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エピローグ第7章 「防人乙女希望進路~吹田千里准佐の場合~」

 ヨーロッパ支部の高官とエリート部隊の御姿に、写真越しとはいえ、すっかり私は見入ってしまった。

「いいよねぇ…レッドベレー隊はカッコいいし、ベルリヒンゲン閣下は凛々しくも御美しいし…」

 思わずこんな言葉が出てしまう程に魅せられていたんだね、私ったら。

 はっきり言って、速報記事の内容なんてそっちのけだったよ。

「おっ、始まったよ!千里ちゃんの上官ラブが!」

 そんな私を現実に引き戻したのは、京花ちゃんの茶化すような笑い声だった。

「えーっ?だってカッコいいじゃない、実際問題。さすがに支部長は畏れ多いけど、私も出来る物なら参謀職まで昇格して、肩章と飾帯のビシッと決まった教導服に袖を通したいよ。」

 右肩から左脇腹の辺りを人差し指と親指で飾帯の形になぞったり、遊撃服の肩章を付ける所を指差したり。

 語りに熱が入ったのか、私自身でも知らないうちに、ジェスチャーが派手になっていたみたい。

「まあ…志を高く持つのは良い事だよ、ちさ。しかし、まずは佐官の飾緒から目指さないとね!」

 私のオーバーアクションに触発されたのか、自分の飾緒をクイッと引っ張って見せびらかすマリナちゃんも、妙に誇らしげな顔をしていたね。

「それを言わないでよ、マリナちゃん…」

 不服を言うと、思わず頬がブックリと膨らんでしまう。

 まるで、冬眠前にドングリを頬張るハムスターみたいにね。

 こういう仕草がつい出ちゃうから、私は周りの人達から、「子供っぽい」と言われるんだろうな…

「だからこそ、地域イベントの広報ブースをお手伝いしたり、当直勤務のシフトを増やしたりしているんじゃない。」

 人類防衛機構内での昇格には、幾つかの満たすべき条件があるの。

 勤続年数や成績も重要だけど、何よりも大切なのは功績だね。

 手っ取り早く功績が欲しいなら、作戦中に大活躍して武勲をあげる事だね。

 でも、この方法はオススメ出来ないな。

 何故ならば、私達が作戦展開するような事件は、何時何処で起きるか分からないし、手柄を取ろうとしてスタンドプレーに走ったら最悪だからね。

 何せ私達が所属する人類防衛機構は、友情と絆を何より重んじる組織だもの。

 スタンドプレーなんて厳禁だよ。

 軍規を真面目に守って、日々の勤務をキチンとこなして、当直勤務や広報イベントにも積極的にシフトを出す。

 それが昇級への確実な近道だね、結局の所は。

「ふぅん…それじゃあ千里ちゃんの志望進路は、特命教導隊を経ての幹部候補生って事になるの?」

「うん、まあね…」

 京花ちゃんの問い掛けを、私は素直に肯定した。

「やっぱり、お母さんの影響もあって?」

 マリナちゃんが言うように、母は私が防人の乙女である事を望んでいる。

 特命遊撃士を志したものの、ついにサイフォースに目覚められなかった母にとって、私は自分の夢を託せる相手なのかも知れない。

 アイドルの夢破れたが、娘を芸能界入りさせようと躍起になるステージママと、何処かで繋がっているのかもね。

 しかし…

「影響がないとは言えないけど、基本的には私自身の意志だよ、マリナちゃん。人類防衛機構が掲げる理念も、組織その物も、私は大好きだからね。ずっと防人の乙女でいたいよ…例え、サイフォースの力がなくなったとしてもね!」

 女の子の5人に1人が覚醒する、身体強化能力「サイフォース」。

 この特殊能力に目覚めた子達に、ナノマシンによる生体強化改造を施し、軍事訓練で戦闘スキルを習得させたのが、私達を始めとする特命遊撃士なの。

 ところが、サイフォースは一定の年齢をピークにして、その後は緩やかに衰えていくんだ。

 まあ、中にはサイフォースが全く衰えず、生涯現役の特命遊撃士として戦える子もいるんだけど、大抵の防人の乙女は、サイフォースに衰えの兆しが見えてくると、特命遊撃士を引退する事になるね。

 特命遊撃士を引退した後の進路は、大きく2つに分岐するんだ。

 1つは、人類防衛機構に予備役として籍だけ残し、民間人として生きる道。

 御子柴高校1年A組担任の松ノ浜先生や私の母も、こっちのパターンだね。

 もう1つは、人類防衛機構での戦闘スキルや経験を活かして、防人の乙女として防衛に携わり続ける道。

 こっちの選択肢も、自衛隊や警察などの関連機関に再就職する道と、人類防衛機構内部に留まる道とに、更に細分化されるんだ。

 サイフォースを失った後も人類防衛機構に留まる場合は、特命遊撃士の上部組織である特命教導隊への配属になるの。

 サイフォースが弱体化した分を補うべく義務化されている、ナノマシンの再投与や人工臓器の移植等といった更なる生体強化改造と戦闘訓練。

 そして特命遊撃士時代に培われた、高い戦闘スキルと練度。

 これらの諸要素こそが、特命教導隊が現役の特命遊撃士に勝るとも劣らない戦闘能力を維持している秘訣だよ。

 この特命教導隊は、特命遊撃士OGが参加する上部組織であると同時に、特命機動隊の子達が将校に昇格した時に配属される組織でもあるんだ。

 私達の知り合いで例えるなら、特命機動隊の江坂芳乃准尉が昇級されると、少尉として教導隊に配属される事になるね。

 そうそう、特命遊撃士OGが教導隊に参加すると、特命遊撃士時代の階級をそのまま持ち越してのスタートが切れるんだよ。

 だから、年齢と階級を照らし合わせるだけで、その人の前歴がある程度推察出来ちゃうの。

 成人年齢に達しているのに、教導服に飾緒もない尉官だったら、その人は特命機動隊から地道に出世してきた叩き上げ。

 一方、比較的若いのに、上級大佐や准将などの高位の階級だったら、その人は特命遊撃士上がり。

 こういう具合にね。

 断っておくけど、機動隊上がりの人が、特命教導隊内部で軽んじられているなんて事はないからね。

 むしろ、それまで蓄積された豊富な経験値から、一目置かれている位だよ。

 この特命教導隊の中でも特に優秀な人達が、参謀や支局長、ひいては元帥閣下といった幹部職や、特命警務隊や教官といった専門職に選抜されていくんだ。

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― 新着の感想 ―
なるほど。 千里さんの憧れは「レッドベレー隊」でしたか。 そりゃそうですね。 精鋭部隊に憧れるのは当然ですね。 制服(軍服)に憧れるのも納得です。 すこし、いやかなり脱線しますが。 私も制服に憧れて受…
[一言] いつか、ホント……昇進できるといいね!
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