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エピローグ第10章 「防人乙女希望進路~和歌浦マリナ少佐の場合~」

「驚いたな…私達、まだ高1だろ。将来について考えるのは、少し気が早過ぎやしないか?」

 空にしたビアジョッキをテーブルに下ろしたマリナちゃんが、半ば呆れたような表情を浮かべて呟いた。

 さっきの京花ちゃんと、ほとんど同じような事を言ってるね。

「そんな事ないよ、マリナちゃん。4月のホームルームで、高石先生も言ってたよ。『ウカウカしてると、高校生活なんてアッと言う間ですよ!』って!」

 そんな京花ちゃんはというと、そろそろ粉末ジュースサワーにも飽きてきたのか、麦焼酎ロックで満たされたグラスを弄んでいる。

 マリナちゃんを(たしな)める口調は、わざとらしい早口だ。

 B組担任の日本史教師の物真似は、それなりに成功しているようだね。

 些かデフォルメが激し過ぎて、とても本人に聞かせられないのが難点だけど。

「学校提出の進路希望書には一応、お京達と同じように『進学希望』って書いたけど、特命遊撃士引退後の事は、まだ考えていないんだよね。教導隊に残ろうかなとは考えているけど、ちさみたいに幹部コースを目指すかというと、そうも決めかねているし…」

 何とも歯切れの悪い返事だね、マリナちゃん。

 自分の取り皿を引き寄せたものの、梅ジャムもろキューを口にも運ばずに、箸の先で「の」の字を書いちゃってるよ。

 オマケに左手は頬杖。

 普段のクールさも、すっかり鳴りを潜めちゃって。

「あっ…あのっ!」

 ガタリと椅子の引き摺られる音が響いたかと思うと、英里奈ちゃんは勢い良く腰を上げていたんだ。

 勢いが良過ぎたのか、腰まで伸ばされた癖のない茶色の後ろ髪が、踊るようにユラユラと揺れていたよ。

「ん…?どうしたの、英里奈ちゃん?」

 私の問い掛けを皮切りにして、残るサイドテールコンビの視線もまた、内気な御嬢様の華奢な痩身に注がれる。

「あっ、あのっ…マリナさんは、その…特命儀杖隊を視野に入れられては、いかがでしょうか?」

 テーブルに手をついた中腰の姿勢のまま、英里奈ちゃんは一気に語り終えた。

 最初の辺りは吃音混ざりだったけど、調子が出てからはスムーズだったね。

 周りの人がキチンと聞く姿勢を取ってさえあげれば、英里奈ちゃんみたいに内気な人も、ちゃんと自分の意見を伝えられるんだよ。

「おっ!それは名案だね、英里奈ちゃん!でも、まずは座ろっか?」

「はっ…はい、千里さん…」

 言いたい事を吐き出して緊張の糸が切れたのか、或いは、日頃の淑やかと慎み深さも忘れて派手に立ち上がった事を、今更恥じ入ったのか。

 どちらかは定かでないけれど、英里奈ちゃんは沈むようにして椅子に腰を下ろしたんだ。

「儀杖隊ね…うん、いいね!やっちゃおうよ、特命儀杖隊!マリナちゃんって、女の子人気が高いじゃない!イケると思うよ、キャラ的に!」

 随分と軽々しい口調だけど、京花ちゃんの意見には私も同感かな。

 各種の式典やセレモニーにおいて、人類防衛機構の御偉方や海外の来賓の警護をしたり、統制の取れた栄誉礼を披露したりする、「人類防衛機構の顔」とでも言うべき花形部隊。

 それが、特命儀杖隊なんだ。

 その性質上、防人の乙女として必要な技能と品行方正な勤務態度は当然として、カメラ映えする端麗な容姿も要求されるの。

 この辺は、警察や自衛隊の儀仗隊と変わらないね。

 少なくとも私達の中では、マリナちゃんが一番相応しいんじゃないかな。

 クールで凛々しい美貌は充分に及第点だし、「サイバー恐竜事件」に「黙示協議会アポカリプス鎮圧作戦」、そしてこないだの「吸血チュパカブラ駆除作戦」と、事件解決に貢献した武勲は申し分なし。

 この中でも特に注目すべきなのは、「吸血チュパカブラ駆除作戦」だね。

 大浜少女歌劇団北組の娘役トップスターである白鷺ヒナノさんを救出した際のヒロイックな立ち振る舞いは、大きくファンを増やしたらしいんだ。

 管轄地域の民間人少女は勿論、支局内でも訓練生や特命機動隊の子達から熱い視線を寄せられているみたいなの。

 こないだの第25回つつじ祭の公開射撃演習の時なんか、ホント凄かったね。

 ワーグナーの「ワルキューレの騎行」に合わせてマリナちゃんが入場すると、地下射撃場に黄色い歓声が派手に鳴り響いちゃうんだから。

 まるで、ヒナノさんが所属する大浜少女歌劇団の男役スターみたいだね。

 恐らく、尉官階級の特命遊撃士の中にも、マリナちゃんに憧れてる子達は多いんじゃないかな。

「しかしなあ…特命儀杖隊って、教導隊の中でもトップクラスの美形じゃないと入れないんだろ?私に務まるのかな?」

 それは謙遜のつもりで言っているのかな、マリナちゃん?

 マリナちゃんも、自分に向けられている周囲の肯定的評価を、もう少し積極的に活用してもいいんじゃないかな。

「マリナさんなら、その…特命儀杖隊の必要基準も、充分に満たせていると御見受け致しますし…」

 おっ!そこでもう一押ししちゃう、英里奈ちゃん?

 それにしても…

 英里奈ちゃんはどうして、さっきから上目遣いでマリナちゃんの事を盗み見しながら、モジモジとしちゃっているのかな?

 心なしか、頬も赤くなっているようだし…

 もしかしたら英里奈ちゃんも、大人っぽく成長したマリナちゃんが、特命儀杖隊に参加した時の凛々しい美しさを想像して、ドキドキしているのかな?

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― 新着の感想 ―
>「驚いたな…私達、まだ高1だろ。将来について考えるのは、少し気が早過ぎやしないか?」 将来を事を考えるのは、早くてもいいとは思います。成長してからでも目標を変更する事だって出来ますからね。 まぁ、私…
[一言] ヤベェな。 これ以上綺麗になったら……さらにファンが増えるって!
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