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「おぇええええッ! し、死ぬ。チヒロに殺されるッー!!」
「ほぉー。じゃぁ、とっとと死ぬがいいや!」
はっはっはっ、人にゴリ押ししておいて何を言ってやがる。
悪意を込めて笑うと、アタシは叫ぶハル先輩にフォークで刺した黒い物体を見せつけた。
今は、昼食時。
調理場には、アタシとハル先輩を含め、シェナ、ビアンカ、フジサキの5人がいた。
「ほれほれ。ハル先輩、とっとと口を開けなさいよ」
「いやだぁー。俺、こんなの食って死にたくねーよ!」
「死なねーし! 人にまかない料理作らせといて、何言ってんだ」
だーかーらー、できないって言ったじゃん!!
人の話を聞かない人にはおしおきね、ハイ決定。
「大体、誰でしたっけ? 『異世界の料理を食べてみたい』ってリクエストしたの? 普段、料理なんてしないアタシが腕によりをかけて作ったんだから、一口くらい食べてくれても良いじゃないですか!」
「あきらかに失敗作だろ! 真っ黒焦げじゃねーか!! しかも焦げてんのに、油が滴ってるってどう言う事だよ? 食い物に見えねーよ! 魔物のクソか!? 何なんだよ、コレ!」
「うわ、ちょっと食事中に汚い事言わないでよ!」
食事中に下品な発言をするハル先輩に、シェナが文句を言う。
むー、魔物のクソとは失礼な。
見た目はその、アレだけど、これは一応レシピ通りに作った、アタシの大好物なんだからな!!
「この料理の名前はコロッケ! アタシの世界では、定番の家庭料理です!!」
「そして、実際にどこのご家庭でも食されている『一般的なコロッケ』がこちらでございます」
興奮気味に叫ぶアタシを遮るように、フジサキが割って入る。
アタシのコロッケの皿の隣に置かれたソレは、黄金色に揚がった見事なコロッケだった。大皿に綺麗に盛り付けられ、湯気が上がり香ばしい匂いが辺りに漂う。
フジサキが置いた皿を、使用人達が目を輝かせて覗き込んだ。
「すっごく、いい匂い!」
「へぇ、超うまそうじゃん! さすが、フジサキ!」
「異世界には不思議な食べ物があるもんだね。油で揚げてあるみたいだけど、中身は何が入ってるんだい?」
「茹でて潰した芋にひき肉、玉ねぎを炒めた物を加えて混ぜ、適度な大きさに形成し、溶き卵とパン粉をまぶした後、高温の油で揚げております。難易度はさほど高くはございませんので、どなたでも簡単に作れますよ」
「なんでや! アタシのコレだって、れっきとした『コロッケ』なのに! 具だって、フジサキのと同じだし、作り方もまんま一緒なのに……」
思わず叫び、ドンとテーブルを叩く。
そんなアタシを、シェナとビアンカ姉さんが
「まぁまぁ……きっと、上手になるよ!」
「初めから上手くいくことなんかそうそうないさ」
と慰めてくれた。
「くぅ……。だって、だってさ、アタシの世界では料理が作れなくても全然問題ないし!」
「そうなの?」
「もっと手軽で簡単にできる調理方法があんの。お湯を注げば、3、4分で出来ちゃう料理もあるからね」
「すごい! お湯だけで出来ちゃうなんて、便利な料理だね。魔法みたい!」
「ちなみにですが、インスタント製品は調理したの内には入りません」
「シャラップ! フジサキ」
……その日の昼食は、こんな感じでとても騒がしいものになった。
アタシのコロッケは、残念ながらゴミ箱行きに……。
材料を無駄にして、とエレノアさんに怒られたけど、アタシが調理場の後片付けをすることとフジサキがコロッケの作り方を伝授することで、アルバイト料からの天引きだけは免れた。
……とりあえず、今は掃除に忙しいのでこれだけ言っておこう。
コルデア家のメイド見習いになったアタシは……今、ちゃんと心から笑っているよ。
~ 7th Scene End ~
★チヒロの【 C point 】~【 I point 】を必ず記録しておいてください。
★チヒロの【 Key word 】を必ず記録しておいてください。
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