もうありえないはずの、親子の会話
新規の評価、ブックマーク、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
俺こと、梶川光流には将来の夢というものが無い。
目標が無い。才能が無い。努力して立派な人間になろうという気概すら無い、ダメ人間だ。
元々自主性は薄かったと思うが、高校を卒業して工場に勤め始めてから、そのダメっぷりに拍車がかかってきたように自分でも思う。
というか、お袋が死んでから、か。
俺の家族は母親と祖父母がいた。
父親は、俺が産まれてすぐに他界したらしい。なんかの病気だったとしか聞いてないが、まったく記憶にないあたり本当に産まれて間もなくだったんだろう。
父親がいないからか、その分お袋はよく働いていた。
朝早くから夜遅くまで、毎日毎日。身体を壊さないかと、子供ながらに心配したもんだ。
そんな状態だから、お袋が居ない間は祖父母に面倒を見てもらうことが多く、内心寂しいと思うこともよくあった。
友達と遊ぶ時以外は一人でいる時間も多く、寂しさを誤魔化すためにマンガやゲームなんかを小遣いはたいて買ったりしてたな。
それでも、お袋は忙しい中で俺との時間を大切にしてくれていた。
学校はどうだったとか、勉強は進んでいるかとか、友達との仲はいいかとか、極々普通のやりとりばかりだが、俺にとってはなによりも大事な時間だった。
そのわずかな時間だけでもお袋の愛情を強く覚えていて、やはりこの人は俺の母なんだと感じていた。
俺が小さいころから簡単な料理なんかをするようになったのも、お袋が帰ってきた時の話題のタネを増やすためだったと思う。
『これ、光流が作ったの? すごいわ』とか『この料理おいしいね』とか、褒めてもらうために背伸びして慣れない手つきでやってたっけ。
……我ながらマザコンめいたかまってちゃんぶりだが、それだけ母との時間は貴重なものだったのだと分かってもらいたい。
ここまでのあらすじを聞けば分かるだろうが、俺には特別な過去なんかない。
強いて言えば父がいないことくらいだろうが、それも珍しいことでもないだろう。
普通に育てられて、普通に成長していっただけ。
お袋に褒めてもらいたい気持ちが強くて我ながらかなりキモいが。
高校受験をする際に、将来のことを考えて進学しなさいと言われ、ひどく困った覚えがある。
だって将来の夢が、なにも思いつかなかったから。
『こうなりたい』って思うような理想像が、俺の中には無かった。
ただ、就職率がいいというだけで公立の高校へ進学し、そのままトントン拍子に近場の工場の内定をもらった。
今思えば、もっと就職先は吟味すべきだったと思う。入ってみたら結構なブラックぶりだったしな(白目)
内定が決まり、お袋は喜んでくれるのと同時に激励の言葉も贈ってくれた。
『内定はあくまで始まりにすぎない。大事なのは、なりたい自分になるために、やりたいことをするために、どれだけ頑張れるかなんだ』と言っていたのは今でも昨日のことのように思い出せる。
なにせその次の日に、お袋は、交通事故に巻き込まれて、あっさり死んじまったんだから。
葬式が済んだ時から、まさに胸にポッカリ穴が開いたような気分だった。
『楽しい』っていう感情が、抜け落ちてしまったみたいに、なにをしても満たされない。
親との離別はいつか必ず訪れることだ。
それを乗り越えて、前に進むのが人生だ。当たり前のことだけどな。
でも、未熟な俺にはまだ早すぎたみたいで、そこから俺はもう頑張ることができなくなっていた。
生活のために一応働いているけど、ノルマをこなすのが精一杯で、上に向かって努力する気持ちがまるで湧いてこない。
単にサビ残や休出で疲れていただけかもしれないけど、もう『なりたい自分』も『やりたいこと』も俺にはなかった。
上司に褒められようが叱られようが、お金さえもらえればどうでもよかった。
母親の死以外は特に悲しい過去もなく、特筆することなんか一切ない。
ただ、死ぬ理由が無いから生きてるだけの、どうでもいい、しょーもない人生が梶川光流という男の全てだった。
しばらく泣き笑いが止まらなかった俺の隣には、なにも言わずに撫でて微笑んでいる、ショートヘアを茶髪に染めた女性がいた。
『梶川 唯』 俺の、母親だ。
二人で壁のレリーフを眺めながら、しばし佇む。
実に7年ぶりの親子の時間。この人はニセモノだけど。
「綺麗なところねー。壁も床もキラキラしてて、まるで宝石の城みたい」
「そう、だな」
「……落ち着いた? まったく、いい歳してワンワン泣いたりして、……ぷっ、あっははは!」
「勘弁してくれよ……」
生前と変わらない、活き活きとした声でお袋が笑っている。
それだけでまたこみ上げてきそうになったが、なんとか耐える。泣くな、俺。
「アンタ、このフロアのボスだろ? 戦わなくていいのか?」
「最後の形態は戦闘目的じゃないから、いいのよ」
