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「……前から聞きたいことがあるんだけどよ」
「え?」
怪我人の食事の手伝いを終わらせてから食器を洗っていると、グレッグさんが唐突に切り出した。
「フランツ副隊長のことなんだが」
「うん」
「……長い名前、って言ったんだってな?」
「言ったよ。だって、フランツ、なんちゃら、なんちゃらって……長くない?」
アタシが言うと、グレッグさんが呆れたような顔をした。
「ブレイズ家は、3つの家系に分かれているんだ。フランツ副隊長の家である『コルデア』、王都の守護を命ぜられた『アルノド』、そしてマルトゥスの領主『マルトゥス』。つまり、これから行く城塞都市マルトゥスはブレイズ家が統治する都市なんだよ」
「へぇー……」
「ブレイズ家は先の戦争の功績から、貴族の中でも一目置かれた存在であり王政に関与できるほどの影響力を持っている。ティルバ連合にとっては長年の憎き宿敵でもあるわけで、その名を知らぬ者はまずいないんだ」
「ほぉー……」
「……本当に知らねぇーんだな」
間抜けな相槌を打つアタシを、グレッグさんはまじまじと見つめた。
そして、ガハハハ……と大声で笑い出した。
「こりゃ、とんだスパイだ!」
「スパイじゃないって言ってるじゃん!」
「グレッグ様、フランツ様に関していろいろ教えていただき、ありがとうございます」
「ちょっとフジサキ、お礼を言ってる場合じゃないよ。ちゃんと否定しないと!」
「しかし貴重な情報でありますから、記録を……」
「オメーら、おもしれぇな」
アタシたちを見てゲラゲラ笑うグレッグさん。
……だけど、不思議とムカつかなかったんだよね。
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