老いた勇者の目的 魔王の目的
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「許せ、二人とも」
「うわっ!?」
「な、なにを!?」
スパーダのジジイが、急に俺たち二人の腕を掴む。
その直後、青々とした竹林とは似ても似つかぬ無機質な造りの部屋へと、急にあたりの景色が変わった。
部屋にはなにもなく、ただ、扉が一枚あるだけだ。
今のは、ファストトラベルか?
だとしたら、やはりこのジジイは……!
「なっ、なんだ? なにが起きた!?」
「済まんな、俺はずっとお前たちに嘘と隠し事をしておった。……『スパーダ』というのは、剣士として活動するための偽名なんじゃよ。本名を名乗ると勇者だの英雄だのいってロクに観光も楽しめぬからのぉ」
「ゆ、勇者? おい、爺さん、急にどうしちまったんだよ? ついにボケたか?」
「やかましいわ! ……まあ無理もない。日本出身のお主らに言っても話が通じぬじゃろうしな」
急な展開に頭がついていかない。
パラレシアのフィリエ王国出身の老剣士だってのは、嘘だったのか?
本当にこのジジイが、魔王の前世だっていうのか……?
……いや、やっぱおかしいだろ! 魔王の前世の勇者は、もう何百年も昔の人間で、とっくに死んでいるはずだ!
だからこそ勇者の転生体である魔王がいるわけだし、そもそも魔王とその前世の人間が同時に存在してるってどういうことだ?
≪『21階層』では、遥か未来の存在と邂逅する可能性がある。逆に言えば遥か過去の人物と出会う可能性もあるということと推測≫
……つまり、このジジイにとっては俺のほうが未来人ってわけか。
クソ、なんでその可能性を考えてなかったんだ! アホか俺は!
「俺の事情なんぞもうよかろう。重要なのは、お主らの協力のおかげで無事に目的を達することができたということと、そんなお主らに俺が名前を偽っておったということじゃ」
「い、いや、なんだかよく分からないけど、それでオレたちに不都合があるわけでもないし……別にいいって」
「……済まんの。じゃが、それでも筋は通しておこう。助力の見返りに、日本への帰り道を用意しておいた」
「え?」
「そこの扉の先は『21階層』へと繋がっておる。そしてこの部屋の向かい側にある扉は『西暦2020年の日本』へと繋がっておるはずじゃ」
「え、なに? 21階層? 日本へ、繋がってる……!?」
扉を開けながら、スパーダが笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「間違っても他の扉を開くでないぞ。どこへ繋がっておるか分からぬでな」
「ちょ、ちょっと待て! いきなり急展開すぎて、オレ置いてけぼりなんですけど! 話についていけねぇ!」
「では、さらばじゃ。……ああ、そうそう。最後に本名を名乗っておくかのぉ」
吉良さんのリアクションをスルーしながら、淡々と話を進めるジジイ。
手を振りながら、ジジイが本当の自己紹介を口にした。
「俺の本当の名前は、『相馬 竜太』じゃ。吉良一也、梶川光流、俺を助けてくれて、ありがとう。……待っていてくれ、ユカナ。必ず君を見つけてみせるから……」
本当の名前と、感謝の言葉。そして最後に意味深長な言葉を残して、消えた。
ファストトラベルで、別の場所へ飛んだのか。
「あのジジイ、自分で言いたいことだけ言って、そのままどっか行きやがった……」
「相馬、竜太……? あの爺さんも、日本人だったってのか?」
「正確には元・日本人、だけどな。……まんまとしてやられた気分だ、クソッタレ」
「え? 梶川君、あの爺さんと元々面識があったのか?」
「正確にはあのジジイの生まれ変わりと、だけどな」
「???」
頭の上に疑問符を浮かべながら、困惑した表情の吉良さん。
詳しい事情を話しても意味が分からないだろうし、適当にはぐらかしておく。
……にしてもメニューさん、もしかしてあのジジイが過去の勇者だってこと、知っていたんじゃないか?
≪肯定。あの『スパーダ』と名乗っていた者が、また魔王の前世が『相馬 竜太』であることは確認済み≫
……っ!
なぜ、黙っていた。
あの鏡を手に入れる前に、殺して止めるようなことはさすがにできなかっただろうけど、未来で魔王に生まれ変わったことなんかを話せば説得できたかもしれないのに。
≪……それがどのような結果をもたらすのか未知数であったために、過去への干渉による矛盾防止のためにあえて隠蔽していた≫
≪仮に説得が通ったとして、その後の世界はどうなるのか前例がないために予測不能。もしも相馬竜太が魔王に生まれ変わらなかった世界線に今の世界が上書きされたとして、『今の』世界はどうなるのか?≫
≪何事もなく、ただ魔王の存在のみが変化するのか。それとも世界全てが消滅して、新たな世界が生まれるのか。もしも後者だった場合、『この』梶川光流を含めた全てが消滅してしまう危険性があった≫
≪故に、魔王の前世についての情報なども解析済みであったにもかかわらず隠蔽していた。……それが、梶川光流の要求を満たさなくとも、最善の選択であったと判断≫
……はぁー……そっかー……。
……正直、まだ頭がついていってない部分があるにはあるが、要はここまでメニューさんの掌の上だったってわけか。
それも魔王の前世の勇者の行動まで含めて。メニューさん……恐ろしい子……!
