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「お前らも知ってるお方だ! 何、取って食われるような事はまずねぇから安心しろよ。それより容疑が晴れたら王都に来るんだろ? そん時は俺の所に来いよ! 盛大にとは言えねえが歓迎の宴を開いてやっから! お前らとの旅、悪くなかったぜ!」
「ちょっとグッさん! 1人でお別れモードに入んないでよ。アタシ全然、話についていけてないんだけどッ!」
「んな事言われたって、俺もお前らとゆっくり話してられるほど、暇じゃねーんだよ。――おっと、いけねぇ! 大事なモン忘れてたぜ!」
文句を言うアタシにグッさんが何か思い出したかのか、大きな声を上げた。
御者台からズイッと身体をアタシの方に乗り出して、チョイチョイと手招きをした。
何なんだと思いながら素直に近寄ると、にゅっと給食袋ぐらいの大きさの袋を手渡された。……大きな手。
「え……?」
「気に入ってたみたいだから、やる」
袋の口を開けてみると――アタシがフジサキと文字の勉強をするときに使っていたミニ黒板が入っていた。そして、何本かのチョークも。
「それがありゃ、どこでもコノセカイとやらの文字の勉強ができるだろ?」
「こんなの貰っていいの? ……軍の備品の横領なんじゃない?」
ちょっと泣きそうになって、思わず憎まれ口を叩いた。
――嬉しかったんだ。
最初の取り調べで、あれだけ「異世界なんてフザけたことを」なんて言っていたグッさんが、アタシの言うことを――アタシのことを信じてくれたんだって思ったら、涙が出そうになるぐらい嬉しかった。
「細けぇーことは気にすんな。誰も使わないしな!」
「やっぱ横領じゃん。……でも、ありがとう。大事に使うよ」
どうにか笑顔でお礼を言うと、グッさんは照れたように禿げ頭を掻いて「おう!」と言った。
「それと、これは俺の経験からの忠告なんだが……あの方が酒をほんの少しでも飲んだ時は絶対に傍に寄るな。いいか、絶対だぞ?」
「はぁ? 何それ? ますます意味が分からんッ!」
「まぁ……お前みたいな胸も尻もねぇ、まな板が立って歩いているみたいなガキ相手じゃ間違いなんて、まず起きないだろうけどな!」
「んなぁ!? 何かと思えば最後の最後にとんでもないセクハラ言いやがって……! 誰がまな板じゃ、コラァ! ぶっ飛ばすぞ! このエロハゲ親父!」
さっきのアタシの感動を返せ、この海坊主!
キレるアタシを宥めながら、グッさんはもう一度、力強くアタシの頭を撫でた。
そう言えば、男の人に頭を撫でられるなんてお父さん以外、初めてかもしれない。
お父さん……今頃、何してるかな? アタシのこと、心配してくれてるかな?
いかん、いかん。隙あらばシリアスに陥っちゃう。
気持ちを切り替えろ。前だけ見て、元の世界に帰ることだけ考えて、毎日を生きるんだ。
グチャグチャになった頭を押さえて物思いにふけっていると、ガハハッとグっさんが豪快な笑い声を上げ、手綱を振り下ろした。
パシンと乾いた音が響き、叩かれた馬が高らかに嘶く。
荷馬車がゆっくりと前進し始める。
彼の「達者でなぁー!」と高らかに響く声を残して、王都に向かう部隊は広場を去って行った。
とりあえず去っていく隊列に手を振るアタシと、その横に立つ直立不動のフジサキ。
結局、ちゃんとした説明はしてもらえなかった。
不当な扱いを受けることはないという事でいいのだろうか?
フジサキと2人、これからどうすれば良いのかと溜め息交じりに辺りを見回した。
~ 3rd Scene End ~
第3章「アタシと、グッさん」≪ 完 ≫
これで、チヒロの3つ目の冒険は終了です。
お疲れさまでした。
このまま、「第3章 あとがき」へ進んでください。




