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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第4章 アタシと、コルデア家
469/777

4-≪ 43 ≫

≪ 43 ≫    ~ 8th Scene Start ~


―― ある村の英雄譚 ――


 人族が多く住むイオ・ヒュムニア大陸。

 その大陸北西部から商人、旅人、冒険者、傭兵がウェンデール王国への国境に進入するには大きく2つのルートを選択させられる事となる。

 

 1つ目は、山脈を通らずに平原をひたすらに進む迂回ルート。

 もう一つのルートと比べると、王都に到着するのに3週間の差が出てしまう。

 道を急がない旅人か、魔物討伐の経験の浅い新人冒険者などが使う平坦な道程だ。

 

 もう一つは、大陸中央を分断するセントラーデ山脈の悪路を通る最短ルート。

 この山脈には、凶悪で大型の魔物が多く生息する、切り立った崖を通らなくてはならないが、鮮度が命の生鮮商品などを取り扱う商人達はあえてこのルートを通り、ウェンデール王国や城塞都市マルゥスに荷を運んでいる。

 この悪路を出来るだけ安全に通過するためにも、冒険者や用心棒となる傭兵は不可欠な存在なのだ。

 しかし、そんな屈強な戦士達が付いていても倒せない強者とは必ずいるもの。

 その中でも極めて危険な存在として恐れられているのが、亜竜ワイバーンだ――。

 亜竜ワイバーンは、大空を飛び回る翼を持った巨大な爬虫類族でグラン・パナゲアの全土に様々な種類が生息している。

 その生態は大陸、地域、気候によって独特な進化を遂げている。

 最も小型で、熟練の冒険者がパーティを組めば難なく狩れるとされる、火吹き赤亜竜(レッド・ワイバーン)、毒性のある果実や魔物を餌とし、体内で生成した猛毒を使った攻撃を得意とする中型の毒吐き亜竜(ベノム・ワイバーン)

 その戦闘力と魔力はドラゴンにも匹敵すると言われる暴君亜竜(アサルト・ワイバーン)を筆頭に、実に様々な種類が冒険者によって報告されている。


 その山脈ルートに1匹の大型亜竜(ワイバーン)が住み着いてしまったのは、1ヶ月ほど前の事だった。

 最短ルートを通過しようとした商人達はこぞってこの亜竜ワイバーンの急襲を受け、迂回を余儀なくされる状況となったのだ。


 その知らせはすぐさま冒険者ギルドや王都に報告され、一攫千金を狙う冒険者パーティや王都の優秀な騎士達で編成された討伐隊が派遣された。

 が、死者や負傷者が後を絶たず、苦戦や撤退を強いられていた。


 山脈を抜け、王都へと繋がる街道の入り口付近を新たな縄張りとしたのはその種の中で『特大』と呼ばれる大型の女王蜂亜竜クイーンホーネット・ワイバーン

 昆虫に酷似した姿と翼を持ち、体は雀蜂のような黄色と黒の縞模様で尾の先には鋭い針が付いている。

 絶えず大きな羽音を立てながら大空を飛び回り、その翼から打ち出される衝撃波は強力だ。

 山脈周辺に広がる村々にもこの亜竜ワイバーンによる被害が広がっており、村人達は戦々恐々の日々を過ごしていた。


 ――その男が、現れるまでは……。


 その日は強風が吹き荒んでいた。

 そんな中、1人の男がある村にやって来た。

 山脈に一番近く、最も亜竜ワイバーンの被害にあっていた村に来たその男は、武器となるような物は愚か、手荷物すら持っていなかったと村人達は口々に言った。

 ふらりと立ち寄った旅人にしてはいくら何でも軽装過ぎる服装、そして一度見たら忘れない左右で色の違う瞳、長い白髪――かなり特徴的な、若い男だった。

 村人達からの奇異の眼差しに臆する事なく、男は真っ直ぐ村長宅を訪ねるとこう言った。


亜竜(ワイバーン)を退治しに来た。巣に案内しろ」と――。


 村長は『危険だ』と忠告をしたが男は聞く耳を持たず、村長が案内を渋ると縄張りの場所だけを聞いて一人で向かおうとした。村長は仕方なく、自分と村の若者数人を連れて縄張りへと向かった。

 経験豊かな冒険者も、エリート集団であった王都特別討伐隊ですらも敵わなかった強敵をこの男1人でどうにか出来るはずがない。

 村人達は最初から期待していなかった。

 それどころか、村長も若者達も二度と帰ってこないだろうと絶望し、涙を流す者もいた。


 だが、彼らは生還した。

 重症を負うどころか、かすり傷一つなく全員が無事だった。

 最初の姿を見た時、村人達は道半ばで引き返してきたのだろうと思った。

 しかし、青年が手に持った物を見るやその考えは逆転した。

 男が女王蜂亜竜の最大の特徴でもある、巨大な尾針を背負っていたからだ。

 信じられない事だが、目の前で起きているのは現実以外の何物でもなかった。

 男はあの誰も倒すことの出来なかった魔物をたった一人で倒したのだ。

 村人達が唖然とする中、男は「世話になった」と一言だけ残して去って行った。

 男の後ろ姿が放つ異質な空気に、引き止めようとする者は誰もいなかった。

 彼こそが村を救った英雄だと言うのに――。


 男について行った村長達ですら、感謝の言葉を述べる事もなく俯いていた。

 男が去ってから村人達が口々に事の真相を村長に尋ねたが、村長は恐ろしい物でも見たかのように顔を青ざめさせた。

 それは一緒に行った青年達も同じだった。

 額に脂汗を滲ませると、震える声で村人達の質問に短く答え、それ以上の事には口を閉ざすのだった。


「あれは人の所業ではなかった。あの男は化け物だった」と――。


 凶暴な亜竜がたった一人の青年に狩られたと言う事実は、信憑性が低く誰も信じなかった。

 ギルドや王都には『亜竜の逃走及び突然死』として片付けられ、その事実は隠蔽された。

 この前代未聞の亜竜討伐劇が人々の記憶から忘れ去られ、風化していくのは実に早かった。


 当然、その男が誰で、その後何処へ行ったかを知る者は、誰一人いない。





 このまま、≪ 260 ≫ へ進んでください。

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