懐かしの未来の日本
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
「いらっしゃいませー! こちらのメニューからお選びください」
「ん、オレはラッキーセット、ドリンクはコーラのMで」
「俺も同じやつで」
「かしこまりましたー! 番号札をもって、あちらの席でお待ちくださーい」
ジジイと別れた後、とりあえず俺と吉良さんは一度日本に帰ることに。
あの部屋の向かいの扉を開くと、本当に日本へ繋がっていて驚いた。
もう夜になっていて、一瞬また変な場所に飛ばされたんじゃないかとヒヤヒヤしたが、無事に日本へ着くことができた。
……俺が異世界へ飛んだ日から、約1年半以上も経っていたが確かに俺の知る日本がそこにはあった。
吉良さんなんか『日本よ、私は帰ってきたぁぁぁぁあああ!!』とか叫びだして周りの人から白い目で見られたりしてた。アホか。
まさか既に平成が終わって次の年号になってるとは。年号が、年号が変わっているぅ! みたいな。
あの狐BBAとの戦いでかなり体力を消費したし、とりまエネルギー補給にバーガーショップへ。……よし、生首店員はいないな。
パラレシアに戻ってこられるか心配だったけど、ファストトラベルを使えば問題なく帰れるらしい。ちょっとした手間をかける必要はあるみたいだが。
番号を呼ばれ、セットを受け取り相席へ。
「いただきます」
「いただきます」
「飛ばされる前まではジャンクフードで合掌なんかせずさっさと食ってたけど、今になってこういったものを気軽に食えるありがたみがようやく分かった気がするぜ……くぅっ……!」
「……なにも泣かなくても」
ハンバーガーに齧り付きながら、涙を零す吉良さん。オッサンがハンバーガー食いながら泣いてる姿はなんというか変な哀愁があるな……。
でも、気持ちは分かる。未練なんかもうないと思っていたが、こうやって日本で飯を食っていると、まだ自分にも郷愁の念が残っていたのだと自覚する。
「しっかし、『令和』かぁー……。特になんも変わってないように感じるけど、オレが飛んでからもう5年も経ってたのかぁ」
「吉良さんはどれくらいの間、異世界に渡っていたんですか?」
「一ヶ月くらいかな。日本から飛ばされたのは西暦2015年の中頃だった。気が付いたら他の世界に飛ばされてて、毎日のように死ぬ思いをしながら過ごしてたよ」
フライドポテトを齧りながら、これまでの苦労をしみじみと語る。
……この人も俺と同じでチートもなにも持たされず、いきなり異世界に飛ばされて以来死に物狂いで生きてきたようだ。
「つーかなんで敬語なの? さっきまでタメで話してたじゃないの」
「いえ、さっきまでは気が張ってて気が回らなかったんですが、やっぱり目上の人ですしこのほうがいいかなと」
「あーやめやめ。急に他人行儀にされてるみたいでかえって嫌だ。構わねぇからさっきまでと同じように話しなよ」
「そうか、分かったよ。……にしても、ひと月過ごしたつもりが5年か。ちょっとした浦島太郎みたいな気分だろうな」
「それな。……はぁ、会社になんて説明すればいいのやら。行方不明扱いなんだろうけど、また職場復帰できるかなぁ……」
世知辛いわー。日本に戻ってくるということは、もう怪異なんかに襲われる心配がなくなる代わりにこれからのことを考えなければならない、という現実を突きつけられるということでもあるんだよなー。
事後処理が死ぬほど面倒くさそう。吉良さんファイトー。
「オレはまぁぼちぼち元の生活に戻ろうと思ってるけど、梶川君はどうするつもりなんだ?」
「ちょっと買い物してから、また向こうの世界に戻ろうと思ってる」
「え、日本に帰らないのか?」
