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気を取り直して、メイドさんが用意してくれた着替えの話をしよう、そうしよう。
貴族だから、フリルとかリボンとか、レースとかがこれでもか! って、くらいデコってあるキラキラ&フリフリドレスが置いてあったらどうしようかと思ったが、綺麗に畳まれた着替えを広げて見ると、取り越し苦労であることがわかった。
フランツさんやアイネが着ていたような、質素なようでいて目を凝らして見ると細かい刺繍が入った高級感溢れる純白のシャツと、悪趣味にならない程度にフリルが付いた薄い朱色のロングスカートだった。
もちろん、下着もセットで置いてあった。至れり尽くせりだ。
スパイ容疑で監視対象になっているのを忘れそうになる。
その服にせっせと着替えて浴室を出ると、ちょうどエレノアさんがやって来た。
あまりにもタイミングが良すぎる登場に「この人、アタシが出て来るまでスタンバッてたのか?」と疑念を抱いてしまったが、エレノアさんは人の良さそうな笑みを浮かべて『フランツ様とお連れの方がお待ちですので、ご案内致します』と客間まで案内してくれた。
客間に着くまでの経路で、広い廊下といくつかの部屋の前を通った。
染み一つない乳白色の壁、塵一つ落ちていない廊下。
その所々に絵画や彫刻、花瓶などの調度品が置かれている。
審美眼の能力0のアタシにだって、高級品だと分かる品ばかりだ。
元の世界でだって、こんな豪邸に行った事はない。
やっぱり、敵国のスパイかもしれない自分達がここに住むのは場違いなんじゃないだろうか。
悶々と考えている内にアタシは客間の扉の前にいた。
エレノアさんが控えめなノックをして『お連れしました』と一声掛けると、扉を開けてくれた。
「遅くなって、何か……すいません」
とりあえずお詫びを言いながら客間に入った途端、室内の空気がやたらと重々しく感じた。
原因は、言わずもがな。絨毯が敷かれた広い部屋の中心に置かれた長テーブルに向かい合って座る2人の男、1人は柔らかな微笑を浮かべ、もう1人は固い無表情。
足を組んで優雅に腰掛けるフランツさんと、背もたれから拳1個分の隙間を空けて、ビシッと姿勢良く椅子に座るフジサキ。
お互いに傷だらけでもなく、部屋の中がグチャグチャになっているでもない。
2人とも無傷で平然としている。
ガチバトルにはならなかったみたい。良かった。ひとまず、安心だ。
●○●CHOICE TIME!●○●
「ケンカしてないんならいいや」
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「でもこの雰囲気は気になるなあ」
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