4-≪ 320 ≫
≪ 320 ≫
「チヒロ?」
頭を抱えたままうんうん唸っていると、背後から名前を呼ばれた。
振り返らなくても声だけで誰だか分かる。
何を隠そう、その人物はアタシをこの家に連れてきた張本人だからだ。
アタシは頭から手を離すと、声の主の方へ振り返ると笑みを浮かべた。
「こんばんは、フランツさん」
「こんな所でどうしたの? まさか、体の具合でも悪いのかい?」
「あはは……全然、元気ですよ。ちょっと、考え事してまして」
心配そうに顔を覗き込んでくるフランツさんに、乾いた笑いでアタシは首を横に振った。
貴方の妹のせいで悩んでいるんですって、喉元まで出かかったがゴクンと飲み込んだ。
この事はアイネとの女同士のお約束で、他言するのは厳禁と釘を刺されている。
「今日、アイネの部屋に呼び出されたらしいね。大丈夫? 何もされなかったかい?」
「え? 何故その事を!?」
「エレノアからチヒロが青い顔をしてアイネの部屋から出てきたって聞いたんだけど。まさか、アイネに何かされたんじゃ?」
「い、いえ! 何もされてませんよッ!」
神出鬼没、エレノアさん……。見られてたのか。
フランツさんにはこれ以上迷惑掛けたくないし、何があったか言うまで、ずっと心配そうにしてくるから、アタシの中の罪悪感が増すんだよなあ……。
「何か悩み事でもあるの?」
「えぇ、まぁ。そんな所ですね」
「僕でよければ、相談に乗るよ?」
グラン・パナゲアの神が悩めるJKの前に救世主様を遣わしてくださった。
フランツさん、ホント良い人や。
ここはお言葉に甘えて、相談してみるか……。いや、でもなぁ。
アタシの中の天使と悪魔がバトルアクションを繰り広げた。結果、最後のエルボーが決め手になって悪魔が勝利しました。
誰の事だか悟られない程度に相談するのは良いよね、アイネさん? 約束破った内にカウントされないよね?
「大丈夫です……と言いたいところなんですが、今回はお言葉に甘えさせて頂きます」
「じゃぁ、ここで話すのもなんだし……この先のバルコニーででも構わないかな?」
アタシ達は、広い庭を一望できるコルデア家自慢のバルコニーへと向かった。
ただなぁ、フランツさんに恋愛相談って何て言うか……。
いや、乗ってもらえるんだから文句言っちゃいけないな。
アタシは、先導するフランツさんの後を追った。
このまま、≪ 46 ≫ へ進んでください。




