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「よし! また、後で来ようっと!」
君子危うくに近寄らず! 嫌な事や面倒臭い事は、後回しにするに限るよね。
何時に来いって時間指定されたわけじゃないし、もしかしたら昼寝でもしてるかもしれない。
プライベートを邪魔するなんて野暮な事はしないのさ! アタシは空気の読めるJKだからね。
そうと決まればさっさとお暇しよう。
アタシはふぅと、額を拭って綺麗なターンをして一歩踏み出した。
「いつまでそこにいるつもり? 早く、入りなさい」
おっと、逃げられなかった!
背後でガチャリとドアが開き、不機嫌そうなアイネの声がアタシに掛かった。
ギギギっと油の切れたおもちゃの様にぎこちなく振り返ると、ドアの前に仁王立ちするアイネがいた。
鋭い眼光がアタシを射抜く。
その眼光に槍を突きつけられたトラウマが蘇りそうになる。
ガクガクと震えそうになる足を何とか踏ん張って、アタシはスカートの裾を持ってメイド流のお辞儀した。
「ご、ご機嫌いかがでしょうか? アイネお嬢様。本日は、その……たいへんお日柄も良く――」
「そんな下手糞な挨拶をしている暇があったら、さっさと入りなさい」
悪かったな、下手糞な挨拶で。
アタシの強張った挨拶を聞いて溜息をついたアイネは、さっさと部屋の中に戻ってしまった。
どうやら物騒な物は所持していないらしい。
いや、ここで安心するのはまだ早い。気を抜いては駄目だ。
ドアを閉めた瞬間、襲い掛かってくるつもりかもしれない。
こうなってしまったら、部屋に入るしかない。
ここで逃走したら、その後が怖い。
それこそ、般若みたいな顔で槍を振り回しながら追いかけてくるんじゃないだろうか?
あ、アタシのそばに近寄るなぁああッ! ……とか、泣き叫ぶ羽目に……。
いやいや、落ち着け。
集中だ。相手の一挙一動をよく見定めるんだ千尋! 決して油断しては駄目だ。
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