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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
力な季節☆
148/210

Wakare

「まぁとりあえずさ。

 Tはね……?」


「その呼び方はやめろ。

 俺は波音だ。

 T・Dなんて変な名前なんかじゃない」


メイナに文句を垂れて俺は目の前の水をぐいっと飲み干した。

冷たい水がのどを潤し、おなかの中でたまる。

熱く熱を放っていた体が優しく冷やされてゆく。

水が欲しかったからちょうどいい。


「はぁ……。

 なーメイナ。

 俺さぁ、もうどうすればいいのか分からねぇよ」


目の前に氷だけ残ったコップを眺めて俺は一つため息をついた。

どうしよう、俺。

本当に。

自分の行く末が全然見えない。

自分でもわからない。

かといって、メイナに頼ってもなぁ……。


「さあ。

 私に聞かれても分からないって。

 あーでもほら。

 シンファクシから話が来てるみたいじゃん?」


それは……確かに。

話は来てるっちゃ、来てるぞ。

人殺しの話だけどな。

まして一人や二人じゃない。

今まで人を殺そうとも思わなかった俺に人殺しをやれと……。


「波音はどうしたいの?」


メイナが聞いてくる。

素直にここは答える。


「決まってる。

 俺は仁をあんなふうにして、挙句の果てに俺の街を滅ぼした連合郡をつぶしたい。

 そこから先なんてどうでもいい。

 とにかく連合郡をつぶしたい」


それだけが強い思いだった。

仁はもとから連合だったとはいえ、俺は悔しい。

自分の親友を助けれなかったことに俺は自分に嫌悪感を抱いていた。

殺さなくともよかったんじゃないか。

俺の力があったら仁は死ななかったんじゃないか。

そう何度も何度も思ってしまう。

だが、毎回毎回結論は出ない。

迷いが出てきたのだ。


「そっ……か。

 やっぱりそういう結論になるよね。

 じゃあさ。

 私に手伝わせてくれる?」


「手伝う?」


何をだ。

人殺しをか。


「うん。

 波音に力の使い方を教えてあげたい。

 あなたが手に入れた力の本当の使い方を。

 ね?」


メイナはにこっと笑うとケーキをひとつまるまる口に入れた。

口の端にクリームがついて髭みたいになってる。

力の使い方か。

最終兵器になったからには力の使い方を覚えろと。

つまりそういうことか。


「うむ……。

 じゃあ普通にお願いしようかな。

 せっかく手に入れた力だし。

 あ、先にシンファクシに連絡だけしてくる。

 どこで待ち合わせする?」


俺はコップを洗い場に置くと、メイナを見た。

メイナはいつの間にかすべて消えていたケーキ皿を置いて顎に指を当てる。

考えてるポーズか。


「えっと、中庭でいいと思う。

 そこで、また会お?

 シエラもつれていくからねぇ~」


「ん、わかった。

 ちょっと元帥のところに行ってからいくよ。

 二時間ぐらいしたら会おう」


俺はメイナに手を振るとシンファクシの部屋へと向かった。






「失礼します」


ドアを二度、三度とんとんと叩く。

鈍くゆっくりと響いたドアの奥に広がる部屋にはシンファクシがいて、本を読んだりなんなりをしているのだろう。

金魚に餌あげたりな。

俺だって何かペットを飼いたいと思う。

犬とか。

出来れば猫。


「入っていいぞ」


返事が返ってきたのを確認してドアノブをひねり中に体を滑り込ませた。

シンファクシは何やら分厚い本を机に広げて読み漁っている。

だが、俺が入って来たと分かると顔を上げて


「うむ。

 レルバル少佐か。

 待っていたぞ、返事を。

 まだ提案してからそんなにたっていないが……」


と、顔を上げて言った。

メガネを頭に乗せながら俺の心まで見通すような赤紫色の瞳がきゅっと細まる。

もしかして元帥って、最終兵器もどきじゃないか。

ふと今思いついた。

こう、人の心を読むような感じするもん、この人。

末恐ろしくなる。


「返事というか……決まりました元帥。

 俺、元帥の申し出受けようと思います」


最終兵器もどきの可能性を疑ってる俺の声はシンファクシに確実に届いたらしい。

てっきり俺が断ると思っていたのだろう。

元帥はメガネが頭からぽろっと落ちたのに信じられないといった表情で俺を見てきた。

関係ないか、頭からメガネが落ちたのは。

でも、それを拾おうとしないところでもう元帥の驚きっぷりが分かる。


「え、レルバル少佐……えっ?」


「いえ、あのですね。

 だから、俺、うけます」


シンファクシは頭を振って、半分ほど残っている温そうなコーヒーをすすった。

なんか俺悪いこと言ってるみたいになってきたじゃねぇか。

後で謝ろうなんか。


「そうか……!

