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≪ 201 ≫
「チヒロ?」
頭を抱えたままうんうん唸っていると、背後から名前を呼ばれた。
振り返らなくても声だけで誰だか分かる。
何を隠そう、その人物はアタシをこの家に連れてきた張本人だからだ。
アタシは頭から手を離すと、声の主の方へ振り返り笑みを浮かべた。
「こんばんは、フランツさん」
「こんな所でどうしたの? まさか、体の具合でも悪いのかい?」
「あはは……全然、元気ですよ。ちょっと、考え事してまして」
心配そうに顔を覗き込んでくるフランツさんに、乾いた笑いでアタシは首を横に振った。
貴方の妹のせいで悩んでいるんですって、喉元まで出かかったがゴクンと飲み込んだ。
この事はアイネとの女同士のお約束で、他言するのは厳禁と釘を刺されている。
「ここで会えてよかった。これ……渡そうと思ってたんだ」
そう言うと、フランツさんは手の平ぐらいのサイズの袋をアタシに手渡した。
「開けてみて」と言われたので袋の口を結んであったリボンを外し、中身を取り出す。
……小さな、花柄のブラシ。
「これ……?」
誕生日でも何でもないのに、と思いながらフランツさんを見上げると、彼は少し照れたように頭を掻いた。
「商店街の最近流行りの店に行く用事があってね。チヒロに似合いそうだと思ったから」
「え、でも……」
「気にしないで、そんなに高いものじゃないから」
……確かに、宝石とかならともかく、小さなブラシぐらいで構えるのもおかしいか。
フランツさんがそんな店に行く用事って何だろうとも思ったけど、あまり深く考えないことにした。
『女なんだから身だしなみくらいちゃんとしておけ』ぐらいの意味なのかもしれない。
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
「うん。……ところで、アイネとは大丈夫かい?」
「えぇっ!?」
驚きすぎて、アタシは裏返った変な声を上げてしまった。
何だ、何だ。なぜこのタイミング?
フランツさんは、今日の午後のことを知ってるんだろうか。
「アイネがチヒロにキツく当たってるみたいだからね。まさか、アイネに何かされたのかな……って」
「い、いえ! 何もされてませんよッ!」
な、何だ……たまたまか。
そうか、ブラシもひょっとしてアタシにそのことを聞く口実だったのかもしれないな。
フランツさんって何があったか言うまでずっと心配そうにしてくるから、アタシの中の罪悪感が増すんだよ。
これ以上迷惑掛けたくないしなあ……。
「何か悩み事でもあるの?」
「えぇ、まぁ。そんな所ですね」
「僕でよければ、相談に乗るよ?」
グラン・パナゲアの神が悩めるJKの前に救世主様を遣わしてくださった。
ありがたや~。
ここはお言葉に甘えて、相談してみるか……。いや、でもなぁ。
アタシの中の天使と悪魔がバトルアクションを繰り広げた。結果、最後のエルボーが決め手になって悪魔が勝利しました。
誰の事だか悟られない程度に相談するのは良いよね、アイネさん? 約束破った内にカウントされないよね?
「大丈夫です……と言いたいところなんですが、今回はお言葉に甘えさせて頂きます」
「じゃぁ、ここで話すのもなんだし……この先のバルコニーででも構わないかな?」
「はい」
アタシ達は、広い庭を一望できるコルデア家自慢のバルコニーへと向かった。
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