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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第2章 アタシと、ローナ村
215/777

2-≪ 91 ≫

≪ 91 ≫


 そんな事を考えている内に、アタシ達は30分ほどで村長の家に着いたのだった。


「僕はここで待っているから」


 そう言ってアタシをあっちゃんから降ろしてくれたフランツ副隊長は、門より先には入って来なかった。

 気を使ってくれているのだろう。


 玄関の前に立つ。

 一晩中、考えていた事を思い出そうとするが……ここに来て頭が真っ白になってしまった。

 何と言って別れを告げれば良いのか……。何と言えば、二人をガッカリさせずに済むのか。

 あれだけ考えたのに、何一つ思い出せない。

 数分間、玄関の前で棒立ちになっていた。

 覚悟を決めて、いざドアをノックしようとするとそのドアがゆっくり開いた。


「あ……」

「おかえりなさい、チヒロさん。さぁ、早くお入り」


 そこには、出会った時と同じ優しい笑みを携えたロイズさんが立っていた。

 突っ立っているアタシに「おかえりなさい」と言って、家に招き入れてくれた。

 さらに、


「迎えに行ったのに連れ帰れなくて、本当にすまんかった。役立たずな年寄りを許しておくれ」


と頭を下げられてしまった。


「あの……そんな。ロイズさん、あのですね」

「そうじゃ、チヒロさんの部屋で妻が待っているんだ。行ってやってくれるかい?」


 アタシがモタモタしているうちにロイズさんはそれだけ言い残すと、静かに書斎に行ってしまった。

 1人玄関に残されたアタシになすすべはなく、言われた通り、自分が使っていた部屋に向かうしかなかった。


 ドアの前で深く息を吸い込んでからノックをしてドアを開けた。

 部屋の中、ベッド脇の椅子に腰掛けていたテレサさんがこちらを振り返って立ち上がった。


「あらあら、おかえりなさい、チヒロさん。まぁ、私ったらここでボーっとしてしまっていて……お腹が空いたでしょ? 今、朝食に――」

「ごめんなさい、テレサさん。アタシ……アタシ、この村を出て行くことにしました。この後、城塞都市マルトゥスにフジサキと一緒に移送されます。外で副隊長さんを待たせているんです。すぐ、行かなくちゃいけないんです」

「……」


 テレサさんの言葉をさえぎって、言いたかったことを一気に吐き出した。

 アタシはテレサさんに頭を下げる。

 申し訳なくて、そんな事しか言えない自分が恨めしくて顔を上げられなかった。

 テレサさんはそんなアタシを見つめて静かに黙っている。


 部屋に流れる静寂。

 すると、アタシの体をテレサさんがギュッと抱きしめた。

 伝わってくる温もりに恐々と顔を上げると、テレサさんはアタシを愛おしげに抱きしめ、背中をぽんぽんと優しく叩いてくれている。


「貴女が家に来た時、娘が帰ってきてくれたと思ったの」

「え?」

「私達の娘――ソフィアって、言うの。私達夫婦にはなかなか子供が出来なくて、やっと授かった大切な娘だったの。主人はそれは喜んで大金をはたいて、あの鏡台を買って来たの。それだけ私達にとってあの子は大切な存在だった」


 アタシから名残惜しそうに離れると、テレサさんはアタシの手を引いてベッドに近づいた。アタシをそこに座らせると、黙ってアタシの隣に腰掛けた。

 ソフィアさん……たぶん、アタシが借りた服の持ち主だ。


「貴女と同じ歳になった時、あの子は病に罹った。近くの町のお医者様にも診せたけど、治る見込みがないと言われたわ。そのままあの子は……お嫁に行く事も出来ずに、私達を置いて逝ってしまった」

「……」


 言葉が出なかった。

 アタシが服を着たとき、テレサさんが悲しそうな顔をしたのはこれが理由だったのか。

 アタシと同い年、17歳で逝ってしまった娘。

 その娘の姿が重なって見えたのだ。


「だから貴女が家に住む事が決まった時は本当に嬉しかった。きっと主人も同じ気持ちだったんだと思うわ」


 アタシの頬に手を添えて、テレサさんは朗らかに笑った。


「でも、それと同時に貴女はいつか、ここ出て行くんだと覚悟したわ。ここに貴女を留まらせてはいけない。そう自分達に言い聞かせたわ」

「でも、アタシ……『終末の巫女』としての役目も、自分で勝手に始めた仕事も、全部放り出して行こうとしてるんです。アタシはずるいんです」


 耐え切れずに、アタシは涙を流した。

 ボロボロ零れ落ちる涙をテレサさんが優しい手つきで拭ってくれる。

 いつでも優しく接してくれたテレサさん達を裏切る。

 あぁ、アタシはやっぱり悪いヤツだ……自己嫌悪で胸が一杯になっていく。


「泣かないで。貴女はずるくなんて無いわ。貴女をここに引き止めたのは私達なんですもの。ずるいのは私達の方よ。チヒロさんは何にも悪い事なんてしてないわ」

「でも……でも、アタシはッ!」

「これ以上、自分を責めないでちょうだい。貴女から、私達も村の人達も、十分過ぎるほどたくさんの幸せを貰ったわ。だから今度は、貴女が幸せになる番……」


 テレサさんはアタシの言葉を遮って強い口調でそう言った。

 もうこれ以上、アタシが罪悪感に囚われないように。この村に未練を残さないように。


「テレサさん……」

「いってらっしゃい、チヒロさん。貴女はソフィアの分まで精一杯生きて、誰よりも幸せになってちょうだいね」

「……はい」


 アタシ達は再び抱き合って、泣いた。

 アタシは声を上げて泣いて、テレサさんはそんなアタシの背を撫でながら静かに涙を流していた。

 こんなにも優しい人達に囲まれていたアタシは、何て幸せ者だったのだろう。

 それが束の間であっても、アタシは決してこの村を、この人達を、生涯忘れる事はないだろう。

 ……そう、思った。



★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 別 】を失いました。

★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 娘 】を手に入れました。





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