 じゃあ、ぜひぜひよろしく頼む!」


あからさまにテンションが高いシンファクシは席から立ち上がると俺の手を握り締めてきた。

女の人なのにこの人本当にでかい。

手もでっかい、むねもでかい。

最後の方どうでもいいな、スケベ心だな。

封印。


「なんか、作戦とかあるなら。

 俺に言ってくれればやります。

 人殺しも、全部」


最後の言葉は付け足すようにした。

わざだ。

こうやってシンファクシに意識させようと思って。

なんか、ついついやってしまった。

シンファクシははっとしたような表情になって


「そうか……。

 せっかくだが、今は頼める用事はない。

 とにかくレーダー施設及び発電施設を修復しなければ」


といった。


「はい」


確かに、レーダーが動いていればあの爆撃機の大編隊に気が付かないわけないわな。

動いていないからこそサイレンも何もならなかったのか、

そりゃ対空砲火も当たらんわ。

レーダーは最重要施設。

移動が出来ない基地にとって敵の早期発見は重要だ。

でもそれが出来ないとなると……しばらくこの基地の防衛に努めることになるなぁ。

かといって、このまま何もせずにずんぶらりといるのも少しさびしいのであって。


「あー、レルバル少佐。

 あの……なんて言うか。

 あれだ。

 園田のことだが……」


敬礼してこの部屋を出ようとした瞬間にシンファクシが引き止めるように俺に仁の話題を持ってきた。

仁のことか。


「その話題……今必要ですか?」


自分でもぞっとするような冷たい声がシンファクシに向かって放たれた。

無意識に元帥を睨みつけて警戒の表情が頬を釣り上げる。

一気に冷たい空気に変わった元帥部屋で俺とシンファクシはお互いの顔を睨みあった。


「そう、警戒する必要はない。

 園田の遺体の話だ。

 今……霊安室にある。

 なんだったら会いに行くといい」


シンファクシはそういうともう出て言っていいぞ、というように手をひらひらさせた。

霊安室か。

せっかく言われたんだし、俺は向かうことにした。






「………」


霊安室についたわけだがやっぱり入りづらい。

こう、空気が俺を――というか生者を拒絶している気がしてならない。

どうでもいいが最終兵器になってから道を迷わなくなった。

レーダー使いながら歩いてるからだ。

少し反則のような気がしないでもないが、まぁ少しぐらいは許してほしい。

でないと迷うぞ、いつかのように。

まだここの構造全然覚えていないんだから。

ゆっくりと霊安室の扉を開くと、ひんやりした空気が漏れだしてきた。

冷たい、まるで冷凍室のような冷たさにぐったりと生気を感じない雰囲気が混ぜ込まれている。


「仁は……Йの列か」


中は血の匂いと、死の匂いが絡み合った独特の香りで充満していてその中にベッドがたくさん並べられていた。

全てのベッドが膨らんでいるわけではない。

だが、半分ほどはすっかり埋まってしまっていた。

膨らんでいるベッドの顔の部分にはどれも白い布がかけられており体の上には帝国郡のマークをあしらった旗がかけてある。

映画でしか見たことがないような異様な光景。

俺はその中一人で仁を探し始めた。

ベルカ語が壁に書かれておりその順番に並べられている。

日本語でいうあいうえお順だ。

アルファベットでいうabc順だ。


「結構近くてよかった、ここか」


俺はすぐにЙの場所を探し当ててその列に入っていった。

頭文字がЙだったから、ここから三つめぐらいだろうか。

一歩、一歩をゆっくりと踏みしめるようにしてひとつ、またひとつとベッドを通り抜けた。

そしてベッドにたどり着く。

名札は……間違いない。

園田仁の名前。

やっぱり死んでしまった……んだろう。

あそこにあった遺体をわざわざここまで持ってきたってことになる。

何もされずに無傷のまま残っていたら奇跡だろう。

俺は仁の枕元に立つと


「なぁ……仁。

 俺さ、本当にお主が死んじまったって分からないんだ。

 分かりたくないんだよ。

 お主は……嘘でも俺の隣でさ。

 友達として接してくれて……。

 鬼灯のおっさんに植えつけられた記憶だとか関係ない。

 なぁ、仁……。

 ありがとうな、本当に」


途中から涙声になった。

もう泣かないと思っていたのに。

ダメだったよ……。


「仁……ありがとう。

 俺、お主と一緒にわいわいできて……幸せだった。

 最終兵器だったけど、お主のおかげで――普通の生活が出来たと思う。

 本当に、ありがとう……。

 友達として、大好きだったぞ、仁」


零れた涙は帝国郡の旗にぶつかり、砕けた。

最後にもう一度感謝の礼を述べて、俺はゆっくりと仁の顔にかかった白い布を指でつまんだ。

仁のふさふさの髪の毛が指先に当たり、ぞわっと鳥肌が立った。

改めて親友の死に顔を見るとなると緊張する。

アニメとかだったら、ここで仁じゃない……!みたいな展開になるんだろうけどなぁ。

そんな展開はじめっから俺は期待しないぞ。


「…………はぁ」


覚悟を決めて一気に白い布を引っぺがした。

気が付けば閉じていたまぶたを開き、しっかりと顔を見る。

紛れもない親友。

園田仁の死に顔だった。


「だよな……」


俺は仁の頬を撫でてみた。

頬には煤が付いていて、血と混じりあって黒い点を仁の肌にこびりついている。

少し前までは皮膚の下に血が通い、そして俺と一緒に笑ってくれていた。


「さようなら……だな。

 楽しかったよ、仁。

 ありがとう。

 本当に……ありがとう。

 じゃあ、また会えるといいんだが――」


俺は仁にそういって自分で自分を笑った。

また会えるわけがないのだ。

何を言っているのやら、俺は。


「じゃあな、親友」


俺はそういって、白い布を顔に戻すと出口に向かって一直線に歩き出した。






               This story continues.


ありがとうございました。

仁、やっぱり……。

ええ、そんなはっぴーにはなりません。

現実です、あくまでもっ。

さてさて。

どうするんでしょうか、波音。

本当に。


ではでは、読んでいただきありがとうございましたっ。

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