常識ノットイコール通常
感謝される筋合いはないんだがなぁ……。
横に立って一緒に歩く彼女の手を握り返した。
「ふふっ」
笑っていらっしゃる。
帝国群の軍服がよく似合っていた。
斜めから差し込んでくる夕日にさらりと繊細な金髪が光り
笑顔を浮かべている横顔が映える。
どう見ても日本人の顔つきではない。
ただのヘタレの彼女なんてもったいないぐらいだ。
「どうかしたんですか?」
あまりにも長時間眺めていたので視線を感じたのだろう。
にこにこ笑ったまま俺を見つめ返してきた。
「あ、いや何でも……」
視線を海に落とし、問いを回避する。
少し下がってきた日が海にきらめき、空が赤い。
先を歩いていた夫妻がヴォルニーエルの甲板にかけられた階段から下に降りた。
階段は設置された桟橋につながっている。
元々は二百メートル前後の船のためのものなので一キロを超える全長を誇る超極兵器級にはとてもあわない。
奇妙な違和感が彷彿と沸き起こった。
ベルカの超兵器がおかしいんだよなぁ、これ。
桟橋が小さいんじゃないんだよな。
本当に常識が通用しない。
涙が出るぜ。
「にー!」
おう?
階段の手すりに手をかけ、アリルさんの手を離したとき上から何かが降ってきた。
もすっと肩にかすかな重みが加わる。
鳴き声からしてルファーだろう。
知り合いに「にー」と鳴くのはこいつを除いてあまりご存じない。
「かわいい!
波音君、なんですかこれは!?」
アリルが俺の肩からルファーを持ち上げてぷにぷにした。
あれ、一回も見せたことなかったっけ。
記憶と現実が食い違う。
違うなら説明せねばならないな。
俺は階段の段差を利用して格好つけた。
人差し指をルファーにめり込ませながら
「あー。
一言で言うならペット」
と一言で説明する。
説明は簡単、コンパクトに。
これが大事だと思うんだ。
「これがペットですか?
いいなぁ、うらやましいです」
世話楽だしな。
今まで基本放置しかしていないから。
俺はアリルの手でおとなしくしているルファーを摘んだ。
ぷにぷにで柔らかい。
和む、和むぞ。
「にー」
スリスリと手にすり寄ってくるのがまたなんとも。
心にぐっとくるかわいさだ。
ペットショップに放り込んだらガラスの前に人だかりが出来るだろう。
でも売ってやらない。
こいつのかわいさは俺だけのものだ。
誰にも譲らない。
堪能していいのは友人だけだ。
見ず知らずの人間はこんなかわいいものがあるということを知らずに今日を生きるがいい!
「まったく……。
よしよし」
人差し指にじゃれついてくるまん丸ペット。
「にー」
すり寄ってくるルファーをなでなでする。
癒しですよ、本当に。
癒し&和みのダブルパンチですよ。
シエラよりもよっぽどかわいいですよ。
一万倍(当社比)ぐらい。
「おーい、波音ー!」
階段から降りると桟橋の上だった。
木で出来ていてドラム缶のようなもの同士をつないでいる。
歩く度に軋むし、タニシや珊瑚が付着している。
それに海の上に浮いているおかげで安定しない。
足場が上下する感覚には慣れなんてものがないぜ。
三半規管の中がかき乱されるようでどうも・・・・・・。
って、呼ばれたよな、今。
どなたかしら。
「おい、無視かよー」
そんな声とともにがずんと、首に腕がかけられた。
なんだ、仁か。
大親友仁がめがねを胸ポケットに入れてほほえんでいた。
近くにいる人皆ほほえんでる気がするぞ、今日は。
ほほえみ日和か?
「おーおー。
お熱いことで。
邪魔しちゃったかな?」
片手に愛用のノートPCを抱えたままアリルの顔色を探っている。
怒らせると怖いからなぁ。
地球が一度滅びてもおかしくないぐらいに。
「いえ。
大丈夫ですよ?」
仁の心配など無用の長物と言わんばかりにまたまたにっこり。
そのにっこり顔が怖いんですよ。
何をするか分からないので。
末恐ろしいです、本当に。
彼女にして少し後悔したポイントである。
すでに尻に敷かれてるしな、俺。
「あ、俺がここにきた理由は伝言だぜ。
シンファクシが呼んでる。
それだけ言いたかったのさ。
至急の用事らしいからはよ行けよ?」
仁は足下をかさかさ歩くヤドカリをつまみあげ眺めた。
シンファクシが?