「俺が帰る場所は、もうパラレシアなんだ。大切な人たちを待たせてるし、用件を済ませたら早く帰って安心させてやらないと」
「日本には、待っている人はいないのか?」
「祖父母がいるけど、俺の事情は分かっているから大丈夫だ」
「そうか。でも時間に余裕ができたら、いつか会ってやりなよ」
「……ああ」
……本当は今すぐ会って話でもしたいところだけど、ここから移動するにはちと遠い。
魔力飛行で飛んでいこうにも目立ちすぎるしな。人口密度の差よ。
今は無理でも、魔王を倒してゆっくりできる時間ができたら会ってみるのもいいかもしれない。マップも作成できたし、今後はファストトラベルで自由に行き来可能だ。
だがしばらく再会はおあずけだな。……ごめん、ジイさんバアさん。
セットを完食した後、お土産用にテイクアウトで大量のバーガー類を買いまくってから退店。
クレカがまだ止まってなくてよかった。
……そういや失踪して1年半の俺はともかく、5年経過してる吉良さんの口座はどうなっているんだろうなー……。
しばらくお菓子やらカップ麺やら、あとパラレシアでまだ作られていないような電動工具やらを購入。
多分、あのジジイもこっちで買い物してるだろうし、もしかしたら魔王もそれらの品物を受け継いでいる可能性がある。
こちらも自重せずに、買えるもんは買っておこう。……まあ、大半は食料品だけどな。
その後、人気のない路地裏で吉良さんとアイテム交換タイムに移行。
俺の持ってるもので交換できそうなもんといったら、せいぜい魔獣の肉や炭酸フルーツ、あとはアダマンやミスリル、ヒヒイロカネやオリハルコンの装備ぐらいなもんだが、それでも充分らしい。
「いや、つーか、こっちじゃ再現できないような異世界金属とか、どれだけの価値になるんだろうか」
「出すところに出せば数億いくかもしれないな。特性うんぬんよりも、その希少性を考えるとだけど」
「この魔獣の肉? ってやつもどれも死ぬほど旨味が強いし、できれば定期的に購入したいくらいなんだがなぁ」
「ふふふ、それはそっちのアイテム次第ですぜ旦那」
……なんか怪しい取引してる売人にでもなった気分だ。
吉良さんからは、とてつもなく有用なアイテムや素材をいくつも交換してもらえた。
大槌の槌頭に使えそうな魔力を籠めれば籠めるほど重量が増していく謎の異常物質やら、被っていると魔力を消費し続けるかわりに姿が見えなくなる隠れ蓑とか。
つーか、ぶっちゃけ欲しいものの大半は吉良さんから購入できた。有能。吉良さんマジ有能。
吉良さんは俺から購入したものを売ってお金をつくる。
俺は吉良さんに交換してもらった物を駆使して魔王の討伐に臨む。Win-Winな取引だな。
「まあ、そのままオレの持ってるものを売っても結構な金になるだろうけど、そっちもまだまだヤバい戦いに行かなきゃならないみたいだし、こんなことで力になれるなら持ってきな」
「ありがとう。また、こっちで珍しい物を見つけたら交換してもいいかもな」
「オレもこっちに一回帰ってこれたなら、いつでも戻れるアイテムがあるからまた異世界に旅行しに行くのもいいかもな、ははは」
それでまた死ぬ思いをするところしか想像できないんですがそれは。
……そろそろ、行くとするか。
「じゃあ、また機会があったら」
「おう。日本にいる時だったら、いつでも連絡してくれよ。……あ、スマホ解約されてるやん。……自宅の電話番号でいいか?」
「……今から契約し直すか」
……別れる前に、俺も吉良さんもスマホの更新をしてから連絡先を交換することに。
締まらない別れかただなオイ。
吉良さんと別れてから、再び扉だらけの21階層へ。
……まだここでなんかやることあんの?
≪パラレシアに帰る前に、例の時計が並ぶ通路へ向かう必要がある≫
え、なんで?
