満月の竹林にて
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回始めは前回出てきた『ギフト・ソルジャーNo1』視点です。
異質。異常。今のバケモノを表現するにはそういった言葉しか思い浮かばない。
自分が今なんで生きているのか不思議なくらいだ。
「な、No1! 無事だったのか!」
「……ああ」
さっき指で頭を弾かれたNo4が意識を取り戻したらしく、心配そうな顔でこちらに駆け寄ってきた。
派手に吹っ飛ばされてたから、最悪死んでいるかもしれないと思っていたが、命に別状は無さそうだ。
どうやら、さっきのバケモノは誰も殺さないように手加減しながら戦っていたらしいな。
……手加減しても、余裕で俺たちをあしらえるほどの能力者、というわけか。
つくづく、おかしな奴だ。
「……なんだ、その袋は?」
「さっきのバケモノが置いていった。奴はアナライズ・フィルターを欲しがっていたようでな、『お前たちにとって必要な物資を置いていくから、これと交換してほしい』と言ってきたよ」
「アナライズ・フィルターを? なんでそんなものを……?」
「さぁな」
渡してきたこの袋は、どうやら見た目よりもはるかに容量が大きいらしく、さらに中に入れた物品の重量の影響を受けずに運搬できるようだ。
こんなものは世界中のどこを探しても見つかっていない。明らかにオーパーツの一種だ。
機密保持のために開発されたアナライズ・フィルターだが、そんなものよりも研究成果のほうが価値があるはずなのに、奴は興味なさげにフィルターのみを求めた。
こんなオーパーツを作る技術はあるのに、フィルターを作ることはできないというのか? ……不自然だ。奴の存在からなにからなにまで、全て。
どこの組織の者なのか、そもそも人間なのか、このオーパーツを容易く渡しても問題ないほどの科学力を有しているというのか。
……だとすれば、どう考えても敵に回せば我々に勝ち目はない。
目的がはっきりしない相手ではあるが、あの場では大人しく交渉に応じるほかなかった。
あれ以上被害を出すわけにはいかなかったということと、……渡されたモノが、我々にとってあまりにも魅力的過ぎるものだったからだ。
「袋の中には、救荒作物の種芋と未知のエネルギー鉱石が入っているようだ」
「種芋? うわ、どんだけ入ってるんだよ!? どうやったらそんな小さな袋に入るんだよ……!?」
これらがあれば、このコミュニティの寿命は大幅に延びる。
食糧問題もエネルギー資源もしばらくはもつだろう。『外』の化け物どもの研究を進めて、その力を十分に得るだけの時間を得ることができるのだから。
その時に、今度こそあの黒髪のバケモノを――――――
「へぇ、いいモノ持ってるじゃないですか」
―――――!?
声がしたほうを向くと、『廃棄物』の印がされた少女の姿があった。
収容房から脱走したというのか? どうやって……?
奴は、廃棄物67番か?
俺の記憶では、確か銀髪だったはずだが、なんで黒くなっているんだ。
あれではまるで、さきほどのバケモノのようでは―――――
「私が全部いただきますのであしからず。クソ野郎ども」
~~~~~黒髪のバケモノ視点~~~~~
いやー、実に有意義な探索でしたなぁ。
物資の入ったアイテムバッグとアナライズフィルター複数。代償としちゃまあ妥当か。
なんか帰る直前くらいにエラー音が鳴り響きまくってたけど、俺は既にその世界にはいませんよーはははー。
≪最後のエラー音は梶川光流ではなく、収容されていた実験体が脱走したことによるものである模様≫
ふーん。なんかヤバそうなやつでも脱走したのかねぇ。だからシャッターの強度が足りんと言っただろうに。
まあいいや。もうあそこでバイオな災害が起きようとも俺には関係ないし。オタッシャデー。
腕時計のような機械を見て、思わず笑みがこぼれる。
ふふふ。この『アナライズ・フィルター』があれば魔王の目から逃れることができる。ぶっちゃけこういう機能を持ったアイテムが一番欲しかったところだ。
魔王のメニューが復活した直後に情報検索されて、俺の位置がバレないようにこんなトコまで来たわけだけど、コレがあればもうコソコソ隠れる必要はなくなる。
というわけで、もう帰ってもいいですかメニューさん。
≪非推奨。21階層はパラレシアから隔絶されているが、『ダンジョンの中』であるためファストトラベルでここへ移動することはできない。この場所へ訪れることができる機会は非常に貴重であるため、他の異質オブジェクト等を持ち帰るために探索を続行することを推奨≫
無慈悲。……いや、まあ、魔王相手の切り札は一枚でも多く持っておきたいのは同感なんだけども。
でもこんなわけ分からん場所ばっかで探索してて気が滅入ってきて愚痴の一つや二つ漏らしたくなる気持ちも分かっていただきたい。
≪推奨:次の扉の先を探索≫
話聞けよ! てかちょっとは休ませてくださいや!