新たな依頼だろうか。
「分かった。
アリル、仁と一緒に行ってくれ。
俺はシンファクシのところに行くから」
だるいけどな。
足にふきあがってきた潮を避けつつ話しかける。
「分かりました。
じゃあ、また後で会いましょう?」
桟橋の隙間埋めとけよ、もー。
びっしょりと潮を靴にかぶってしまいぼやく。
後で靴下変えないと。
「くっそー、濡れた。
骨の髄まで。
おう。
また後でな」
肩にのったルファーをアリルに預け軽く手を振り分かれる。
桟橋を渡りきって陸地に到着する。
近くの滑走路を横切るのが一番早いだろう。
前に演説を聞いたドックの側を抜け、滑走路をわたる。
シンファクシがわざわざなんだろう。
この時間から考えてごはんの誘いだろうか。
や、ありえんな。
あの人に限って。
プライベートが充実してなさそうだかな。
鼓膜が破れそうな近くを戦闘機が着陸して滑走路に白煙が立ち上る。
焼けたゴムとガソリンの臭いが混じりあった素敵な香りの中をくぐり抜け建物の中に入った。
さて、シンファクシの部屋はどこだったか。
地図がほしいぜ、本当に。
GPS使えないかな。
さすがに無茶な要求か。
しばらく歩くこと二十分。
金色の表札がかかった部屋についた。
ここであっている・・・・・・と思いたい。
ドアノブを捻って中に突撃した。
ノックはしたから大丈夫だろう。
「ふんっ、ふんっ」
「………………えぇー」
「ふんふんふんっ」
中は一人の男が筋トレの真っ最中だった。
全裸だった。
もう一度言うぞ、全裸だった。
邪魔をしては悪いと思ってそっとドアを閉めた。
少しいい体つきだった。
セズクに捧げてやろうか。
少し悪いこと考える。
「よぉ、レルバル少佐。
お散歩かい?」
ドアをそっと背に一息ついたとき、話しかけられた。
「あ、こんばんわ。
いや、シンファクシの部屋を探しているんですが。
どうにも見つからなくて……。
あははは……。
広いですね、本当に」
後ろから話しかけてきたのは中佐の紋章をつけた人。
見るからにやさしそうな、のほほんとした人だ。
長く延びた髪がよけいに神秘を纏っている。
女の人にしては背が高くてがっちりだ。
「ああ。
元帥の部屋ならそこを曲がったところだぞ。
何、呼ばれたのか?
ひきっしりなしに呼ばれてるな、本当に」
にやっと笑った拍子に歯が欠けているのを見つけた。
「正直困ってます。
怖いんですよ、元帥」
「まぁ、うん。
頑張れ、応援してる」
豪快な笑いを見せつけ中佐はぐっと指を立てて去っていった。
ようやく部屋を見つけることも出来たわけだし。
さあ覚悟を決めた。
行くか。
まずはノックから。
「レルバル、入ります」
ドアを叩いて中に入った。
あいからわずの部屋の中にあいからわずの元帥がいる。
改めて部屋を説明するまでもないだろう。
「なんでしょうか?」
シンファクシのデスクから少し離れたポイントに直立して指令がくるのを待機する。
少し間がたち、ためらいを吐き出すように
「なぁレルバル少佐。
『伝説』のこと、どう思う?」
元帥は訪ねてきた。
急に訊ねてきた真意がわからない。
どうしたのだろう。
質問の意味がよく分からないので真意を見極める疑問を投げつける。
「どう思う、と言いますと……?」
シンファクシは紫色の目を細めた。
俺の目の奥にある何かをのぞき込もうとしているようだ。
少し目線をそらし回避に専念する。
「ん?
いや、うむ。
気にしなくていい。
ただの戯れ言だ」
目をつぶりため息をつくと元帥は立ち上がり、水槽の魚を眺め、餌を一つ入れた。
小さな小魚がよってたかって餌をめがけ泳ぐ。
すぐに餌は食いちぎられ粉々になってしまった。
「で、用件は?」
モーターが空気を送り込む音以外すべてが消えた。
耐えきれない沈黙。
打破するしかない。
「ん?
ああ、用件……ね。
今言おうと思ったがやめておく。
貴様はまだ休まなければならないようだからな」
そういってシンファクシは目の下をこする動作をした。
何かついているのかな?
「クマが出来ているぞ。
寝不足のようだな。
私がこの部屋に来るように、って指令。
あれは二時間前に出したものだしな。
お疲れさま。
ゆっくり休め」
鼻で笑われて思わず目の下をこする。
分かるわけないのに、何やってんだか。
「もう行っていいぞ。
ああ、飯は後で部屋に運ばせよう。
どうやら寝起きのようだしな。
今話をしても頭に入らないだろう?」
あわてて口の周りを拭う。
よだれついてるか?
「じゃあ。
また呼ぶからそのときに」
「はぁ。
了解しました、では」
元帥のお部屋から退出した。
なんで呼ばれたんだ。
『伝説』について聞かれたが。
ずっと前に鬼灯のおっさんが資料を持ってきていたはずだ。
『伝説』についての考察だったかな。
伝説自体は、何度も考えてきてはいたが結論には至っていない。
今度シエラやメイナに聞いてみるとしよう。
みっつの死が最終兵器ってぐらいしか個人的な意見はない。
資料部屋にあるよな?
ひっそり盗み見てみるか……。
This story continues.
ありがとうございました。
さてさて。
さてさてさて(何
どうなるのでしょうか。
続きをお楽しみに!
遅れてすいません(どげざ




