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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第4章 アタシと、コルデア家
442/777

4-≪ 16 ≫

≪ 16 ≫


「チヒロ?」


 頭を抱えたままうんうん唸っていると、背後から名前を呼ばれた。

 振り返らなくても声だけで誰だか分かる。


「あ、ビアンカ姉さん……」

「こんな所でどうしたんだい? もう今日はおしまいだろ?」

「あはは……ちょっと、考え事してて」


 ちらっと心配そうにアタシに視線を向けるビアンカ姉さんに、アタシは慌てて乾いた笑いで応えた。

 アイネお嬢様のせいで悩んでるって、喉元まで出かかったがゴクンと飲み込んだ。

 この事はアイネとの女同士の約束で、他言するのは厳禁と釘を刺されている。


「考え事?」

「えーと……」


 そうだ。こう言っちゃあ何だが、ビアンカ姉さんは男心に詳しそうだ。

 フジサキにそんなものがあるのかどうかわからないが、聞いてみるだけ聞いてみようかな。


「あのですね。恋愛の何たるかもわからない朴念仁がいたとします」

「はぁ」

「ビアンカ姉さんなら、どうやってこういう男にアプローチします?」

「……」


 ビアンカ姉さんはアタシをまじまじと見つめたあと、「なあんだ」というような顔をした。


「そうかい……ついにチヒロも自覚したんだね」

「へっ!?」


 あれっ、ちょっと待った!

 マズい、マズい。

 どうやらビアンカ姉さんの中では、アタシが「朴念仁に恋してる」設定になっているようだ。


「ち、ち、違います! アタシの話じゃないですよ!」

「まぁ、否定したくもなるだろうねぇ……」

「いや、だから……」

「とにかく黙って聞きな。いいかい? 男にはねぇ……『男気』ってもんがあるんだよ」

「…………男気?」


 誤解はどうあれ、何かちょっと面白そうな話だ……。

 アタシが乗り気になったのが分かったのか、ビアンカ姉さんは満足そうに頷いた。


「そう、男気。頼られると張り切ってしまう、面倒だと思っても逃げられない。義理堅いというか……信頼されたら裏切れない。そして……」

「そして?」

「この女には自分がいないと……ってのに弱いのさ」

「へぇ……」


 そう言えば……フジサキにも、そういうのはある気がする。

 マスターを守るのが自分の仕事だ、とか言ってくれたし、アタシがわんわん泣いたときもずっと慰めてくれたし……。

 あれ? でも、アレはあくまで『忠誠心』だろうか? 『男気』とは違う?


「そしてね。男のそういうツボを巧妙に突ける女がイイ女、ということだね」

「ツボ……」

「朴念仁だろうが、男である以上どこかにツボはあるはずさ。まずはそれを探すことだね」


 ビアンカ姉さんはそう言うと、「まぁ、頑張んな」とニヒルに笑い、足早に去っていった。

 いや、頑張るのはアイネだけど……。

 とは言え姉さん、カッコいいです。去り際も素敵すぎます。


 うーん、そうか。とにもかくにも、まずはフジサキだな。

 相手は元携帯端末機、はたしてそんなツボがあるのかどうかもわからない。

 だけど……もしフジサキにそういうものがあるなら、それを見つければアイネへのアドバイスも浮かぶってもんだ。

 よし、本人……フジサキと、ちゃんと話し合いをしよう。


 ビアンカ姉さんに言われたことを反芻しながら……アタシはふむふむと独り頷いていた。





                        ~ 9th Scene End ~


  第4章「アタシと、コルデア家」≪ 完 ≫





 これで、チヒロがコルデア家の一員になるまでのお話は終了です。

 お疲れさまでした。

 このまま、「第4章 あとがき」へ進んでください。

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