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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第4章 アタシと、コルデア家
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4-≪ 74 ≫

≪ 74 ≫


「チヒロ?」


 頭を抱えたままうんうん唸っていると、背後から名前を呼ばれた。

 振り返らなくても声だけで誰だか分かる。


「あ、シェナ……」

「こんな所でどうしたのー?」

「あはは……ちょっと、考え事してて」


 心配そうに顔を覗き込んでくるシェナに、乾いた笑いでアタシは応えた。

 アイネお嬢様のせいで悩んでるって、喉元まで出かかったがゴクンと飲み込んだ。

 この事はアイネとの女同士の約束で、他言するのは厳禁と釘を刺されている。


「ふうん……?」


 シェナは少し首を傾げたあと、ポンと一つ手を打った。


「そうだ。さっき、調理場で失敗作のクッキーを貰ってきたんだ。一緒に食べない?」

「あ、うん」

「後でチヒロの部屋に行くねー」


 シェナはそう言うと、ひらひらと手を振ってたたたっと廊下を走っていった。



 シェナとの夜のおしゃべりも、もっぱらフランツさんの話だった。

 こういうところが優しくて素敵、だとか、あのときの立ち振る舞いがカッコ良かった、だとか。

 でも、よくよく聞いてみると、全部「シェナの目撃情報」なのだ。

 コルデア家の御曹司とメイド……そりゃ、所詮叶う事のない夢なのかもしれないけど。

 シェナは辛くないのかな?


「ぜーんぜん!」


 シェナは手をぶんぶん振ると、楽しそうに笑った。


「私から見たら雲の上の存在だもん。ただ、同じお屋敷にいて、近くで姿を見られるだけで幸せ」

「そんなもんかなあ……」

「今はチヒロのおかげで、フランツ様もずっとお屋敷にいらっしゃるし……本当に最高!」

「スパイの監視っていう名目だからね」


 自虐的にそう言うと、シェナがぷっと吹き出した。そんなシェナを見てアタシも思わず笑ってしまった。

 こんな冗談が言えるだけ、アタシも元気になったもんだと思う。


 シェナは両手を組み合わせると、うっとりとした様子でちょっと天を仰いだ。

 ……そこに、フランツさんの顔でも浮かんでいるのだろうか。

 宙を見つめるシェナの顔は幸せそうで、とっても可愛い。


「でね……それでね。たまーにね、何かの機会に『シェナ、ありがとう』って言われるとね。もうそれだけで、空に飛んでいけそうな気分になるんだー」

「……そっか」



 シェナの話を聞きながら、アイネもそう思えるようになればいいのかな、と思った。

 フジサキと目も合わせられない、口もきけない、というのはあんまりだ。

 確かに、フジサキとアイネが上手くいってもらっては困るけど……だからと言って、せっかくの初恋がどうなってもいい、と思っている訳じゃない。


 とにもかくにも、まずはフジサキだな。

 相手は元携帯端末機、空気を読むことは勿論、乙女心に配慮するなんて芸当はできない。

 じゃあどこまでならできるのか……それを探れば、アイネへのアドバイスも浮かぶってもんだ。

 よし、本人……フジサキと、ちゃんと話し合いをしよう。


 まだまだ続くシェナのコイバナを聞き……やや不格好なクッキーを頬張りながら、アタシはそんなことを考えていた。





                        ~ 9th Scene End ~


  第4章「アタシと、コルデア家」≪ 完 ≫





 これで、チヒロがコルデア家の一員になるまでのお話は終了です。

 お疲れさまでした。

 このまま、「第4章 あとがき」へ進んでください。

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