4-≪ 260 ≫
≪ 260 ≫
「んほおぉー! 今日も商店街は大賑わいですね!」
「こら、よそ見ばっかりしてると迷子になるよ」
「そうそう、チヒロはオッチョコチョイなんだから気をつけてよね!」
行き交う人々でごった返す街中を一つの集団がその間を縫うように進んでいた。
メイド服を身に纏った女3人と、スーツ姿の長身の男が1人。
濃い藤色の長髪をサイドテールに結った女と金髪をツインテールにしたそばかすの少女の2人を先頭にして、その後ろに黒髪の男と同じく黒髪をポニーテールに結った少女がついて行く。
ポニーテールの少女に、前の2人が何やら忠告している。
忠告にポニーテールの少女は口を尖らせるが、その隣を歩く男が少女を嗜めている。
「的確なご意見ですね。お2人の助言に感謝しなければいけませんよ、マスター」
「君らさぁ、ちょっとアタシの扱い酷くないかい?」
* * *
1ヶ月もの長い間、凶悪な魔物『亜竜』の出現で閉鎖されていた山脈のショートカットルート。
それが再び開通し、マルトゥスの商店街は大いに賑わっていた。
どの店も久しぶりの商品大量入荷にセールを行っている。
市民から旅人まで、お祭りでもやっているのかと言うくらいの密集度だ。
その人ごみの間をスイスイと進んでいくシェナとビアンカ姉さんを見失わないように、アタシは必死に人を掻き分けていた。
フジサキはアタシに歩調を合わせているというのに、ヒョイヒョイと器用に人の流れを避けて歩いている。
なにそれ凄い。どうやってんの?
現在、アタシ達4人は食材や日用品の買出しに商店街に来ている。
先日まで商人の到着が遅かったり品物が届かなくて、商品の値段が通常の3倍近くしていた。
いくら一貴族のコルデア家とは言えど、商品の値上がりはダイレクトに家計に響くらしい。
最近は出来るだけ買い物を控えていたのだが、流通路が再開され、全店でセールが行われるとの情報が入った途端、手すきだったアタシ達が急遽買い物に出動する事になった。
それで、現在に至るわけだ。
まずは食材を確保するためにアタシ達は生鮮市場を目指している。
「ねぇ、ビアンカー。やっぱり最初は野菜を買って、その後にお肉にした方が良いかな?」
「いや、新鮮な肉は野菜より売れ行きが良いから先に買った方が良いだろうね。少しばかり重いだろうけど、今日は男手があるから心配ないだろうさ」
「了解ッ! チヒロ、フジサキさん。最初はお肉屋さんに行くから、荷物持ちよろしくね!」
「おー! 了解っす、シェナ」
「何なりとお申し付けください。シェナ様、ビアンカ様」
アタシ達の方に振り返って、悪戯っぽくウィンクをするシェナ。
うん、今日もシェナは可愛いな!
ビアンカ姉さんは、そんなアタシ達をチラッと見てフッと小さく笑った。
その仕草が最高にカッコいいと思う。姉さんは産まれて来る性別を間違えたんだと思うよ。
アタシは元気良く返事をして、フジサキも先輩2人の指示に従った。
活気付く商店街の人々を見回して、アタシもテンションが上がっていた。
今思えば、それがいけなかったのかもしれない。
ルンルン気分で歩いていたアタシは、通りかかった商店から声を掛けられて袖を引っ張られた。
バランスを崩してよろけていると、袖を引っ張った張本人である果実売りのおっちゃんが豪快に笑った。
「おう、いらっしゃい! 可愛いメイド服のお嬢ちゃんッ! ウチの果物、買っていかねぇかい? 今日は商売再開セールで全品半額だよッ! 早い者勝ちだぜぃ」
買うとも言っていないのに、おっちゃんは見るからに新鮮で瑞々しい梨に似た果実をアタシの方にズイッと差し出した。
確かに美味しそうな果物だ。おっちゃんから受け取って、マジマジと果物を見つめてからどうするべきかと近くにいるビアンカ姉さんに尋ねた。
「ビアンカ姉さん! お肉も良いですけど、この果物も美味しそうです……って、あれぇ?」
手招きをしながら振り返ると、前にいたはずの2人の姿はなかった。
一瞬ポカンとしてから慌てて人ごみをキョロキョロと見回してみるが、フジサキ含めハタから目立つ3人組の姿は何処にも見当たらない。
もしかして……いや、もしかしなくてもだ。
「アタシ……はぐれた?」
●○●CHOICE TIME!●○●
「ここでしばらく待ってみよう」
…… ≪ 236 ≫ へ進んでください。
「三人を探しに行こう」
…… ≪ 243 ≫ へ進んでください。




