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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第4章 アタシと、コルデア家
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4-≪ 146 ≫

≪ 146 ≫


 ん? 長くなっても全然構わないって? ありがとう、君は良い人だなぁ。

 じゃぁ、その経緯を順を追って話すことにしよう。


 あれはロバートさんにコルデア家での滞在を許可されて、2週間ほどたった頃の事だ。

 ロバートさんは王都での仕事があるため、3日後の早朝には出立してしまったので、現在不在だ。

 初日の夜から『スパイだからといって、監禁するつもりはない。一応、見張りは付ける事になるがゆっくり過ごしてくれ』と言われ、アタシとフジサキはその言葉に甘えて、悠々自適な豪邸生活をスタートさせたのだった。


 最初の一週間は良かったんだよ。

 中庭でフランツさんとお茶を飲んだり、稽古の様子を見学してたらアイネに『邪魔よ』って言われて追い払われたり……フジサキと一緒に見てたのに、何でアタシだけ追い払われるのか、納得いかんかった。

 いや、それは置いておこう。

 あとは城下町に繰り出してみたり、フジサキと書庫で文字の勉強を再開したりと、かなり好き勝手にやらせてもらった。


 問題は、そんな生活が2週間目に入ってから起きた。

 なんとこのアタシがホームシックにかかって、情緒不安定になってしまったのだ。

 1週間でやる事が尽きてしまった。異世界にトリップしたばかりだったローナ村では、新しい環境に馴染むために1日中アルバイトに明け暮れていたから、実家のことを思い出す暇もなかった。

 家事のお手伝いでもしようかとエレノアさんに尋ねれば、『人手は足りておりますのでどうぞ、ごゆっくりしていてください』と軽くあしらわれた。

 2週間目に入ると部屋で寝起きして、適当に庭をぶらつくだけの生活になり始めた。

 そうなった途端に、アタシの頭の中を良からぬ考えが過ぎり始めた。


 そりゃもう、色々ね……。


 まずはいつになったらスパイ容疑は晴れるのかっていう事から始まって……。

 元の世界に早く帰りたい。

 両親に会いたい。友達とまた一緒に学校生活を送りたい。

 お気に入りの服を着て、ご無沙汰な化粧もバッチリして、ショッピングしたい……。

 とにかく、平凡だったあの頃に戻りたい。


 寝ても覚めてもそんな事ばっかり考えるようになったら、体調まで悪くなり始めた。

 まず食欲が落ちて、食事を半分も食べられなくなった。

 夜が眠れなくなって、睡眠不足になった。

 泣きたいわけでもないのに、涙が出た。

 それでなくても予期せぬ事態で生理が止まってしまった体だ。アタシの精神は自分が思っていた以上に、ボロボロになっていたらしい。

 人間は弱い。それを嫌と言うほど思い知らされた。

 17年しか生きていないアタシの未熟な精神……その限界は、呆気ないほど早くやって来た。


 フジサキと文字の勉強をしていた際に、大した難問でもないのに答えが出せなかった途端、アタシは大粒の涙を零して泣き始めた。

 アタシの様子がおかしい事に気が付いたフジサキに『マスター、どうなさったのですか? お加減がよろしくないのですか?』と聞かれたが、アタシはただ泣くだけで何も答えられなかった。

 自分でも何処が悪いのか、分からなかったからだ……。

 ホームシックどころか、アタシは鬱病一歩手前の状態だった。


 フジサキとの勉強会を一時中断した数日後、どうにも体がだるくて、とうとうアタシは寝込んでしまった。

 そんなアタシを心配して、フランツさんがお見舞いに来てくれた。

 ベッドの脇に腰掛けて『どうしたの?』と優しく尋ねてくれた彼に、横たわったままたどたどしい言葉でその時の状況を説明した。

 アタシは途中から泣き始めてしまったから、フランツさんはかなり聞き取りづらかっただろう。

 それでも、アタシの話を最後まで聞いてくれた。

 そして、アタシの手をその大きな両手でギュッと包み込むとこう言った。


「チヒロ、僕は医者じゃないからちゃんとした治療法は分からないけど……とにかく、今の君には夢中になれる『何か』が必要なんだと思う。嫌な事を考えなくて済むような事だ。何でも良いからやってみよう? 僕も手伝うから」


 その頼もしい言葉に涙で顔はグチョグチョ、おまけに鼻水まで垂らしたアタシは何度も頷いたのだった。

 フランツさんは、あれこれアタシが夢中になれそうな事を考えてくれた。


 最初は、フランツさんが自身の経験から薦めてくれた『剣の稽古』だ。

 木刀を素振りするだけでも変化があるかもしれないと言われ、やってみたが20回ほどでバテた。

 体力が標準のアタシには剣術は向かなかった。

 へたり込むアタシを見て、通りかかったアイネが『貴女、弱いのね!』と鼻で笑ってきた。

 その無慈悲な言葉に凹んだアタシを見て、フランツさんはアイネを叱った後、次のプランに移った。


 2つ目は、乗馬の稽古だった。理由は『剣の稽古』と大体一緒だった。

 フランツさんに付き添ってもらって馬に乗る練習をしたが、これもいまいちだった。

 ボーっとしていたアタシが不注意で馬の後ろに立ってしまい、危うく蹴られそうになったため即中止になった。

 あれぇ? アタシってこんなに運動神経悪かったっけ?


 それでも根気良くフランツさんが進めてくれた3つ目のプラン。

 運動が無理ならと、ローナ村で送っていたアタシのアルバイト生活を考慮した上での苦肉の策。

 フランツさん的にはあまりお勧めではなかったみたいだが、アタシにはこれが天職だった。


 ――そう。それが、コルデア家の『メイド見習い』の仕事だったという訳よ。



★チヒロの【 C point 】は、【 1pt 増加 】しました。

★チヒロの【 D point 】は、【 1pt 増加 】しました。





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