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「フジサキ、ちょっと落ち着いて!」
アタシはフジサキの腕を取ると、強引にこちらの方に振り向かせた。
フジサキの肩の向こうに、フランツさんの険しい眼差しが見える。
フランツさんの表情が怖い。彼がこんな表情をするとは思っていなかった。
「マスター、何故止めるのですか? 私は何も……」
「フジサキ、考えもなしに色々言い過ぎなんだよ。アタシ達は部外者なんだから、この世界の事情にとやかく言う資格はないの」
「……ですが……」
「ですが、じゃない。当事者でない人間が……」
「フランツ様も当事者では……」
「でも、この国の人間だよ。この国の人間にとっては、他人事じゃないんだよ。今も根強く残る、重大な過去なんだ」
「…………」
アタシの言葉に納得したのか、フジサキは黙り込んだ。
アタシはギュッとフジサキの腕を強く掴んでから、そっとその手を離した。フジサキの前に進み出る。
「フランツさん、すみません。興味本位で聞く話じゃありませんでした」
「あ、いや……」
フランツさんが、一瞬でバツが悪そうな表情に変わった。
『長角族』はNGワード……千尋、覚えた。
もう絶対、言わないようにしよう。
「ごめん……チヒロ。怒鳴ったりして」
「いえ。……ほら、フジサキ」
アタシが促すと、フジサキはおとなしく頭を下げた。
「……フランツ様、申し訳ございません」
「いや……」
――3人の間に、嫌な沈黙が流れた。
そのとき、一陣の風が吹き抜け、それと同時に広場に面した通りにさっきの活気が戻ってきた。
ざわざわと騒がしくなった通りからの声で、アタシ達は現実に引き戻された。
アタシ達の方を見て、ブルルルッとあっちゃんが嘶いた。
蹄で地面を叩き、『早く行こう』とアタシ達を急かしているみたいだ。
「そろそろ……出発しようか?」
沈黙と静寂が破られた。
アタシは黙ってコクンと頷いた。……何も言えなかった。
――君達に何が分かるッ!!
フランツさんの『君達に』って言葉には、つまりアタシも含まれてるんだよね。
親切にしてくれてはいるけど、完全に信じてくれてはいないって事だ。
感情があらわになった一瞬に出た、彼の本音――。
★チヒロの【 A point 】は、【 4pt 減少 】しました。
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