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≪ 191 ≫
「チヒロ?」
頭を抱えたままうんうん唸っていると、背後から名前を呼ばれた。
振り返らなくても声だけで誰だか分かる。
「あ、マルコ先輩……」
「こんな所でどうしたの? まさか、体の具合でも悪いのかい?」
「あはは……全然、元気ですよ。ちょっと、考え事してまして」
心配そうに顔を覗き込んでくるマルコ先輩に、乾いた笑いでアタシは首を横に振った。
アイネお嬢様のせいで悩んでいるんですって、喉元まで出かかったがゴクンと飲み込んだ。
この事はアイネとの女同士の約束で、他言するのは厳禁と釘を刺されている。
「何か悩み事でもあるの?」
「えぇ、まぁ。そんな所ですね」
「僕でよければ、相談に乗るよ?」
マルコ先輩、ホント良いお兄ちゃんだな。
ここはお言葉に甘えて、相談してみるか……。いや、でもなぁ。
「大丈夫です」
「そう? ……でも……」
マルコ先輩は腕組みをしながら首をかしげ、じーっとアタシの様子を窺っている。
うーん……余程気になるようだ。
ここは何か一つ聞いてみた方が、かえって安心してくれるかも。
「えーと……じゃあ、お言葉に甘えさせて頂いて……」
「うん、何だい?」
誰の事だか悟られない程度ならいいよね、アイネさん? 約束破った内にカウントされないよね?
「『恋愛』って物がまるで分かってない人に『愛』を知ってもらうには、どうしたら良いんでしょうか?」
「ええっ!!」
どうやら想像の範疇を超えていたらしい。
マルコ先輩は大声をあげると、慌てて自分の右手で自分の口を塞いだ。
何やら顔が赤い。廊下の端から天井、奥の階段と目が泳ぎまくっている。
「それは……」
「それは?」
マルコ先輩の顔をじーっと見つめると、視線に気づいたマルコ先輩があさっての方を見た。
「やっぱり、ちゃんと言ってもらわないと分からないんじゃないかなあ……」
「できるかーっ!!」
「え?」
思わず叫ぶと、マルコ先輩は不思議そうな顔をした。
マルコ先輩的には本当にどこまでも真面目に考えたことだったらしい。
あのねぇ……何でそんな色々すっ飛ばした回答が出てくるのやら。
「あのですね……言ってもらうって、愛の告白ですか?」
「まぁ、そんな感じの……」
「愛の何たるかもわからない相手に? 玉砕確実の相手に告白できる人間なんて、いないですよ」
「あ……」
あ……って、全くもう。
アタシは額に手を当てて、はぁーっと溜め息を付いた。
まぁ予想はついてはいたけども、マルコ先輩の恋愛経験値はかなり低めらしい。
でも、あれだ。これで、よく分かったわ。
アタシは無表情のまま機械的にマルコ先輩に頭を下げた。
「あー……マルコ先輩、相談に乗ってくれてありがとうございました。相談しておいてこんな事言うのも何なんですが、やっぱり他力本願は良くないと思うんです。なので、自力で解決します」
「それは……まぁ。お役に立てて……良かった、のかな?」
「はい。マルコ先輩、おやすみなさい」
「うん。おやすみ、チヒロ」
この相談は間違いだった……。
帰って、本人……フジサキと、ちゃんと話し合うことにしよう。
まずはそれからだ。
残されたマルコ先輩が何か言いたげだったような気もしたけど、見なかったことにするアタシだった……。
~ 9th Scene End ~
第4章「アタシと、コルデア家」≪ 完 ≫
これで、チヒロがコルデア家の一員になるまでのお話は終了です。
お疲れさまでした。
このまま、「第4章 あとがき」へ進んでください。




