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カーンッ!
殺伐とした客間に反響したのは、軽く乾いた金属音だった。
それは余韻を残す事も無く、吸収されるように収束した。
「ッ!?」
秒を超えたコンマの世界で起きた光景に、この場にいる誰もが凍りついたように動けなかった。
アタシはこんな事があって良いのかと息を呑んだのと同時に、さすがはフジサキと謎の安心感でホッと胸を撫で下ろした。
振り下ろされた槍の刃がフジサキの首筋に当たる寸前の所で、ガッチリと掴まれている。
これにはアイネだけでなく、フランツさんも驚愕に目を見開いていた。
アイネは掴まれた槍を奪い返そうと引いたが、ビクともしない事に焦り出した。
素手で刃物を掴んで平然としているフジサキに対して、驚きと若干の恐怖が篭った視線を向けている。
こんな事をされたのは初めてなのだろう。
まぁ、常人には絶対に出来ない芸当だからね……。
フジサキは刃を持ったまま、無表情にアイネを見下ろしていた。
「な……何なの貴方! 言いたい事があるなら、はっきり言いなさいよ!」
形勢が逆転してしまい、意表を突かれ、すっかり怖気づいてしまったアイネが歳相応の精一杯の虚勢を張る。
しかし、フジサキは冷静だった。
「貴女様のようなお方が、このような物々しい凶器を振るうのは相応しくないかと……。そう思わざるを得ないほど、貴女様はお美しく、可憐でいらっしゃる」
「なッ! な、なななななッ!?」
フジサキの思いがけない言葉にアイネの顔が、ボッと一瞬で真っ赤に染まった。
急所に当たった! 効果は抜群だー!!
今なら、アイネをゲットできるぜ! ボール投げなきゃ! じゃなくて……。
明らかに動揺するその姿からは先程の勇ましさは微塵も感じられない。
フジサキの棒読みにも程がある、ガッタガタに歯が浮きそうな台詞にアタシはふき出しそうになったが、奥歯を噛み締めて必死に耐えた。
臍で茶が沸くどころか、臍がビッグバンして新銀河が誕生しちゃいそう。
フジサキは刃から手を離して、アイネの前で膝をつくと彼女の手を流れるような動作でそっと取った。
そして、そのまま手の甲にチュッと軽いリップ音を立てて口づけたのだ。
口づけられた途端、赤を通り越して顔面蒼白で硬直してしまったアイネ。
アタシもフランツさんも、パッカーンと開いた口が塞がらなかった。
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