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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第4章 アタシと、コルデア家
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4-≪ 240 ≫

≪ 240 ≫


「………ん?」


 待てど暮らせど、馬乗りになった筋肉男は何もしてこない。

 焦らしてんのか? やんならひと思いにやれよ!


 うっすらと目を開けた瞬間、アタシの上にあった重みが横に弾き飛ばされた。

 目を見開いて、筋肉男がすっ飛んでいった方向に目を向けると、何かを叫ぼうとした腰巾着男も立て続けに吹き飛んで地面で一度大きくバウンドした。

先に吹っ飛んでピクリともしなくなった筋肉男にぶつかって静止し、同様に動かなくなった。

 

 何が起こったのか、アタシには理解できなかった。

 グッタリと倒れこむ大男2人の醜態を呆然と見つめつつ、胸元を押さえて起き上がる。


 まさか、死んだ……? いや、そんな事ないな。


 薄暗い裏路地に重なって倒れこむ男達に目を凝らすと、呼吸するために浅くではあるが胸が上下している。ただし、しばらくは目を覚ましそうにない。

 そんなことより、一体誰があの2人をぶっ飛ばしてくれたんだろうか?


 アタシは2人が吹き飛んだ路地の奥から、逆方向にゆっくりと目を向けた。

 すると、さっきまで誰もいなかった路地の入り口に誰かが立っている。

 あの人が助けてくれたのかな? 差し込む逆光で輪郭がぼやけて姿は良く見えないが、身長と体型からして男性だ。

 

 『男』と体が認識すると、先ほどの状況を思い出して嫌でも反応し、身体が竦んだ。

 立ち竦むアタシに向かって、長身の男が静かに歩み寄ってきた。

 一歩一歩、男が近づいて来るにつれて、その全貌が明らかになる。

 長身の男は顔を隠す様にまとった藍色のローブのフードを深く被っていた。

 素顔は全く見えない。

 全身をくまなく見てみるが、吹き飛ばされた男達のような武器の類は持っていない。

 だとすれば、あの大男2人をどうやってぶっ飛ばしたのだろうか。


 てか、この人どっかの海外ゲームで見たことあるな。

 タイトル、何だったっけ?

 あれだ、高い所から飛び降りても下に藁があれば大丈夫で、壁登ったり屋根を走り回ってお仕事をするけど、何故か初代は泳げない仕様のあの人に、格好がめちゃくちゃ似てる。

 この人の職業は、伝説のアサシンマスターに違いない。

 暗殺稼業の帰りか何かに、暴漢に襲われている新米メイドを見つけて、目にも止まらぬ早業で男達を倒してくれた正義の使者に違いない。


 ああでもない、こうでもないと考察している内に、その人はアタシの目の前まで来ていた。

 う、うわ。この人、フジサキよりデカいな。

 恐る恐る上目遣いに見上げると、その人は目線を合わせるように腰を屈めた。

 ここで初めて、その人と目が合った。

 正直、驚いた。その人の切れ長の瞳は左右で色が違った。

 俗に言う『オッドアイ』と言うヤツだ。

 右はルビー、左はアメジストと言ったところか。宝石みたいな綺麗な瞳だ。

 年齢は、顔付きからしてフジサキよりもやや上と言ったところか。整った顔立ちが大人の色香を漂わせている。


 瞳の美しさに思わず見惚れていると、男はアタシの後ろで伸びている2人に目をやった。

 顔を動かした振動でフードの奥に隠れていた長い髪が一房サラリと零れ落ちた。

 アタシはその髪の色を見て息を呑む。

 その人の髪は、何と混じりっけのない白一色。つまり、白髪だ。

 この人、若いのによっぽどアサシン稼業に苦労してるんだろうな……。


「冒険者のくせに気力もろくに纏えないとはな。実力もたかが知れているな。おい、お前……」

「あ、あの! 助けてくださって、本当にありがとうございます! お礼は何にも出来ませんが、本当に感謝してもしきれませんッ!!」


 心地よいテノールボイスで話し掛けられて、アタシは弾かれたように勢い良くお礼を言って頭を下げた。

 男は一言発しただけで黙り込んでしまった。

 何か、失礼な事でも言ってしまったんだろうか……。


「お前……それだけの『バイタリティー』があって、『治癒リカバリー』が使えないのか?」

「はい?」

「なるほど、自分のそれに気づいていないクチか……。いや、むしろこれだけ強大なんだ。気づかずに平凡に暮らす方が幸せかもしれんな」

「え? え?」


 『バイタリティー』に『リカバリー』って、何ですか?

 アタシを見つめてよく分からない独り言をボソボソ呟く男は、固まっているアタシに片手をかざした。

 何かされるのかと思って、ビクッと肩を揺らして反射的に目を瞑ってしまった。


「大丈夫だ、あの下衆共みないな事をする気はない。目を開けろ、傷物のままじゃ嫌だろう。治してやったぞ」


 治したって何をだろうか? 目を開けて体全体を見回してみた。


「あ……」


 いつの間にか、手の擦り傷や首の切り傷、頬に触れてみれば叩かれて出来たはずの腫れが引き、痛みも綺麗さっぱり消えていた。

 凄い、傷が全部治ってる。奇跡って本当にあるんだ。

 なになに? この人、何したの!? 


「傷が……。治してくださったんですか? まさか、お兄さん魔術士さんですか!?」

「おい、あんな人間のクズ共と一緒にするな。それよりお前、とんでもない目に遭った割りには落ちついてるな。あの下衆共はしばらく目を覚まさないだろうから、酷い目に遭いたくなかったら、今の内にとっととお家に帰ることだ」


 え、魔術士ってクズなの? 会ったことないから、よく分からないんだけど。

 話についていけなくて首を傾げていると、男はアタシに背を向けてこの場を去ろうとした。

 その背中に布で何重にも包まれた大きな荷物が背負われている事に今さら気が付いた。

 そんなことよりもだ!

 ちょ、ちょっとお兄さん、お待ちください! 置いていかんといて!!


「ま、待ってください!」

「ん? 何だ? 礼ならいらな――」

「道、教えてくれませんか? アタシ、実は道に迷ってて」

「は?」


 アタシは颯爽と去ろうとしているお兄さんを引き止めて、今までの事情を最初から最後まで延々と説明したのだった。 

 そう、何を隠そう。アタシは迷子なのです!

 アタシの説明を聞いていたお兄さんの顔が、段々と呆れ顔になっていく様子はちょっと面白かった。





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