≪体力・生命力・魔力・気力、全て探索するうえで問題ないレベルの消耗具合であると判定≫
そこに精神的疲労も加えて考慮していただけませんかね。
……もういいや。ゴチャゴチャ言ってても仕方ないし、次へ向かうとしますかね。
次は障子の襖。ガラッとな。
障子を開けると、和室で老人が苦しそうに腹を押さえながら寝込んでいた。
「うぐぐ………鯛の天ぷら……美味かった……ガクッ」
あ、死んだ。最期の言葉それでええんかアンタ。てか誰だ。
時々出オチみたいな扉が混じってるのホントなんなの? コントやってるんじゃないんやぞ。
……次行こ。
次はまたも襖。凄まじく精密かつ綺麗な月の絵が描かれた、屏風みたいな引き戸だ。
この襖だけでも相当な価値がありそうなんですが。てか描き込みが凄いの通り越してエグい。細かすぎやろ。
襖を開けた先には、竹林が広がっていた。
空には満月と、雲一つない星空。
あー、なんとも風情のある場所ですね。
今までわけ分からん場所ばっかだったけど、ここが一番落ち着いているように感じるわー。
遠くから ギィン ガギィン って聞こえる金属音さえなけりゃの話ですが。
……音からして剣戟か? うるせーなオイ。
っ!?
「ぬぉぉおうっ!?」
竹林を斬り裂きながら、光る斬撃がこっちに向かって飛んできた。
魔刃改で切り裂いて事なきを得たが、凄まじい威力だった。
今のは、【魔刃・遠当て】か? それともそれっぽい異世界特有の技かなにかか?
アルマパパの遠当てと同等くらいの威力だったんだが。
≪解析した結果、【魔刃・遠当て】と判定≫
……ってことは、今のはパラレシア出身の人間が放った攻撃ってことか? 誰だ、いったい。
流れ弾なんか飛ばしおって、周りの迷惑も考えろや!
「がぎゃぁぁぁあああ!!!」
ドチャリ、と水風船でも地面に落としたかのように水を含んだなにかが地面に落ちる音。
俺のすぐ傍に、上半身だけが残っている狐の面を着けた袴の男が落ちてきた。グロし。
……殺ったのは、さっき遠当てを飛ばしてきた奴かな。いったいどんな――――
!!
闇に紛れて、月光を反射しながら迫る剣身を魔刃改で受ける。
速いっ、アルマパパの剣に引けをとらない速さと鋭さだ!
剣を振るってきたのは、白髪の老人だった。
顔は皴だらけで、見た目齢80、いや90歳超えてるか?
なのに身体は老人のそれじゃない。筋骨隆々とした、戦士の身体だ。
このジジイが、この狐面の相手か!?
「おほぉ! よもや素手で受けよるとは、やるのぉ若いの!」
「な、にしやがんだっ!!」
魔刃改で受けながら、カウンターで魔力パイルをぶち込む!
「おおっと! 見えぬ杭打ちか、危ないのぉ!」
余裕しゃくしゃくといった様子で、魔力パイルを躱すジジイ。
……見えてはいないようだが、パイルが打ち込まれたのを察知して避けやがった。
「ふむぅ、スキル由来の力ではないな。『この世界』特有の力かの?」
「……いきなり斬りかかってきやがって。なんのつもりだ」
「急にとんでもない力の持ち主が現れたもんじゃから、つい斬りかかっちまったわい。お主はその狐面の統領かなにかか?」
「違う。なんの関わりもない。……アンタ、なにもんだ?」
「あー、急に現れたのを見る限り、多分お主と似たようなもんだと思うがのぉ。ひょっとしてお主も『21階層』から来たのかの?」
「っ!」
「図星か、なんとまあ命知らずな。まあ俺が言えた義理じゃないがのぉ、ハハハ!」
今、21階層って言ったか。
ってことは、このジジイはやっぱり……。
「おーい! スパーダ爺さん、置いてかないでくれよぉ!」
「たわけ、お主がモタモタしとるのが悪いんじゃろが!」
ジジイが飛んできた方向から、誰かが走ってくるのが見えた。
スパーダってのが、このジジイの名前か? 見た目なんか和風っぽく見えるけど、随分ハイカラな名前してんな。
ってか、近付いてきてる人、もしかして日本人か?
黒髪だし、顔の彫りが浅いし。いや、単に日本人に似た異世界人って可能性もあるけど。
……ここにきて急に状況が変わってきたな。
お読みいただきありがとうございます。
>梶川の腕取り込まれたせいですべてが始まったのか!?―――
誰も予想できないヤバい事態になった模様。
ネタバレするとこの後に施設壊滅します。
>腕食ったやつは超パワーアップするけど―――
パワーアップだけならまだどうとでもなったのですが、……これ以上はまた次回作にて。
『外』の化け物はぶっちゃけ今のカジカワなら余裕で美味しくいただけます。……やっぱこっちのほうがバケモノだわ。
>それにしてもメニューさんが超有能すぎる―――
他のシステムの影響を受けないようにしつつ、なおかつ異世界の存在の分析をするという有能。チートも大概にせーよと言われそう。
>おっと、浮kゲフンゲフン新たなヒロインフラグかな?―――
浮気ジャナイヨー。ていうか面識すらなく腕以外は一切関わってません。
これ以上パーティに女の子増やすと勇者パーティより先にハーレム状態になりそうだし。
>アルマ「…ヒカル、また女の子拾ってくるの?」
違います。誤解です。信じてください、何でもしませんから!




