エピローグ第９章　「防人乙女希望進路～枚方京花少佐の場合～」

「何か、凄いね…千里ちゃんも英里奈ちゃんも、そこまで先の事を見据えているんだ…」

　あれ…京花ちゃんったら、引いてない？

　冗談半分で気安くぶつけた質問に、想定以上に具体的な答えが返ってきたから、戸惑っているんだね。

「そういう京花ちゃんはどう考えてるの？特命遊撃士を続けられなくなった場合の進路希望は？やっぱり、教導隊へ入るの？」

　私がこのように問い掛けると、京花ちゃんは首を傾げて腕を組み、そのまま考え込んでしまったんだ。

「う～ん、どうだろう？私、他にやってみたい事があるんだよね…」

「えっ…？京花ちゃん、あんなに特命遊撃士としての正義にこだわっていたのに…防人の乙女よりも、やりたい事があるの？」

　驚く私に、京花ちゃんは「笑わないでね。」と釘を刺しながら、自分の大望を語り始めたんだ。

　特命遊撃士の「正義の体現者」としての側面に、京花ちゃんは並々ならぬ思い入れを抱いているんだけど、それは京花ちゃんの趣味趣向と切っても切れない関係にあるんだよ。

　京花ちゃんは、特撮ヒーロー番組の熱心なファンなんだ。

『私はテレビ画面越しに、ヒーロー達から正義や友情の大切さを教わり、決して諦めない勇敢な姿を通して、励ましのメッセージを貰ってきた。私は特命遊撃士としての正義を成す事で、ヒーロー達のメッセージを実現させたいんだ。』

　京花ちゃんは以前、こんな事を言っていたの。

　京花ちゃんにとっての特撮ヒーローは、常にエールを送ってくれる憧れの先輩であり、特命遊撃士としての指標を定めてくれた先達でもあるんだね。

　そんな京花ちゃんだから、ヒーロー番組その物だけではなく、作品に関わった人達の事も大好きなんだ。

　京花ちゃんの自宅の本棚には、巨大ヒーローの「アルティメマン」シリーズに、等身大ヒーローの「マスカー騎士」シリーズ、巨大怪獣映画の「大怪獣オメガ」シリーズのＤＶＤやブルーレイがズラリと並んでいて、それらの映像ソフトには結構な割合で、出演者や参加スタッフのサインが入っているの。

　それらのサインは、東京の秋葉原や大阪の日本橋などで行われている特撮物のトークライブやサイン会に、京花ちゃんが参加して集めてきた物なんだって。

　各種のイベントで、大迫力の特撮シーンを手掛けた特技監督や、テレビと変わらない優しさと爽やかさを保っている主役俳優と直接触れ合う事で、京花ちゃんの憧れは一層募っていったんだ。

「もしも『サイフォース』が衰えても、ナノマシンで改造された身体と運動神経は残るでしょ。その力を活かしてスタントマンになって、いつかは『アルティメマン』や『マスカー騎士』に出たいんだ。それで、かつての私みたいな子達に、正義や友情の大切さを伝えていきたいんだ。」

　京花ちゃんは少し照れ臭そうな表情を浮かべていたけど、私達は誰１人、笑いもしなければ茶化しもせずに、京花ちゃんの語る夢に聞き入っていたね。

「素敵な夢ですね、京花さん…」

　京花ちゃんが語り終えるや、すぐさま口を開いたのは英里奈ちゃんだった。

　京花ちゃんをまじまじと見つめる緑色の瞳には、敬意を帯びた光が宿っている。

「やっぱり…あれかな、お京？こないだ対談をした、雪村志帆さんの影響もあるの？」

　ここでマリナちゃんがチラリと言及した、雪村志帆さんって人は、特命遊撃士ＯＧのアクション女優さんなんだ。

　私達が小学生の頃に放送していた「アルティメマンアース」では、サトナカ・ユミ隊員を演じていらっしゃって、京花ちゃんの憧れの人なんだよ。

「まあ、それも大きいよね…いつか、アルティメマンシリーズに出るのが夢なんだ。志帆さんが隊長で、私が隊員を演じる事が出来たら、最高だよね…」

　そうして将来の展望を語る京花ちゃんの表情は、まさしく恋する乙女の顔だったね。

　慕情を募らせるその相手は、雪村志帆さんなのか？

　はたまた、アルティメマンシリーズその物なのか？

　まあ…その両方だろうね、きっと。

「応援するよ、京花ちゃん！いつか、京花ちゃんがアクション女優として大成して、私が幹部に昇格したら、その時は『さきもり白書』で対談しようよ！」

　感極まって、思わず椅子から飛び上がっちゃった私に呼応するかのように、御子柴１Ｂ三剣聖の一角もまた、青いサイドテールを揺らして立ち上がったんだ。

「うんっ！ありがとう、千里ちゃん！約束だよ！」

　そうして私と京花ちゃんの間で、軽やかに交わされるハイタッチと握手。

　傍目からは、少しオーバーに見えるのかな？

　でも、防人の乙女同士の爽やかな友情って、大体こんな感じだと思うよ。

　私が京花ちゃんを励ます時に、堺県第２支局内で刊行されている「つつじ通信」じゃなくて、極東支部の公報誌である「さきもり白書」を例に挙げたのを、不思議に思う人もいるかも知れないね。

　本音を言えば、私も堺県第２支局の支局長になりたいよ。

　けれど、現支局長である明王院ユリカ先輩みたいに、支局内選挙で当選出来るとは限らないからね。

　仮に極東支部の参謀局にでも配属と相成ったら、この堺県第２支局とは縁遠くなっちゃう訳だし。