「……なにがなんだかワケワカメな件。あれ? もしかして事情が分かってないのオレだけだったりする?」
なんだか一人だけハブにされて涙目になってる吉良さん。仲間外れにされるのにトラウマでもあんのかこの人。
……そういえば、結局この人は何者なんだ?
≪極々低確率で異世界転移に巻き込まれた、普通の日本人の模様。ある意味梶川光流と同じ境遇と言える≫
あの攻撃魔法みたいな雷の弓とか、黒い槍は?
≪異世界で身につけた、その世界特有の技やアイテムであると推測。パラレシア由来の力は一切持ち合わせていない≫
……ホントにこっちの世界になんの関わりもない人だったんだな。
ていうか、低確率とはいえ他の世界に飛ばされることもあんのか。神隠しなんかの行方不明者の何人かは、もしかしたら俺や吉良さんみたいに異世界へ転移した人たちなのかもしれないな。
~~~~~剣王デュークリス視点~~~~~
「ふむ、そこの若い剣王に比べ随分年老いているが、その分技は熟練しているようだ」
「ふ、ふはは、魔王サマにお褒め頂けるとは、光栄の至り。……あまりの栄誉に、反吐が出そうですなぁ」
「老いた身で、その剣の鋭さと膂力……ふ、まるで前世の俺のようだ」
剣王『スパディア』様が、黒竜の背から飛び出し魔王へと剣を振るう。
もう齢90を超えているとは思えない鍛え抜かれた肉体と、しかし何十年も剣を振り続けなければ到達できない剣の冴え。
先代剣王の名は伊達ではない。今、それを改めて思い知らされた気分だ。
「デューク!! なにをボサッとしとる! はよ援護せんかボケぇっ!!」
……そしてこの口の悪さも相変わらずだ。
つい半年前まで稽古を受けていたアラン君の苦労が分かる。
他人との近接戦での連携など、何年ぶりだろうか。
ましてやスパディア様と共に戦うことになるなど、夢にも思わなかった。
「はぁぁぁぁあああっ!!」
「うらぁぁぁあああっ!!」
「……まともにスキル技能が使えぬ『外』では少々手こずりそうだ」
渾身の力を籠めて、魔王に剣を振るう。
剣王二人分の連撃。並の相手ならばとうに細切れになっているだろうが、魔王は言葉とは裏腹に余裕の表情で受けきっている。
ルナティも隙を見て攻撃魔法や空間魔法で援護しているが、まるで意に介さず涼しい顔でいなしている。
しばらく死に物狂いで攻撃を続けていたが、一撃もまともに当てられていない。
だが、ついにその時がきた。
「……っ」
「! 魔王の左手が、崩れ始めたぞ!?」
「魔王は、魔王城の外では活動時間に制限があるようです! ついに、限界というわけだ!」
「……見事。ここまでよく持ちこたえた、と言っておこうか」
朽ちていく左腕を押さえながら、魔王が言葉を重ねる。
「興が乗って、少々長居しすぎたな。……目的のモノをもらって、今日は御暇するとしよう」
「っ!? 消え……!?」
「迎えにきたぞ、黒竜」
『なっ……!?』
いつの間にか、瞬きほどの時間もなく魔王がブラックドラゴンの背に乗っていた。
『お、降りよ! 儂の背に乗る資格があるのは、儂が認めた者のみよ!』
焦りと怒りが混ざったような声で、ブラックドラゴンが叫ぶ。
「……つれないな。俺のことが分からないのか、『バハムート』」
『な……に……!?』
「ステータスに名前が表示されていないが、俺が死んだときに本当に捨てたのか。……寂しいものだな」
それだけを言い残して、ブラックドラゴンと魔王の姿が消えた。
それを私もルナティも、スパディア様でさえ呆然と見ていることしかできなかった。
魔王の本当の目的は、国王様の殺害などではなかった。
ブラックドラゴンの確保こそが目的だったのだ。
お読みいただきありがとうございます。
>まさかのジジイが!?―――
ここまでのミスリードが正直ちょっとひどいと我ながら思いますが、一応魔王の前世の一人称が『俺』とひょうじされていたことや、『相馬竜太は齢90を超える大往生だった(137話 閑話 黒い竜の背に乗って)』というヒントも一応漏らしていたのですが、……こんな前の話なんか誰も覚えてないですよねー(;´Д`)




