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「シェナ、そんなことにはならないから」
アタシはちょっと笑うと、妄想で涙目になっているシェナの肩を叩いた。
「ほんとにぃ?」
「うん。カッコいいとは思うけど、ときめくかって言われるとそれはまた別問題だね」
「チヒロってドライ……あっ!」
シェナが少し慌てたようにアタシを――正確には、アタシの頭を指差した。
「チヒロ、リボンがほどけてる」
「えっ!」
「待って、待って! 直してあげるね」
シェナはそう言うと、アタシの背後に回り、ポニーテールにしている部分をひょいと持ち上げた。
このピンクのリボンは、シェナに貰ったものだ。
メイド見習いをすることになって、それまで肩に流していた髪を適当に後ろで一つ縛りにしていたんだけど、
「チヒロ、それじゃ可愛くないよ!」
とシェナが自分のリボンをアタシにくれたのだ。
「んー、チヒロなら高い位置でポニーテールすると可愛くなるよ!」
……と言ってくれたんだけど、アタシはそれまでだいたい肩までで切りそろえてたから、自分でポニーテールなんてしたことなくて。
正直にそう言うと
「えっ! チヒロってお嬢様!?」
とすごく驚かれた。
でも、もう今ではちゃんと自分でできるようになっている。シェナ先生、ありがとうございます。
「やっぱりチヒロの黒い髪、綺麗だねー」
「そうかな? シェナの金髪ツインテールの方がずっといいと思うけどな。くるくるしてて可愛いし」
「だって私、すごくクセッ毛なんだもん。チヒロの髪、ビロードみたい。光沢があって……高貴な感じだし」
「アタシの世界じゃ普通なんだけどなー」
むしろ、シェナみたいな可愛いメイドさんは、ものすごく需要があります。
一度そう言ったら、「わ、行ってみたーい!」って無邪気に笑ってたっけ。
「はい、結び直したよ」
「ありがとう、シェナ」
「でも、いつも同じリボンだとつまんないよね。今度のお休みに、一緒に買いに行こうね!」
「いいよ、お金が勿体ないし……」
「リボン1本ぐらいならそんなにしないから、大丈夫だよ。あのねぇ、すごく可愛い物がいっぱい置いてあるお店があってね、穴場なの。チヒロも絶対に気に入ると思うんだー」
「……うん!」
そんなことを話していたら、エレノアさんが現れて叱られた。
中庭の水遣りをすっかり忘れてたからね。
アタシは説教から開放されてちょっとぐったりしているシェナを連れて、物干し場を後にした。
洗濯籠を洗い場に置いていると、シェナが『そう言えば……』と先ほどまで閉じていた口を開いた。
「フジサキさん、洗濯場に来なかったけど……何処行ったんだろうね?」
「あぁ……たぶん、フランツさんの剣術の稽古相手してるんじゃないかな?」
「えっ!」
『フランツさん』の単語にシェナがすかさず、反応した。
ここまで来ると『フランツ教』とか言うカルト教団を設立しそうだな、この子は……。
「ふーん。それにしてもフランツ様とフジサキさんの稽古……2人ともカッコいいんだろうなぁ。ちょっと見てみたいかも! チヒロ、今度仕事してるふりして見に行こうよ! フジサキさんも中々の色男だけど……アタシはやっぱりフランツ様かな。チヒロはやっぱりフジサキさん?」
「いやいや、シェナさんや。ビアンカ姉さんにも貸し作りっぱなしなんだから、ちゃんとお仕事しましょうね。大体、あの2人が稽古してる所には高確率でアイネお嬢様が出現するっぽいから目の敵にされてるアタシはパス! そもそもフジサキのヤツはアタシの執事みたいな者であって、恋愛対象としては見てないよ。一緒にはいるけど、お互いそんな風に相手を意識した事はないなぁ……」
「えぇー。チヒロ、淡白過ぎぃ! もっと、恋した方が絶対良いよ!」
手を左右に振って『ないない』と否定すると、シェナが信じられないって顔で見てきた。
エーッ! そんなんじゃ、若い内に枯れちゃうよ! と、シェナがぶうぶう言いながらついて来る。
アタシはそれを軽くスルーして、昼食を取るために屋敷内のキッチンへと急いだ。
……とりあえず、今は忙しいのでこれだけ言っておこう。
シェナと親友になれて、本当に良かった。
コルデア家のメイド見習いになったアタシは……今、ちゃんと心から笑っているよ。
~ 7th Scene End ~
★チヒロの【 C point 】~【 I point 】を必ず記録しておいてください。
★チヒロの【 Key word 】を必ず記録しておいてください。
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