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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第4章 アタシと、コルデア家
611/777

4-≪ 185 ≫

≪ 185 ≫


 再び、バルコニーに静寂が戻ってきた。

 沈黙が気まずい。

 やっぱり、相談する相手を間違ったかな? フランツさんはアイネやロバートパパさん曰く『恋多き男だけど女性を見る目がとことんない』らしいし……。

 うん。これは自分で蒔いた種なんだから、自分で解決しなきゃだな!

 よし!っと、気持ちを入れ替えてフランツさんにお礼を言って部屋に戻ろうかな、と考えていたら、急にフランツさんが『あぁッ!』と大声をあげた。


「チヒロ、いい方法を思いついたよ!」

「え!? ま、マジッすか? フランツさん」


 やべ、思わず本音が出ちゃったよ。

 だって、あの恋愛ベタのフランツさんが『恋の解決策』を見つけたんですぜ?

 そりゃ、ビックリもするわ。


「恋愛のイロハが分からない人に『愛』を知ってもらうには……」

「知ってもらうには?」


 フランツさんの意味深な溜めをゴクリと息を呑んで見守った。

 フランツさんは自信満々にビシッと人差し指を立てると、こう言い放った。


「実際に恋愛中の恋人同士を見せれば良いんだよ! それなら、恋愛ってどういうものなのか、すぐ分かると思うんだ!」

「――って、なんでやねんッ!!」

「えっ!? えーっと……僕、何か変な事言っちゃったかな?」


 うん、そうだね。

 変って言うか……発想が斜め上過ぎて自分の耳を疑ったわ。

 騎士としての彼は相当優秀で、周囲から『騎士道のカリスマ』って呼ばれてるんだよね?

 それ、なんかの間違いじゃないのかな。

 少なくともアタシの目の前で自信満々な顔で目を輝かせている青年は、よく言って『天然系』、悪く言って『ポンコツ』『脳内お花畑』でしかないんだけど。


「あー。何て言うか、面白い発想だとは思うんですけど……。根本的な所、聞いても良いですか?」

「ん? なに?」

「お手本になるラブラブカップルを何処から調達してくるつもりなんですか?」

「あ……」


 あ……って、貴方ね。なんかちょっと、可愛かったから許すけど。

 その提案は考え無しに言ったものなんですか。

 アタシは額に手を当てて、はぁーっと溜め息を付いた。今さらだけどフランツさんの素って、こんなキャラなのか。

 これじゃアイネが極度の心配性になってもしょうがないのかもしれない。

 だからって、暴力振るうのはいけないけどさ……。


 でも、あれだ。これで、よく分かったわ。

 アタシは無表情のまま機械的にフランツさんに頭を下げてから、クルッと背を向けた。

 フランツさんが『え? 何で!?』って顔をして、アタシの肩に手を伸ばしてくる。


「ど、どうしたのチヒロ!? まだ、解決策も決まってないのに」

「あー……。フランツさん、相談に乗ってくれてありがとうございました。アタシちょっと急用を思い出したので、これで失礼します。相談しておいてこんな事言うのも何なんですが、やっぱり他力本願は良くないと思うんです。なので、自力で解決します」


 この相談は間違いだった……。

 夜も遅いので、未成年はとっとと自分の部屋に帰ります。

 帰って、本人……フジサキと、ちゃんと話し合いたいと思います。

 フランツさんとのこの会話は、きっと楽しようとしているアタシに、異世界の神様がこう囁いているんだ。

『お前、ちょっとは自分で考えろや』とね。


「それはえっと。お役立てて……良かった、のかな?」

「ええ。フランツさん、おやすみなさい」

「あぁ。おやすみ、チヒロ」


 残されたフランツさんの表情が哀愁を帯びてたけど、見なかったことにしよう。


   * * *


 振り返らずその場を去ったチヒロの背中を、フランツは複雑な表情で見送っていた。


「恋愛のお手本は君と……なんて、冗談でも言えないなぁ」


 バルコニーの手すりにもたれ掛かり、再び夜空を見上げていた彼は瞳を閉じて夜風に耳を傾けた。

 呟かれた独り言は、誰に聞かれることもなく暗闇へと吸い込まれていった。





                        ~ 9th Scene End ~


  第4章「アタシと、コルデア家」≪ 完 ≫





 これで、チヒロがコルデア家の一員になるまでのお話は終了です。

 お疲れさまでした。

 このまま、「第4章 あとがき」へ進んでください。

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