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「あれからよくお休みになれているようで安心いたしました」
その後。
ハーブティを飲みながら、フジサキが言った。
多分、初日の夜の夢のことを言ってるんだと思う。
「うん。毎日、アルバイトでクタクタだからさ」
「それはようございました」
「そう言えばさ、アタシ今日スッゴい事に気が付いたんだけどさ……」
「凄い事? それはどのような事でしょうか?」
「うん、またフジサキについてなんだけど」
「私でございますか?」
フジサキはポカンとした顔で飲んでいたハーブティーをテーブルに置いた。
ついでに、小首を傾げるイケメンフェイスのハッピーセットがもれなく付いてくる。
昨日もこの顔は見た、完全にデジャブだ。
フジサキにはいまだに謎が多い。
★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 夢 】を失いました。
★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 謎 】を手に入れました。
昨夜もアタシはフジサキを質問攻めにしていた。
それで分かったのは以下の事だ。
『彼が擬人化端末機である事』
『実年齢は1歳5ヶ月である事』
『防水・防塵・耐衝撃性が実装されている事』
『端末機だった頃にダウンロードしたアプリ(一部不可)、及び電子書籍などを使用できる事』
『新しい知識を完全記憶できる事』
『衣服が着脱可能な事』
まずこの中でツッコミたいのは年齢だね。「フジサキって何歳なの?」って聞いたら、「元の世界の時間で換算するなら1歳と5ヶ月でございます」って律儀に返されてアタシはハーブティーを噴き出した。
1歳って……こんな、どう見たって成人にしか見えない赤ちゃんがいてたまるかッ!
……って思っていたら、どうやら端末機として製造されてからの月日を答えたらしい。
驚かせんなし……。
ちなみに設定年齢は27歳だそうだ。
それから最後の項目については現在実行されていて、フジサキはスーツの上着を脱いでいてワイシャツに黒のベスト姿だ。
『その服って脱げるの?』と聞いたら、「もちろん、可能でございます」と多感な年頃の乙女の前で真顔のストリップショーを始めようとしたので止めさせた。
パンツにチップでもねじ込めってか、アタシにはそんな遊び金はないんだぜ。
スーツを脱ごうとするフジサキは変な色気が出ていて正直ビビッたし、柄にもなくドキドキしたのは秘密です。
これらの事を踏まえると何処までが端末機で、何処までが人間なのかその線引きが難しい。
そのうち、某アニメの少佐の様に『ネットは広大でございますね』とか言い出しそうだ。
それはそれでメチャクチャ強そうで頼もしいけど……。
「アンタさ、この世界に来てから『充電』……一回もしてないよね?」
「あぁ……その事でございますか。それならば問題ございませんよ」
「そうなの? この世界、電気がないっぽいから土壇場で『バッテリー切れで動けません。充電してくださいマスター』とか言わないでよね」
フジサキの口調を真似ながら念を押すと、彼はおもむろに先程まで手にしていたカップを指差した。
ん? そのジェスチャーは何を意味してるんだい?
「この様に口から直接エネルギーを摂取しておりますので、バッテリー残量は随時100%でございます」
「つまり人間と一緒ってこと? でもトイレに行くとこ見たことない気が……」
「私は摂取した食物を体内で完全還元する事が可能なのです。ですから体外に排出される物は何一つございません」
「へッへぇ~。それはすごいなー」
棒読みな生返事をしてしまった。
なるほど、イケメンはウ●コなんてしないんですね。そうですか……ふーん。
新手のエコかな?……そうだ、環境に優しい男。
それがフジサキなんだ。
そういう事にしておこう。
フジサキの体内には溶鉱炉でもあるんだろうか? 本当にド●えもんみたいだ。
また新たな謎を解決したアタシは、引き攣った笑顔で次の話題を考えるのに徹した。
こんな感じで、アタシの5日目の夜は更けていく。
~ 6th Scene End ~
★チヒロの【 Key word 】を必ず記録しておいてください。
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