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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第4章 アタシと、コルデア家
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4-≪ 94 ≫

≪ 94 ≫


 とりあえず……夜風にでも当たって、頭を冷やそう。


 アタシは、広い庭を一望できるコルデア家自慢のバルコニーへと向かった。

 幸い誰もいなくて……ホッと胸を撫で下ろす。

 バルコニーに出ると、そこは満天の星空。

 この世界には電気がないから当然、元の世界のように夜通し都市を照らす光源なんて存在しない。

 だから、星明りを遮る物が何もないのだ。

 ローナ村でも毎晩見上げていた星空だが、その美しさは見ていて飽きが来ない。


「はぁー……」

「マスター? こんなところで、何をなさってるんですか?」


 不意に声をかけられて、肩がビクッと跳ね上がる。

 いつの間にか、フジサキがいつもの無表情でアタシのすぐそばに立っていた。


「只今のマスターは、世間一般に言うところの『アホ面』をしていらっしゃいますよ? その様に口をだらしなく開けておりますと、大気中に漂っている塵を吸い込んでしまいます」

「……せめて感傷に浸ってる顔って言ってくれない?」


 いきなり背後から声を掛けないで欲しい。

 アタシは元の通り空を見上げると、再び溜め息をついた。今度のは肺から空気を搾り出すような深いヤツだ。

 バルコニーの手すりに両手をつくと顔を乗せて、またたく星たちをじーっと眺める。

 

 そんなアタシの隣に、仕事を終えてきたであろうフジサキが捲くっていたスーツの袖を下ろしていた。

 チラッと横目で見てみると、いつもはきっちりセットされている髪型が若干乱れていた。

 なので、エプロンのポケットから常備しているブラシを取り出して、無言で差し出した。

 この花柄の小さなブラシは、何でかは分からないが最近フランツさんがプレゼントしてくれた物だ。

 誕生日でも何でもない、しかも年上の異性から物を貰ったので色々邪推してしまったが、『女なんだから身だしなみくらいちゃんとしておけ』という意味なのかもしれないと無理やり自分を納得させた。


 ブラシを差し出されたフジサキが不思議そうにそれを見ている。

 仕方がないので、フジサキの頭を指差してから、自分の前髪を手で梳いて見せた。


「髪型、乱れてるよ」

「あぁ、そういう事でしたか。お借りしても宜しいのでしょうか?」

「うーん……あ、フジサキ。ちょっと、しゃがんでみ?」


 そう言ってフジサキをその場に片膝をつかせてしゃがませると、アタシはブラシで髪を梳かしてやった。

 サラサラの髪にブラシを通している間、フジサキは目を瞑って大人しくしていた。  

 整った鼻筋と伏せられた長い睫毛に自然と目が行く。男のくせに何でこんなに肌が綺麗なんだ? 何の手入れもしてないはずなのに、何だこの敗北感は……。

 それにしても……上から下まで真っ黒のコイツをブラッシングしてると、大きな猫でも飼っている気分になる。

 うーん。猫っていうか、黒豹かな?

 よし、こんな感じでいいだろう。


「はい、できた。もう立っていいよ」

「ありがとうございます、マスター。それはそうとここで何をなさっているのですか?」

「ん? ……ちょっと、星空を見てた」


 まさかフジサキとアイネをくっつける方法を考えていた、とは言えるはずもない。

 ブラシをポケットに戻しながらそう答えると、フジサキは「そうですか」とこれまたいつもの無表情で答えた。


 それにしてもこの『星空・バルコニー・若い男女・2人きり』って、ラブストーリー的には最高のシチュエーションじゃね?

 いや、実際はただの主とその所有物、なんだけどね……。

 だけど、「まさに王道展開」だよね。

 ……そうだ、アイネもフジサキとこのシチュで、まずは自己紹介と趣味の話から始めればいいんだよ。


 今いるこの場所に、アタシじゃなくてアイネがいる。

 その光景を想像して、何だかモヤッとする。


「暖かい季節とは言え、夜はまだまだ冷え込みます。そろそろお部屋にお戻りになった方がよろしいかと」


 考え事をしたまま動かないアタシに、フジサキはそう言って頭を下げた。

 まぁ、確かに……ここでボーっとしてたって、いい案なんて思い浮かばない。

 妙に感傷的になってフジサキに変なことを口走る前に、退散した方がよさそうだ。


「そうだね。そろそろ勉強の時間だしね」

「このままお部屋にお伺いすればよろしいでしょうか?」

「んーと……着替えてちょっと休みたいから、30分後。それでどう?」

「畏まりました」


 フジサキはそう言ってアタシを屋敷の中へと促した。そっと背中を押される。


 そうだね。悩んでも仕方がない。

 まずは、フジサキ本人と話してみてからだ。

 それこそ、女性の好みとかさ……。

 ……って、携帯端末機に好みってあるのかな?


 フジサキと連れ立って、バルコニーから離れる。

 アタシの頭上には、あの素晴らしい星空がさっきよりもひと際綺麗に……それこそ、宝石を散りばめたように輝いていた。





                        ~ 9th Scene End ~


  第4章「アタシと、コルデア家」≪ 完 ≫





 これで、チヒロがコルデア家の一員になるまでのお話は終了です。

 お疲れさまでした。

 このまま、「第4章 あとがき」へ進んでください。

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