっ!!」
「カジカワさん!?」
瞬間的に気力強化で能力値を爆上げし、黒竜に向かって突っ込む!
今の俺なら10秒程度、全気力を消費して能力値を15倍くらいまで上げられる!
ってアカン、スタミナが四分の一切ってる! 魔力を変換、ってこっちも半分以下やん!
これじゃ、黒竜を止めるのに充分な強化ができない、どうする!?
気力ポーションで回復、だめだ回復までのラグの間にブレスが放たれる! 間に合わない!
『グォォォオオオオォォオオオ………!!』
あと5秒。全気力を右腕に集中して、だめだドラゴンスケイルで妨害される。
ドラゴンスケイルをぶち破ったうえで攻撃しないと、妨害なんかできっこない。
そんな高火力の技なんか、今の俺にはっ……!
……っ!!!
~~~~~バレドライ視点~~~~~
「バレド、下がれっ……! 逃げるんだ……!」
「うるせぇ! いいからポーションでも飲んで黙ってろ!」
『ギュジュルルルルル……』
俺の目の前にいるのは、魔族が禁忌魔法で生み出した巨大なバッタ魔獣の群れだ。
いや、正確に言うと一匹だけなんだがどうもコイツは固有魔獣らしく、ユニークスキルだかなんだかの効果で何十匹にも分身してやがるんだ。
燃費が悪いのか、それとも単に食欲が旺盛なのかは知らねぇが、周りにある草木やら魔獣の死骸やら見境なく食いまくってやがる。
もしもこいつが並の魔獣森林にでも放たれたら、数日で森は丸坊主になっちまうだろう。
雑食みたいで、エサが無くなったら動くものを無差別に攻撃してエサにしようとしてきやがる。
『ギャジャァァァアッ!!』
「クソッタレがぁっ!!」
カジカワから受け取った槍を、バッタの大群に向かって投げる。
槍から高威力の光弾がバッタたちに襲いかかるが、当たっても弾かれちまう。
ニセモノだろうと、その耐久力は本物みたいだな……!
『ガジャッ』『ギジャッ!』『ギシャァッ!!』
「グギギギぎ……!!」
反撃と言わんばかりに、十匹近いバッタどもが一斉に襲いかかってくる。
一匹一匹がとんでもねぇ力だ……! 低く見積もっても、Sランク下位くらいの膂力はある。
本当なら、今すぐにでも逃げちまいたいくらいまずい状況だが、そうもいかねぇ。
俺の後ろには、バッタの急襲で重傷を負ったラスフィがいる。
下手に動かせば、命にかかわるかもしれねぇ。今はポーションで回復するのを待つしかない。
援軍は期待できねぇ。逃げるわけにもいかねぇ。なら、俺がこいつらを全滅させるしかねぇよなぁ!
「もういい! 私のことはいいから退くんだ! このままでは、お前が……!」
「黙れっつってんだ! いいから、お前はそこで休んでろ! 動けるような傷じゃねぇだろが!」
「断る! お前を死なせるような目に遭わせて、私だけ休んでいていいわけないだろうが!」
「バッカヤロウ!! 連れの女に無茶させて死なせるようなことがあったら、俺ぁその瞬間に自害すんぞ!」
「な、んで、そこまでっ……!」
『ギビャジャッ!』
「っ!?」
口喧嘩の途中で、バッタどもがラスフィのほうへ向かっていくのが見えた。
「なにしやがんだクソどもがぁぁああっ!!!」
『ヴァジャァッ!?』
叫ぶのと同時に、槍に内蔵されているもう一つの機能を発動させた。
その瞬間、槍と俺の身体はラスフィに襲いかかろうとしているバッタどもの身体を、音を置き去りにするような勢いで貫いた。
「が、あぁ……っ!!」
着地とともに、反動で筋肉が悲鳴を上げるように痛む。全身の骨が軋んでいる。鼻からは血が噴き出してきやがった。
この機能は、縮地をも超える超高速で移動できるように、魔力を高出力で石突から噴き出し推進力にして突進するための機能だ。
直撃すれば、こいつらの防御力も楽に突破できる威力だが、ここまで負荷がかかるのかよ……!
投げて使おうにも、重心の関係か狙った場所に飛ばねぇし、自分ごと突進しなきゃならねぇってのは致命的な欠点だ。
あのバケモンならあるいは問題ないのかもしれねぇが、俺の手には余る代物だなこりゃ。
「バレド、なんて無茶を……! お前も、もうボロボロじゃないか……!」
「はっ、こんくらい、どうってことねぇよ……!」
そうだ、どうってことねぇ。
……こんな痛みよりも、ラスフィに怪我を負わせちまったことのほうが、ずっと痛ぇ。
『ギチィィィ……!!』
「なんだ、一丁前にキレてんのか?」
『ギジィィィイイッ!!』
「バレド、頼むからもう――――」
ラスフィの言葉を遮って、怒りのまま叫びを吐き出した。
「キレてんのはこっちだ虫けらがぁ!! 惚れた女に手ぇ出しやがったこと、後悔させてやらぁっ!!!」
「!?」
……あーあ、なんつークサいセリフだ。
多分、後でラスフィに弄られまくるなこりゃ。
後が、あればの話だが、な。
『ギャビャシャァァァアアアアッッ!!!』
バッタの大群が、一斉に飛び掛かってきた。
空高く跳び上がって、翅を羽ばたかせながら降下してくる。
分散してるせいで、狙いが定まらねぇ。さっきのはもう通用しねぇな。
なら、十匹でも二十匹ずつでも、ぶちのめしてやるよ!
たとえ手足が食い千切られようとも、ラスフィにゃ触れさせねぇ!!