「じゃあ、なにが目的でそんな姿してんだよ」
「ぶっちゃけると、この先へ進ませないように説得するためね。21階層以降がどれだけ危ないか、知ってる?」
「バグの温床みたいな場所だって聞いてるけど」
「そうよ。時間の進みかたがでたらめだったりして、下手したら浦島太郎みたいな状況に陥ることだってあり得るらしいわ。帰ってみたら遥か数百年後だったーって感じね」
「そりゃ怖いな」
「あと、何百年も後の人物と出会ったりすることもあるし、物理法則そのものが違うところに繋がったりすることもあるとかなんとかかんとか。……なんで私こんなこと知ってるのかしら?」
多分、さっきのノイズがなんか悪さしてるからだと思う。
あのノイズが『お袋の情報』をボスに送るついでに、余計な知識も一緒に付加したと考えるのが自然だ。
……あれは、いったい誰なんだろうな。
「要するにこの先ヤバいから立ち入り禁止、どうしても進みたいのなら死に別れた大切な人を倒してから行きなさいってことね。趣味悪ぅ~」
「……アンタがその当人でしょうが」
「まーね。ただ、この先は本当に危ないの。悪いこと言わないから帰んなさい」
少し寂しそうな顔をしながらも、帰るように促すお袋。
できれば俺もさっさと帰りたいんだけどね。
「ダメだ。悪いが、こっちにも事情がある」
「もう一度言うわ。……いいから、帰りなさい。この先は、遊び半分で進んでいいところじゃないの」
厳しい表情と声色で、俺がまだ小さかったころみたいに、母が子を諭すように言葉を続けている。
「さっきの娘が待ってるんでしょう? その娘を置いて、死にに行く気?」
「俺が先へ進まなきゃ、アルマも俺もみんな死ぬ。今はそういう状況なんだ」
そう言うと、少し目を見開いて驚いたような表情を見せた。
……てか、なんでアルマのこと知ってんだ?
お袋は、数秒ほどなにか考え込むように俯いた後、顔を上げて再び口を開いた。
「光流」
久しぶりに、お袋に名前を呼ばれた。
それだけで、胸にジンとくるものがあるのを感じた。……やっぱ俺ってマザコンなのかな。
「……なに?」
「ちょっと、話そうか」
そう言うと、床に座り込んだ。
近くの床をペシペシと叩いて、俺も座るように促してくる。
「これまでのこと、話してもらえる?」
「これまでって、……どっから話せばいいんだ?」
「そうねぇ、光流が話したいところからでいいわよ。話したくないことは無理に言わなくていいから、あなたのこれまでどう過ごしてきたのかを、聞きたいの」
「別に、そんなに面白い話でもないけどな」
「嘘ばっかり。じゃあ、手始めにいつからロリコンになったのかから話してもらいましょうか?」
「ぶっ!!?」
ゲッホゲホ! むせた!
い、いきなりなに言ってんだこの人は!? 俺がいつロリコンにって、どういう意味やねん!
「いや、光流ってもう20代半ばくらいに見えるんだけど、さっきの彼女って16歳でしょ? 女の子の好みにケチつける気はないけど、ちょっと年の差が大きいなーって」
「か、彼女じゃないっての! てかなんでアルマのこと知ってんだ!?」
「んー、さっきまであの子に変身してた時の記憶が残ってるみたいなのよねー」
「……は?」
「『ヒカルは私のことどう思ってる?』って聞かれて、『アルマは、俺にとって一番大切な人だ(キリッ』って言ってたじゃない? いやーお熱いわぁー」
「ああああああああああああああああ!!!!」
地面に頭を叩きつけて悶えまくる俺。
死にたい! よりによってそこの記憶残してんじゃねぇよクソが!!
彼女への告白の言葉って、それ親に聞かれたくない言葉の中でもトップクラスだろうが!
もうなんなのこの人。
こんなに心を掻き毟られるような気持ちは初めてだ。色んな意味で。
「ねーねー他には? 他になんか面白そうな話はないのー?」
やかましいわ!
お読みいただきありがとうございます。
>地球の神だから『アース』か――――
はい。その世界の名前がそのまんま神様の名前ですね。安直ぅ。
最終形態はある意味精神攻撃特化で、戦闘は強制されませんので料理を作ってもらうこともその気になればできるんじゃないでしょうか。
>今まで全く語られなかったヒカルの過去が、今、暴かれる…!!(誰―――
なお、主人公の過去はぺらっぺらな模様。それでいいのかお前。
役得どころか、それをネタに親相手に羞恥プレイ。イ㌔
>この地球ちゃん録なことしやがらねえ。――――
今回みたいに過度な干渉は控えるべきなのですが、このほうが面白そうだからと、どうしても我慢できなかったようで。あと最近は台風もですね。……今度の週末の10号、大丈夫かな(;´Д`)
魔獣は殺しまくってるけど人は殺してないからセーフ。ママァー!
>ああ、なるほど。母親に会わせてあげよう―――
粋な計らい(愉悦)
あと、会ったことのある人物限定ですのでノブノブは呼べません。まあ、ちょっと後に登場すr(ry