≪スパーダもとい相馬竜太がファストトラベルしたのは『624年前の部屋』であり、そこから直接21階層へ移動した結果、梶川光流の21階層の到達時刻が上書きされてしまったため、例の廊下で624年分タイムラグの辻褄を合わせる必要がある≫
え、さっき日本へ行った時はそんなことになってなかったやん。
≪あの扉は特別製で、2020年の日本に時空間が固定されている模様。なお、再び日本へ戻った場合、日本から21階層へ入った時刻とほぼ変わらない時間に着くと推測≫
……なにがなんだかよく分からんことになってるのは分かった。いやもう意味が分からん。
ここってそういう場所だし、時間のバグの一つや二つ珍しくないと納得しておこう。
≪あと、過去との矛盾が生じないように吉良一也から受け取った隠れ蓑を装備しつつ、例の通路で待機すること≫
え? ……ああ、あん時誰の姿も見えなかったから、俺の姿が過去の俺から見えたらおかしいもんな。
つーかあん時、奥のほうに今の俺が居たのか。全然気づかなかった。
さーて、待機が終わったらパラレシアへ戻るとしますかね。……なんか胸騒ぎがするし、できるだけ早く戻ったほうがよさそうだ。
≪あと、パラレシアへ戻るのにはファストトラベルではなく21階層の扉を経由する必要あり≫
なんでさ。直接は無理なん?
≪21階層はバグや他の世界へ繋がっているが、パラレシアからは完全に隔絶されているためパラレシアへのファストトラベルおよびパラレシアのマップ画面が使用不可能。ただし、パラレシアから他の世界へのファストトラベルは21階層を介さずとも可能≫
よー分からん仕様だな。18階層とか21階層からのバグが漏れてたけど、あれは繋がっているわけじゃないのか?
例の通路で待機する前に、パラレシアに繋がる扉を見つけたほうがよさそうだな。……結局また扉を探索しなきゃならんのか。
≪梶川光流の幸運値ならば、おそらく数日中にパラレシアへの扉を発見可能≫
でも運ゲーには変わりないじゃん。
……ウダウダ言ってても仕方ない。また扉を開くとしますか。
それじゃあ、失礼しまーす。ガラッ。
ボロの引き戸を開けると、畑で誰かが追いかけっこをしているのが見えた。
「瓜どろぼー!!」
「藤吉郎どん、つかまえてちょ!」
「よぉし、まかせいっ!」
ガラガラ、ピシャッ。
……うん、見つけるのに苦労しそうだなこれは。
お読みいただきありがとうございます。
>もしかしてこれ、逆行転生?それとも―――
>これでブラックドラゴンを殺す大義名分も―――
コメントをいただいた時間が前話投稿とほぼ同じ時間帯だったので見逃していましたね。申し訳ありません(;´Д`)
逆行転生ではなく、過去の勇者にたまたま会ってしまっただけですねー。時空間が歪んでいる21階層ならではの現象と言えますね。
ドラゴンへのヘイトは相変わらずのようで、軒並みコメ欄がまたドラゴンステーキ祭りになってて草。
あと、ユカナさんはアルマとは何の関係もないです。また後ほど。
>頭空っぽで読みすぎて爺さんが魔王になった過去の勇者って分かった時に―――
>ステーキにするのか(違う)…ブラックドラゴン南無(違う)
基本、難しく考えずに読めるようなお話を書きたいのですが、このあたりになるとややこしい描写ばっかで呼んでて疲れそうで心配です(;´Д`)
そしてステーキコメ二通目。黒竜への殺意が皆強すぎへん…?
>吉良ッッッ!! この馬鹿野郎ッッッ!!
吉良「え、なんでオレやの?」
ジジイ勇者説はこれまでの露骨なミスリードのせいか誰も言ってませんでした。……なんかそれはそれで申し訳ない気分(;´Д`)
>ふむ、これでドラゴンのランクが上がって味が良くなるのだな(真顔)
ドラステーキコメその3。もうやめたげてよぉ!
ああ、ちなみに進化すればするほど味は格段によくなって(ry
>主人公とアルマの子供の名前は何ですか?
( ;゜;ж;゜;)゛;`;:゛;;゜
……失礼。不意打ち気味にこのコメントを見て思わず吹いた。気が早ぁい。
>下手に教えちゃうと、「駄目だカジカワ! 未来が変わってしまった!―――
MGS3ももう15年近く前ですかぁ。
……ワシももう歳じゃて_:(´ཀ`」 ∠):_