「駄目だ! 死ぬな! 死なないで、バレ――――――――」
ラスフィが叫んでいる途中で、一切の音が聞こえなくなった。
襲いかかってくるバッタどもを見据えていたはずなのに、視界が真っ白に染まって、なにも見えない。
あ、俺、もしかして死んだのか……?
そう思ったのもつかの間、少し遅れて、轟音が耳を貫いたのが分かった。
『ガジュッ……』
バッタどもが次々と燃えて、いや蒸発していく。
一匹残らず、空を飛んでいたバッタが消えていく。
全て全て、光の奔流に飲み込まれて、消えていく。
………はい?
なんだ、これ?
「う、おおおぉぉぉお!!?」
数秒ばかし思考がフリーズしていたが、我に返るのと同時に地面に伏せた。
立ったままだと、俺たちも光に飲み込まれそうに見えたから。
一分くらい伏せたままの状態でいたが、立ったころにはバッタ魔獣たちの姿は消えていた。
空には雲一つない。さっきまでは千切れた雲がいくつか見えていたと思ったが。
さっきの、謎の光のせいか?
「バレド……」
「……生きてるよな、俺たち」
「……どうやら、そのようだな」
生き延びた歓びを分かち合うこともできず、呆然と立ち尽くすことしかできないでいた。
さっきのは、いったいなんだったんだ……?
~~~~~アルマ視点~~~~~
『ガギャァァァッ……!!?』
黒竜が、折れた牙の生えていた口から血を流している。
痛みからか驚愕からか、困惑したような声を漏らしながら。
「な、なんとか、なったの? なにが、起きたの?」
「い、生きてる……。さっきのがこっちに吐き出されてたら、自分たち全員死んでたっすよ……!」
『コケェ』
「うむ、皆無事でなによりである。我もなにがなんだか分からんうちに死ぬかと思ったぞ」
どうやら、黒竜のブレスはあさっての方向へ放たれてしまったらしい。
レイナとヒヨコも、無事に済んでホッとしたような様子で口を開いている。
「さっきのは、強化版のブレスかな。とんでもない威力だった」
「あんなの、どうやったって防げないっすよ。もし当たったりしたらすぐに蒸発しちゃうっす」
『コケェ』
「妨害したのは、ヒカル?」
「うむ、さすがマイ・カスタマーである。よもやあの刹那のうちに殴りつけるとは見事だ、フハハ!」
「さっきまで、ロクに攻撃が通じなかったのに、どうやって……?」
「それはもちろん、我の最高傑作で殴ったからに決まっておるだろう。見てなかったのかね?」
待った。
ちょっと、待った。
さっきからサラッと、見覚えのある人が混ざってるんだけど。
「……なんでここにいるんすか、ジュリアンさん」
「うむ、やっとの思いで最終兵器が完成したので、すぐにマイ・カスタマーに取りに来てもらおうと思ったところで、気が付いたらここに立っていたのである。いやぁ、不思議なこともあるものだなフッハハハ!」
ジュリアンが、いつもの調子でそこにいた。
いつの間に……? なんで、というか、どうやって……?
まさか、ヒカルがファストトラベルでジュリアンを呼び寄せたの?
「見ればなにやら修羅場だったようだが、無事に乗り越えられたようでなによりだ。彼の新しい相棒も冥利に尽きるというものだろう」
「新しい、相棒?」
「うむ! アレこそは我の最高傑作にして、人類最強の男の最終兵器、『ドラゴン・バスター(仮)』であるっ!!」
ジュリアンが指差した先には、前に使っていた大槌よりも幾分か槌頭が小さくなったハンマーを持ったヒカルがいた。
槌頭部分は真っ黒な長方形の箱のようで、物々しいというか禍々しいようなものが取り付けられている。
持ち手の部分は煌びやかな緑色で、多分オリハルコン製だと思う。あれなら、滅多なことじゃ壊れはしないだろう。
興奮した様子のジュリアンに、苦笑いしながらヒカルが言葉を返した。
「……やっぱその名前ちょっとダサいな。てか(仮)て」
「まだドラゴンを仕留めておらんだろうが! そやつを倒して初めてそれはドラゴン・バスターとなるのだっ!!」
「まあ、こいつなら楽に仕留められそうだ。咄嗟にコイツで殴っただけなのに、結構なダメージを与えられたみたいだしな」
ヒカルの言う通り、さっきまでどんな攻撃も通じなかった黒竜の顔から血が流れている。
咄嗟に殴っただけってことは、ちゃんと使いこなせばもっと威力が上がるということだろう。
……頼もしい反面、ちょっと怖い……。
「ふはははっ! 存分に振り回すがいい! では、我は休む! もう眠くて眠くて死にそzzzzz」
「うわ、いきなりぶっ倒れて眠っちゃったっす!」
「……相当無理させちまったみたいだな」
……これまで不眠不休であのハンマーを作っていたのか、地面に身体を預けて眠りについてしまった。
黒竜と戦っている間は、遅い、まだか、なんて思ってしまっていたけど、本当に急いで作ってくれていたんだね、ジュリアン。
「うむむ、ムニャムニャ……」
「皆、反撃開始だ! ジュリアンの死を無駄にするな!」
「いや、死んでないっすよ!?」
「うふははは……川の向こうに御婆様が洗濯をしておられる……ああ、桃が、桃が……!」
「その川、多分渡っちゃダメなヤツっすから行っちゃダメっすよ!」
……なんの夢を見てるんだろうか。
お読みいただきありがとうございます。
>死因:うんこしてた とか面白そう
ヒヨ子なら許されるかもしれんねそれは、……いややっぱアカンわ(;´Д`)




